日本初の子ども靴サブスクレンタル。
子どもが気兼ねなく靴を使い、
次へとつなぐ。その循環を育てたい
- 谷口 昌優さん Masahiro Taniguchi
- 株式会社SlowFast 代表取締役

- 谷口 昌優さん Masahiro Taniguchi
- 株式会社SlowFast 代表取締役
子どもの靴は、サイズアウトが早い。まだ履けるうちに処分される一方で、成長を見越して大きめの靴を選ぶ家庭も少なくない。そんな子育て世代の“当たり前”に違和感を抱いたのが、株式会社SlowFast代表・谷口昌優さんだ。自宅の浴室で中古靴を洗うことから始まった子ども靴のサブスクリプションサービス「Kutoon」は、今、単なる靴の貸し借りにとどまらない広がりを見せている。
子どもの靴は、サイズアウトが早い。まだ履けるうちに処分される一方で、成長を見越して大きめの靴を選ぶ家庭も少なくない。そんな子育て世代の“当たり前”に違和感を抱いたのが、株式会社SlowFast代表・谷口昌優さんだ。自宅の浴室で中古靴を洗うことから始まった子ども靴のサブスクリプションサービス「Kutoon」は、今、単なる靴の貸し借りにとどまらない広がりを見せている。
「うちの子は、なぜ、
毎日同じ靴を履いているんだろう」
大手物流会社に勤務していた谷口さんに転機をもたらしたのは、新型コロナウイルスの流行だった。在宅勤務が始まると、当時2歳だった長男と過ごす時間が増え、昼休みには子どもに靴を履かせて散歩へ出かけることが日課に。そんなある日、玄関でふと手が止まった。
「毎日、同じ靴を履かせているな、と。考えてみたら、普段履きのスニーカーは、それ一足しか持っていなかったんです。」
大人であれば、目的やファッション、天候や季節に合わせて靴を履き分ける。けれど我が子には一足しかない。成長が早く、すぐにサイズアウトする子どもの靴を、何足も買い揃える家庭は多くない。周囲のパパ友やママ友に話を聞いても、それが子育て世帯の当たり前だった。
さらに、サイズアウトした靴は、まだ十分に履けるにもかかわらず、多くが処分されていることを知る。「この品質で捨ててしまうのか」と、その驚きが起業のきっかけになった。そして、安易に捨てずに誰かが使える仕組みをつくれないかと、行動を起こしていく。

前例がないなら、
まずは自分で試してみる
当時の谷口さんは、靴の専門家でも、クリーニング業界の関係者でもなく、子ども用品の知識もなかった。それでも、フリマアプリで中古の子ども靴を20〜30足購入し、自宅の浴室で洗い始めた。「洗ってみたら、思った以上にきれいになるんですよ。その靴を我が子や友人の子どもたちに使ってもらいました。」
洋服や本、おもちゃなど、ユーズド品を選ぶこと自体はめずらしくない。一方で、中古の靴には少し違う難しさがある。知らない人が履いたものへの心理的な抵抗感や、メーカーごとに異なるサイズ感など、足に触れるものだからこそ不安がつきまとう。だから谷口さんは、「大丈夫です」と言葉で説明する前に、実際に使ってもらうことから始めた。靴を貸し出し、返却時に感想を聞く。半年間で約60家庭に協力してもらい、中古の子ども靴を循環させる仕組みが、子育て家庭の役に立つのか確かめていった。
試行錯誤を重ねるうち、谷口さんは「洗う」行為そのものの奥深さを知っていく。そこで教えを請うたのがクリーニング業界だった。コロナ禍で新たな事業を模索していたこともあり、関係者は惜しみなく技術を伝授してくれたという。そして、谷口さん自身もクリーニング師の国家資格を取得する。
「子ども靴の課題は、きっと何十年も前から誰かが感じていたはずなんです。現実的にやれなかったのか、ただ単にやる人がいなかったのか。たまたま、自分には挑戦できる環境があったから、チャレンジしない理由もなかった。」
そして谷口さんは会社を辞め、2021年、「Kutoon」を立ち上げた。きれいなユーズドの靴を毎月定額で利用できる、子ども靴のサブスクリプションサービスだ。


この道の歩き方は、
子どもたちが教えてくれた
サービス開始当初、谷口さんが自信を持って店頭に並べたのは、機能性や品質に定評のあるスポーツメーカーやブランドの靴だった。ところがある日、店を訪れた4歳の女の子が、ぽつりと口にした。
「なんでここ、大人が好きそうな靴しかないの?」
話を聞いてみると、彼女が欲しかったのは“プリンセスの靴”。人気キャラクターが描かれ、歩くたびにLEDがきらきら光る靴だった。親から見れば、実用性よりデザインを優先したように感じるかもしれない。けれど、子どもにとっては「履きたい靴」。谷口さんは「じゃあ、次までに用意しておくね」と答えつつ、半信半疑で10足ほど集めたという。そして店頭に並べると、予想に反してあっという間に借りられていった。
「あの光景は鮮明に覚えています。彼女がいなかったら、気づくのはもっと後になっていたかもしれません。」
以来、Kutoonの棚はカラフルで賑やかになった。ときには男の子がプリンセスの靴を選ぶこともあるという。購入して長く履く一足となれば、「ちゃんと歩けるものを」「合わせやすい色を」と親の判断も入りやすい。けれど借りるのであれば、子どもの「これが履きたい」を親も受け入れやすくなる。子どものために選ぶことと、子ども自身が選べることは、大きく違う。谷口さんは、ユーザーである子どもたちに自分の思い込みを覆されながら、サービスの歩き方を学んでいった。

きれいな靴が戻ってくると、
むしろ心配になる
借りた靴を泥だらけにしてしまったら、申し訳ないと思う人が大半だろう。ところが、谷口さんの受け止め方は違う。「汚れているからこそ『たくさん遊んでくれたんだな』って想像できるんです。逆に、きれいなままで返ってくる方が心配になりますね。」
履く機会がなかったのか。サイズが合わなかったのか。気に入ってもらえなかったのか。ほとんど汚れていない靴を見ると、そんなことばかり考えてしまう。
「小さな子どもって、水たまりを見つけたら入りたいじゃないですか。だけど親としては、どうしても『やめて!』って反応しちゃう。僕らの靴なら、その気持ちを我慢させなくていいから、親御さんもできれば止めないであげてほしい。中には『借り物だから汚せない』と気を使ってくれる人もいますが、むしろバンバン汚してくださいと伝えています」
Kutoonの店舗の裏には公園があり、遊び終えた子どもたちがそのまま店へ立ち寄ることもある。「川に入って濡れちゃったから洗っておいて。また来週、同じ靴を借りるね」と、そんな会話も日常的だ。谷口さんは、この空間を「仮想の靴箱」と表現する。「うちの棚に並んでいる靴を、全部自分の靴だと思ってくれたら」と目を細めた。
たくさんの靴を自宅に置けなくても、ここなら、その日の気分や遊び方に合わせて自分で選べる。音の鳴る靴でも、長靴でも、ちょっと背伸びした革靴でもいい。誰かに選んでもらうのではなく、自分で選ぶ。子どもたちの小さな体験が、積み重なっていく。

遠くを目指すからこそ、
「ゆっくり急ぐ」
谷口さんは、Kutoonを「環境にいいサービス」として強く打ち出してはいない。
「もちろん、結果として環境負荷の軽減にもつながるとは思います。でも、子ども靴そのものが環境へ与える影響って、実はそこまで大きくないんです。」
目指していることは、もっと先にある。子ども靴は入り口であり、本当に育てたいのは、使い終えたものを「次の人へつなぐ」という行動だ。
その思いから最近始めた取り組みの一つが、履けなくなった子ども靴を回収する活動。自治体や図書館などに回収ボックス「くつにゃん」を設置して、子どもたち自身の手で、靴を入れてもらっている。
「『もう履けないから捨てる』ではなくて、『次の子にどうぞ』って渡してもらう。その体験を小さいころにしてくれたら、大人になったとき、『まだ使えるから次の人へ渡そう』と自然に思うようになってくれるはず。」
谷口さんが目指す変化が表れるのは、10年後、20年後かもしれない。だからこそ、自らが忘れたくない姿勢を社名の「SlowFast」に込めた。「そのままだと『ゆっくり急ぐ』という意味ですが、僕のイメージでは『急がば回れ』なんです。」
「子ども靴を洗って貸し出すなんて、『面倒くさそうだな』って僕も思います。でも、本当に遠くまで行きたいんだったら、やっぱり、ゆっくりでも、回り道をしてでも、やるべきだと思っています。」
事業が好調なときほど、勢いに任せて前へ進みたくなる。そんなときにも立ち止まり、ビジネスとして成立しているかだけでなく、自分たちの仕事が社会に何を残すのかを問い直す。
「僕はすぐ忘れてしまうので、社名に入れて、自分自身に『忘れるなよ』って言い聞かせているんです。」

レンタルとクリーニング
二つの事業を柱に
現在、SlowFastの事業を支えているのは、子ども靴のレンタルだけではない。もう一つの柱が、創業時から取り組んできた靴のクリーニングだ。一般客から大人の靴を預かるほか、近隣のクリーニング店から洗浄を請け負うこともあり、売り上げではクリーニング事業が約6割を占めるという。一見、子ども靴のレンタルとは別のビジネスに思えるが、谷口さんにとって二つは同じ方向を向いている。
「クリーニングも、ものを長く使うための行動の一つなんです。靴は洗ってメンテナンスすることで、もう一度長く履くことができる。売り上げのためだけにやっているというより、僕らが目指している世界観に合っているから。」

「集める」だけでは、
循環にはならない
谷口さんには次の課題もすでに見えている。前述の通り、自治体などと連携した子ども靴の回収活動は順調だ。しかし、次の使い手へ届ける仕組みが追いつかず、賛同者が増えるほど、倉庫に靴が積み上がっていく。
「回収しただけでは意味がありません。靴を置く場所が家から倉庫へ移動しただけですから。」
靴には、まだ履ける時間が残されている。倉庫で眠らせるのではなく、少しでも早く次の子どもへ届けたい。さらには、寄付された靴を、できるだけその地域の子どもたちへ返していきたい。イメージは「靴の地産地消」だ。
「車一台で回れるくらいの距離で、地域ごとに小さな循環をつくれたら理想的ですね。」
構想のベースにあるのは「Hub and Spoke」の考え方。各地域に洗浄やリペアを担う拠点を置き、その周辺に貸し出しや回収の場をつくる。靴を遠くへ運ぶのではなく、暮らしの近くで循環させていく。「オンラインショップは離島などのエリアを補う役割と捉え、メインはオフラインに切り替えていければいいかなと考え始めました。温かさもありますし。」

やっている人の責任があるから
へこたれるわけには、いかない
前例の少ない事業を続ければ、否定的な声が上がったり、クレームを受けることもある。失敗することもある。それでも、谷口さんは歩みを止めない。
「自分しかやっていない環境に対しては、やっている人の責任があると思っています。へこたれてはいられないぞ!って」と、谷口さんは朗らかに笑った。
「子ども靴は、きっかけなんです。」
玄関で我が子に靴を履かせる——。日々の暮らしの中から生まれた問いは、まだ使えるものをつなぐ仕組みへと育っていった。
一歩ずつ、次の誰かへ。その小さな行動の積み重ねが、「循環」を特別な言葉ではなく、暮らしの当たり前に変えていく。

Well-living
Rule実践者たちの
マイルール
- 前例がなければ、まず自分でやってみる
- 子どもたちの声から学ぶ
- 「急がば回れ」の精神で
- 立ち止まり、自分たちの仕事を振り返る
- マイナスの声にもへこたれない
PROFILE
- 谷口 昌優さん Masahiro Taniguchi
- 株式会社SlowFast 代表取締役
愛知県名古屋市出身。大学卒業後、大手物流企業で約10年間、現場や営業など幅広い業務に携わる。コロナ禍の在宅勤務をきっかけに子ども靴が抱える課題に着目し、2021年に子ども靴のサブスクリプションサービス「Kutoon」をスタート。事業の立ち上げを機にクリーニング師資格を取得。現在は子ども靴のレンタルと靴のクリーニングを事業の柱とし、自治体や地域の事業者などとも連携しながら、ものを長く使い、次の人へつなぐ仕組みづくりに取り組んでいる。
文/宮部 真理子 撮影/鮫島 亜希子 編集/丸山 央里絵
- KEYWORD
2025.12.18
クラフトビールの醸造工程で出るモルト粕をアップサイクルして紙に! 地域の課題解決策が世界へ伝播する
松坂 匠記・良美さんShoki&Yoshimi Matsuzaka
株式会社kitafuku 代表取締役/取締役
2025.11.13
世界を航海する科学探査船「タラ号」とともに海洋環境の未来に希望の灯をともす
パトゥイエ 由美子さんYumiko Patouillet
一般社団法人タラ オセアン ジャパン 事務局長
2025.10.03
「まずは、やってみよう」の精神でテクノロジーで資源の流れを可視化。サーキュラーエコノミーの浸透を図る
原 英之さんHideyuki Hara
株式会社digglue 代表取締役CEO
2025.8.22
「廃棄物 × 障害福祉 × ファッション」意外な組み合わせから生まれた、新しいアパレルブランドの形
伴 真太郎さんShintaro Ban
株式会社みんなのニット共和国 代表取締役
2025.7.21
アジアから世界の漁業を変える。漁師の声を聴き、稼げば稼ぐほど「海が美しくなる」循環をつくる
村上 春二さんShunji Murakami
株式会社UMITO Partners 代表取締役
2025.1.24
ファッション×エコロジーで美しい循環を生み出していく。着物リメイクで仕掛ける挑戦
大方 知子さんTomoko Ohkata
つると合同会社代表/TSURUTOブランドプロデューサー
2024.10.16
50カ国で20万カ所以上!無料の給水スポットが探せるmymizuが描く持続可能な世界
ルイス・ロビン 敬さんRobin Takashi Lewis
一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事
2023.09.14
捨てられるはずだった羽毛布団が、良質なダウンジャケットに。189社が参加する羽毛循環サイクル
長井 一浩さんKazuhiro Nagai
一般社団法人 Green Down Project 理事長
2023.08.21
子どもたちに「居場所」を。目の前の誰かへのおせっかい精神が、地域の人を、企業を、行政を動かす
栗林 知絵子さんChieko Kuribayashi
認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長
2023.06.12
目指すのは「地域分散型社会」。地方を拠点にプロジェクト実践する先例のない大学を開校!
信岡 良亮さんRyosuke Nobuoka
さとのば大学 発起人/株式会社アスノオト 代表取締役