廃棄物から新素材を開発!
マイナスから価値を創造し、
ゴミが自然と減っていく未来へ
- 町田 紘太さん Kota Machida
- fabula株式会社 代表取締役

- 町田 紘太さん Kota Machida
- fabula株式会社 代表取締役
「ゴミから感動をつくる」──そんな印象的なビジョンを掲げ、今、注目を集めている企業がある。東京大学発のスタートアップ、fabula株式会社だ。町田紘太さんが代表として率いるfabulaは、白菜の芯や抽出後のコーヒー粉といった食品廃棄物から新たな建築材料などを生み出す革新的な技術を開発。「世間一般では“ゴミ”とされるものに新しい価値を与えていきたい」そう口にする町田さんの挑戦を取材した。
「ゴミから感動をつくる」──そんな印象的なビジョンを掲げ、今、注目を集めている企業がある。東京大学発のスタートアップ、fabula株式会社だ。町田紘太さんが代表として率いるfabulaは、白菜の芯や抽出後のコーヒー粉といった食品廃棄物から新たな建築材料などを生み出す革新的な技術を開発。「世間一般では“ゴミ”とされるものに新しい価値を与えていきたい」そう口にする町田さんの挑戦を取材した。
大学の研究で生み出した
新素材を作る技術を
起業を通じて社会へ実装
fabula(ファーブラ)の始まりは、大学の研究室だった。コンクリートを研究対象としていた町田さんが開発したのは、野菜やお茶の出がらしなど、通常“廃棄物”とされるものを使って、小物から家具、そして建材にまで応用可能な新素材を生み出す技術だ。
「大学の技術って、社会に出る前に埋もれてしまうことがとても多いんです。でも私は、研究を通じて得た知見を“実学”として社会に還元したかった」と町田さんは振り返る。
大学卒業から半年後、自ら起業を決意。声を掛けた中から、小中学校時代の同級生たちがジョインし、2021年10月にfabulaを立ち上げた。単なる“廃棄物”を新たな価値のある“素材”へと変換し、社会課題の解決へとつなげる。そんな町田さんの想いに共感した仲間たちとともに社会への実装化を進めている。

廃棄物を価値に変え、
世界で数百兆円規模ある
巨大な建材マーケットへ挑む
fabulaの技術によって、ミカンの皮、白菜の外葉や芯、抽出後のコーヒー粉など、すでに建築資材やノベルティグッズなどに姿を変えた素材は多く、社会での利用が始まっている。
例えば、珈琲店のリニューアル時に活用された、規格外コーヒー豆を使った素材のインフォメーションサイン。ほんのりとコーヒーの香りのするこのサインは、店に訪れるお客さまに好評なのだそうだ。最近ではゼネコン会社から声が掛かり、あたらしく建設されたビルの壁の一部に、コーン、お茶、柑橘の皮などの食品廃棄物から作ったそれぞれの素材が使われた。ビルのコンセプトとfabulaのビジョンから生まれた素材がマッチしたのだという。
さまざまな需要が見出されているfabulaの技術だが、町田さんが今後特に力を入れていこうとしているのが、建築資材のマーケットでの活用だ。
「建材市場は世界規模で数百兆円。そこに、廃棄野菜を変換した素材を提供できれば、使用量も社会課題の解決へのインパクトも大きい。食品の廃棄物を再生して、例えばコースター1枚を作っても、使用する廃棄物は少量でインパクトが小さいかもしれません。しかし、壁一面に使えば100トンの廃棄物を世の中から減らすことにつながります。」
fabulaの技術で生み出される新素材の中には、コンクリートの約4倍の曲げ強度を持つものもあるという。例えば、白菜の外葉や芯で作り出した素材では、厚さ5mmでも30kgの荷重に耐えられる。
品質をさらに高めることでfabulaの素材が市場に広く受け入れられ、素材を作っていけばいくほど、世の中の廃棄物が減る。そんな循環を生んでいきたいと町田さんは語る。


写真下:その規格外のコーヒー豆を活用しできた、堀口珈琲 狛江店のトイレサイン。廃棄物をゴミとせず別の形で再活用するストーリー性をfabulaは重視している(写真提供:fabula inc.)
“サステナブル”と言わなくても
本当に価値があるものは
求められて続いていく
環境への意識の高い国・オランダで幼少期を過ごした町田さん。東京大学では文系から工学部へと転身し、環境問題に取り組む研究室に進んだ。その原体験が、fabulaの思想に大きく影響している。
「最近はビジネスの世界でも“サステナブル”という言葉が先に立つことが増えてきましたが、本当に価値あるものは、その言葉がなくても選ばれていくと思うんです。たとえば、酒米の削りかすで作られるおせんべいを、誰も“サステナブルだから”という理由で買わないですよね。ただ、美味しいから買うんです」と、町田さん。
「fabulaの事業は、価値がないとされているものにどう価値をつけて次に送り出すかということをやっているだけ。食品廃棄物だけでなく、何でも。今現在、ゴミや無駄なものとされているものを価値のある形にするということをやり続ける。それがうまくいけば、何もいわなくても循環をして、勝手にまわっていく。fabulaはそういった価値の循環を生み出していく会社になりたいと考えています。」

循環のスケールを微分して
地域で完結する
“地消地産”を生み出す
fabulaには、食品の製造過程で出る残渣(ざんさ)を抱える会社からの相談も数多く持ち込まれる。
「たとえば食品メーカーさんから、こういう残渣があるんですけど、と相談されることもあります。残渣で何かをしたいという相談というよりは、残渣に困っていてどうにかしたいという問い合わせが多いんですね。そうした時には、ヒアリングをしながら自社の技術を使ってできることを提案します。」
そのような依頼から生まれたのが、抽出して提供したコーヒーの粉をその場で新素材に変える装置だ。町田さんはその仕組みを「循環のスケールを微分する」という表現を用いて説明してくれた。
「食品廃棄物は水分が多く、運ぶだけでお金もエネルギーもかかります。それなら廃棄された場所で処理し、製品化してしまおうと考えました」
現在テスト運用されているその装置で、ゴミを廃棄されるその場で新素材へと変換させることができたなら、その物が“ゴミ”と呼ばれる時間は最小限になる。
目指すのは、“地産地消”ならぬ“地消地産”。ある廃棄物が出た場所で、それが新たな価値へと変換され、その地域の中で活用されて循環していく。そんな無理のない仕組みこそが、持続可能な社会への鍵だと町田さんは考えている。

ストーリーが共感される
ものづくりを。
fabulaが描く持続可能な未来
創業から4年。注目を集める中で、町田さんはひとつの疑問が浮かぶようになったという。
「自分たちの発信が、最近『食品廃棄物でコンクリートの代替素材をつくる会社』という形で紹介されることが多くなり、改めて伝え方や方向性を見直したいと思うようになりました。」
「私たちは代替品を作りたいわけではなく、新しい価値を提供する存在でありたいんです。」
コンクリートやプラスチックといった既存素材と比較されるだけでは、その本質は伝わらない。“〇〇の代替”というレッドオーシャンで勝負をすると、その既存素材と比較しての有劣だけで価値を判断されてしまう。
だからこそ、fabulaは現在、素材そのものではなく、その素材に宿る価値を含めて世の中に届けることを目指している。社内のクリエイティブチームを強化し、今一度会社のポジショニングの再設定とブランディングに力を入れる。
“ゴミをどうするか”ではなく、“ゴミから何を生み出すか”。その発想の転換こそが、fabulaの根幹にある。町田さんはその想いを会社名に込めた。fabula(ファーブラ)は、ラテン語で「物語」という意味を持つ。
「ゴミをどうにかしなきゃいけないという発想は、マイナスをゼロに戻す産業しか生み出さない。そうではなくて、ゴミをどう活用するかの視点で価値を生んでいくことが大事だと思っています。それってつまり、ストーリー性のあるものづくり。一般的なものづくりでは普通に行われていることだと思います。」
町田さんが理想とするのは、社会に向き合う誠実なブランドだ。
「ただ“廃棄物由来”というだけではない。素材自体に美しさがあり、背景のストーリーにも共感できる、そんなものづくりをしていきたいんです」
真にサステナブルな仕組みとは、価値を発揮し続けることができる仕組みだ。fabulaが未来に向けて目指すのは、自然な形でクリエイティビティを発揮することで、持続可能な社会を描いていくことだった。

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PROFILE
- 町田 紘太さん Kota Machida
- fabula株式会社 代表取締役
幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を持つ。東京大学の文科一類に入学後、3年生への進級時に学内制度を活用して工学部へと転身した。環境問題に取り組む研究室でコンクリートをメインに研究活動を行う。卒業研究で開発した「ゴミからコンクリートを超える曲げ強度の新素材」をつくる技術を開発し、卒業半年後に技術の社会実装化を目指しfabula株式会社を創業。
取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵
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