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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2022.11.16

「医師に気軽に相談できる」を
オンラインで当たり前に。
妊娠、子育てで孤立しない社会へ

川畑 朱里さん Akari Kawabata
株式会社Kids Public プロダクト開発
川畑 朱里さん Akari Kawabata
株式会社Kids Public プロダクト開発

Well-Livingを実践する挑戦者たちへのインタビュー。今回は、「子育てにおいて誰も孤立しない社会の実現」を理念とし、インターネットを通じて子どもや女性の健康に寄り添う『小児科オンライン』『産婦人科オンライン』を提供している株式会社Kids Publicのプロダクト開発の川畑朱里さん。ベンチャーから産声を上げたサービスに仲間入りし、事業の成長に関わってきた軌跡を追った。

Well-Livingを実践する挑戦者たちへのインタビュー。今回は、「子育てにおいて誰も孤立しない社会の実現」を理念とし、インターネットを通じて子どもや女性の健康に寄り添う『小児科オンライン』『産婦人科オンライン』を提供している株式会社Kids Publicのプロダクト開発の川畑朱里さん。ベンチャーから産声を上げたサービスに仲間入りし、事業の成長に関わってきた軌跡を追った。

救急隊員だった父。
夜間に救急車でかけつけると
不安を抱える親たちの姿が

川畑さんが株式会社Kids Publicに加わったのは、ウェブサイトに掲載された『小児科オンライン』のサービスローンチのニュースを読んだことがきっかけだった。「病院に行かなくても、オンラインで小児科医に相談できるサービスが開始されたという記事を見て、いいサービスだなぁ!と思い、すぐにSNSで問い合わせをしました。当時はまだ別の会社で働いていたのですが、週末だけでもお手伝いできることはないかと思って。」と川畑さん。

即座に行動を起こした、川畑さんの背中を押したものは何だったのか。「父が救急隊員だったので。夜間に小さな子どもを持つ親が救急車を呼んで、かけつけてみたら、鼻血が少し出ていただけだったとか、そういう話は良く聞いていました。」

救急車を呼んで夜間病院へ行くべきなのか、そうでもないレベルなのか、医療素人の親には判断がつきにくい。夜中に救急車を呼ぶのも気が引けるし、小さな子どもを連れて病院へ出向くのもひと苦労だ。でも、このまま夜を越して我が子は大丈夫なのだろうかと、心配でたまらなくもなる。そんなときに、オンラインで自宅から小児科医に相談ができたら、どれだけ助かることだろう。それに、父のように救急隊員として働く人にとっても、重症患者の要請に集中できるメリットもあると川畑さんは考えた。

「このサービスを通してなら、なかなか変えづらい医療の体制を変えることができるのではないかと思いました。Kids Publicの代表はそれをしようとしている。素直にすごいと思ったし、私は当時WEB関連の仕事をしていたので、きっと役に立てることがあるのではないかと思いました。」

「医療の情報はネット上にたくさんある。現代では、情報が多すぎるがゆえに悩む人も多いので、対応を考えていく必要があると思っています」

3人だけの会社に加わり
医者とエンジニアの仕事以外、
必要なことはなんでもやった

週末だけのお手伝いとして関わりはじめたKids Publicに、川畑さんが正式に移るのがその半年後。新卒で入ったコンサル会社を退職し、3人だけの会社に入社した。「Kids Publicの手掛けている事業内容はすばらしいし、もう少し力を入れたら、もっと少し伸びるんじゃないか。でも、確実にマンパワーが足りていないな、ということをお手伝いしながら痛感し、なんでもやろうという思いで転職しました。」

当時の体制は、代表ともう1人の小児科医、エンジニア1人の3人体制。そこに加わった川畑さんの一番の強みは、前職で培ったWEBサイトの仕様定義やUX設計のスキルであったが、それ以外にも経費精算の仕組みを作るところから、営業、広報まで、やるべきことはなんでもやった。「医者とエンジニアの仕事以外は、全部やっていました」と、川畑さんは笑う。

「私が会社に加わったのは、『小児科オンライン』のリリース直後というタイミングでした。当時はTo Cの事業もやっていたのですが、To Bとして自治体や企業の福利厚生サービスなどに導入してもらうことを考えている時期でした。社長とともに、自治体や企業に説明に行って。今は、To Cではなく、To Bとして県や市町村単位の自治体や、企業の福利厚生サービスのひとつとして、また、生命保険やマンション、子育てアプリなどの付帯サービスとして導入していただけるようになりました。」

2016年にリリースした『小児科オンライン』サービスのサイトTOPページ
『小児科オンライン』に続き、2018年には『産婦人科オンライン』のサービスも開始した

自宅で子育てを抱え込んで
孤立してしまっている
親子を助けたい

「私たちのサービスは、オンラインで小児科医・産婦人科医・助産師に相談できるというものですが、そこには“病院で待っているだけだとリーチできない人たちにリーチしたい”という思いが強くあります。」と、川畑さんは語る。「産後の虐待のニュースなどが後を絶たないですが、それもお父さんやお母さんが自宅で不安を抱え込んでしまった結果、現象として虐待だったり、ご自身がうつになってしまったりという形で表れているのだと思います。」

医師を抱える会社としてKids Publicにできること。それは、スマートフォンなどから気軽に相談できる環境を整備し広げていくことだと話す。「子どもが生まれるって、その人にとって、ものすごく大きな変化だと思います。温厚だった私の知り合いが、子育てが大変すぎてどうしようもなくなって、子どもにヘルメットをかぶせて一回たたいたと聞いて、とてもびっくりしましたが、誰にとっても大変な時期なのだと改めて実感しました。」

「どうしたらいいかわからなくなって、子どもに手をあげてしまう。そうなる前に、お父さんお母さんの不安を取り除いてあげることが、重要」だと川畑さんは考えている。

小児科の待合室。『小児科オンライン』では病院に行くべきかどうかの判断から、日常の何気ない疑問まで相談できる(撮影場所:ANDキッズクリニック日本橋)

友人の声による定性情報
研究結果の定量データ
“役立つ”を改めて実感できた

社会に必要とされていると思ったからこそ関わり始めたサービスだったが、利用した友人に「すごく助かった」という声をもらったとき、川畑さんは改めて「このサービスは本当に人の役に立っている」と実感できたという。「子どもが2人いる友人が、下の子が熱を出して2人を連れて病院に行くのは考えただけでも大変で、途方にくれていたときに『小児科オンライン』で相談し、すごく楽だったし安心できたと連絡をもらいました。顔の見える友人の役に立つことができて、今まで以上に“あぁ、よかったな”と実感することができました。」

また、2022年には横浜市と東京大学と行ってきた共同研究結果を発表することができた。700名以上の妊婦に協力してもらい、『産婦人科オンライン』『小児科オンライン』を妊娠中から産後まで使えるグループと使えないグループの2つに分けて比較したところ、使えるグループの方が産後うつの高リスク者が少なくなったというデータが出た。「『産婦人科オンライン』が妊産婦の健康に寄与することができるということを数字でも実証することができ、手ごたえを感じることができました。」

Kids Publicは、研究や論文発表にも力を入れている。どんな問い合わせが多かったのか、どういう対応をしたら満足度が高かったのか、相談対応後に想定外に悪化しているケースはないのか、オンラインの医療コミュニケーションでは何が大事なのか。そういった内容を社内の医師がきちんと分析し、知見化しているのだ。

「良くも悪くも、この会社は自社の利益を追求していない。純粋に、みんなの健康、医療のことを考えています。運営側としては会社の利益も大事だよ、とは思うものの、まっすぐに人の健康のことを考えているお医者さんたちが自社にいるのは誇らしくもあります。」

2020年に世界を新型コロナウイルス感染症が襲ったタイミングでは、国民の不安解消と医療リソース不足を解消するため、経済産業省からオンライン相談窓口の事業を受託する。川畑さんたちの思いは少しずつ形になってきている。

毎年生まれる子ども80万人ほどに対して、医療施設に従事する小児科医は2万人、産婦人科医は1万人程度。リソースに限界がある中で、どうやって良い医療環境をつくっていくのかに関心があると話す

対面とオンライン両軸で。
ハイリスクな患者にも
対応できる体制をつくる

「体調で少しでも困ったことがあったときにすぐ隣にいるお医者さんに気軽に相談できる、というのが一番安心な形だと思いますが、現状の医療体制ではそのようなことはなかなかできません。であれば、どう効率化していけばいいのか。それを今、一番考えています。」

「対面での医療リソースを使うことが必ずしも正義ではないと思っています。必要な医療リソースにアクセスできるように、オンラインで効率化を図り、オフラインで対面サポートが必要な方に対応する。その連携の形を考えています。」

医療のコンテンツや情報は世の中にたくさんあるが、皆がつまずくのは、「この子のうんちの色、この子にできたポツポツは放っておいて大丈夫なのか」という、よりパーソナルな話。そこにWEBやシステムの力で、どこまで対応できるのかに、川畑さんたちは向き合っている。

一方で、オンラインだけでは解決できないことも、もちろんある。産前や産後うつの人であれば心療内科に診てもらうべきだし、アレルギーの重症な子どもであれば薬を使う方が良い場合もある。自治体と連携をすることで、ハイリスクな患者をオフラインの医療や支援につなげていく仕組み作りも進めている。

「オンラインでの相談をしていると、“こんなことで病院に行くべきとは思っていませんでした”という声に出合うことがあります。小さな不安から必要ある人をオフラインの診療やサポートへ促す。そのつなぎ役になることも、今後、私たちの大きな役割になるのではないかと思っています。」

Kids Publicの創設メンバーである安藤医師は、この春に日本橋に小児科医院を構えた。今も医師として診療やサポートに関わりつづけている仲間だ

医師に相談できる
オンラインの仕組みを
社会のインフラにしたい

Kids Publicの今後の目標について聞いた。
「サービスを“社会のインフラ”化していく、というのが大きな目標です。水道や鉄道って、今や全国に通っていて当たり前ですよね。『小児科オンライン』『産婦人科オンライン』も、あって当たり前で、なくなった時に初めてないことに気づくような。そんな存在になっていけることを目指しています。」

大きな目標を掲げる川畑さんにはもうひとつ、気になっていることがある。それは、「出産経験のない人たちにも、もっと子育て関連サービスに参加してもらえたら」というもの。医者は、自分自身ががんにかかったことがなくても、がん患者を診察・治療する。Kids Publicのような子育て関連の事業にも、もっといろいろな人が関わることで、より“子育て”をしやすい社会になったらいいなと思う、と語る。

日本の少子化は、もはや全国民に影響する社会課題だ。お父さん・お母さんが孤立せずに子育てできる環境を整備していくことは、未来の日本を明るくすることにつながる。この国が子育てにもっともっと寛容で、安心して産んで育てていける場所になるように。その一助を担うKids Publicのインフラ化計画に期待が募る。

夢は、医師にオンラインで気軽に相談できる仕組みが社会のインフラになること。水道水のように出なくなってから「あ、ないじゃん!」と気付けるような

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • とにかく寝て、元気でいる
  • 自分は犠牲にしない
  • ルールを決めすぎない
  • ポジティブフィードバックを心掛ける
  • 感謝を伝える

PROFILE

川畑 朱里さん Akari Kawabata
株式会社Kids Public プロダクト開発

企業のデジタル化を支援する企業でのコンサル業務を経験後、26歳で株式会社Kids Publicへ。4人目の社員として、WEB仕様定義・UX設計のほか、営業・広報・マーケティングなどを担当する。『小児科オンライン』の法人営業、『産婦人科オンライン』の立ち上げにも関わり、現在は「自治体へのハイリスク者の連携プロジェクト」「思春期の子供たちの相談を受けるプロジェクト」などの新たな取り組みにまい進している。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/雨森希紀 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #子ども
  • #医療
  • #テクノロジー
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