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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2023.06.12

目指すのは「地域分散型社会」。
地方を拠点にプロジェクト実践する
先例のない大学を開校!

信岡良亮さん Ryosuke Nobuoka
さとのば大学 発起人/株式会社アスノオト 代表取締役
信岡良亮さん Ryosuke Nobuoka
さとのば大学 発起人/株式会社アスノオト 代表取締役

ITの進化、少子化問題が深刻化している今の日本において、戦後に形づくられた社会システムではもはや立ち行かなくなってきていることを実感している人も多いだろう。そんな変化を受け入れ、果敢に立ち向かっている猛者がいる。既存の教育システムとは一線を画す大学を立ち上げた信岡良亮さんだ。市民大学からスタートし、2021年には通信制大学との連携を経て高校卒業後の選択肢としての仕組みを整えた『さとのば大学』が目指す、社会変革を興す人材育成の挑戦を取材した。

ITの進化、少子化問題が深刻化している今の日本において、戦後に形づくられた社会システムではもはや立ち行かなくなってきていることを実感している人も多いだろう。そんな変化を受け入れ、果敢に立ち向かっている猛者がいる。既存の教育システムとは一線を画す大学を立ち上げた信岡良亮さんだ。市民大学からスタートし、2021年には通信制大学との連携を経て高校卒業後の選択肢としての仕組みを整えた『さとのば大学』が目指す、社会変革を興す人材育成の挑戦を取材した。

2021年に誕生した
プロジェクト実践力が
身につく新たな大学

『さとのば大学』は、オンラインでの対話型の講義と、国内4つの地域でのプロジェクトの実践に力を入れる大学だ。特定のキャンパスは存在せず、学生たちは、大学が提携する国内の地域に1年ごとに1ヵ所ずつ、4年間で4つの地域で暮らしながら学んでいく。

もともと、社会人向け市民カレッジとしてスタートを切った『さとのば大学』。その学びをもっと若い時期にという想いのもと、2021年には通信制大学との提携により高校卒業後の進路として学士の取得も目指せる仕組みを整えた。

オンラインで行う授業では、さまざまな分野で活躍している講師陣からのインプットを受け、自分の携わるプロジェクトへ活かしていく。プロジェクトを進める上で出会う迷いやつまずきは、オンラインでつながるメンターたちに相談しながら進めることができる。

それはさながら、社会人から人気の「プロジェクトマネジメント」のプログラムのようだ。「日本の地域」を舞台に、自らの興味を主軸として立ち上げたプロジェクトを形にするまでを、各分野で活躍する経験豊富な講師陣がメンターとして伴走してくれる。大学生のうちからこのような学びの機会を得ることができる場所は、今の日本において、なかなかないだろう。

「さとのば大学」入学式の様子。オンラインで参加する講師陣も

自分たちの手で
明るい未来を創っていける。
そんな人材を育てたい

信岡さんが、このような大学を立ち上げるきっかけとなったのは、彼が6年半過ごした島根県の小さな島・海士町(あまちょう)での経験が大きい。

「僕自身は、学生時代は大阪で過ごし、社会人になって東京へ出てきました。その時には、社会人として立派になる=給料を上げること、だと思い、入社したIT会社でがむしゃらに仕事をしました。でも、東京のど真ん中で資本主義の社会システムにどっぷりと浸かり、体を壊しかけて。その働き方、暮らし方、仕事の先にあるもの、全てに違和感を覚えるようになってしまったんです。」と、信岡さんは語る。

そんなときに“島外からたくさんの挑戦者が集まってくる不思議な島”があることを知ったのだと、信岡さんはいう。そこは、人口2300人・高齢化率40%の島根県のはずれにある、小さな島。

「その小さな島・海士町は、少子高齢化に悩む日本の未来の縮図のような島でした。しかし、島には外からの挑戦者たちを受け入れ、ともに変化していく素地があった。その柔軟性に惹かれた若者たちが、移住をはじめていて。僕も島の度量に惹かれて移住を決め、島の人たちと一緒になって、島をよりよくするために頭をひねり、活動する日々を過ごしました。」

当時は、島に行くというと、現代社会からドロップアウトするみたいなイメージもあった。しかし、実際に行ってみると、世界が狭まるところが逆に大きく広がった、と信岡さんはいう。2歳から80歳までの人々と知り合い、農家の問題に関心を抱けば、農家さんと仲良くなれる。好きなだけ興味関心が広げられ、明らかに視野も視座も広がっていったという。

「島での活動を通して、キャリアを考えるということが給料を考えることではなく、誰と一緒に、どんな風に未来を共創するかということに変わりました。そう考えるようになってから、とても生きてる実感が湧くし、自分自身をちゃんと活かしてる感じがしています。」

さとのば大学で育てていきたいのは、そんな「仲間と一緒に未来を創造していける」人材だ。

現在は宮城県の山村に家族で暮らし、東京との往復生活を送る信岡さん

社会構造を変えないと
どの地域にも
100年後の未来はない

信岡さんたちが海士町で、島の主産業である漁業を、今の4億円からどう伸ばしていけるかという話し合いをしていた時、島根県の担当者が県の財政について説明にきたことがあった。

「その担当者の説明によると、『島根県は現在毎年200億円の赤字です、今後も続く見通し』だというんです。海士町が漁業売上高を4億円から6億円に伸ばしたところで、島根県の財政は毎年200億円の赤字。本土の港がつぶれれば、海士町もつぶれます。正直、『なんだよ、それ?!』と思いました」と、信岡さんは当時を振り返る。

しかし、今、日本全国が同じような構造になっているのだと、信岡さんはいう。一部の地域でどうにかプラスが出ても、全体としては下がっていくという状況で、構造を変えない限りは、どの地域にも100年後はない。

「日本の社会システムそのものを、変えなければいけない。」

その鍵となるのは、「人口減少をいかにして止めるか」だと、信岡さんは考えた。今、日本では毎年70万人のペースで人口が減少している。人口増をベースとして組み立てられた戦後の社会システムには、すでに大きな歪みが生まれている。

海士町は日本海の島根県沖に位置する、1島1町の小さな島。(Photo by Asturio Cantabrio)

教育システムの転換で
地域の、そして日本全体の
人口減少を食い止める

出生率を上げるためには、「都市集中型社会」から「地域分散型社会」への転換が有効な施策だと、信岡さんは語る。

「テクノロジーの力を使えば、都市に集中して暮らす必要はもうありません。地域で暮らせば、Quality of life(クオリティ オブ ライフ)も上がって、子どもとの暮らしも豊かになります。安心して育てられる環境が整えば、出生率の上昇にもつながっていきます。だからみんな移住しましょう、と。」

しかし、それを実現しようとすると、今の社会の中では、苦しい点が大きく2つある。それは、田舎には教育の選択肢がないこと、そして都市ほど面白い仕事がないこと。この2つを求めて人口が流出しているのが現状だ。

「それが、田舎のほうが面白い教育ができて、面白いプロジェクトができるとなると、逆転すると思うんです。食料の自給自足というのがありますが、僕は“人材の自給自足”ができる田舎を作りたい。」

「さとのば大学を通じて都市から地域へと人材が還流することで、日本全体の人口バランスの健全化を目指せると思っています。そしてその結果、合計特殊出生率2.0という未来を叶えるのが僕の夢です。それが、今の日本を救う一番のドライバーになると思うし、教育システムの転換で実現できると思っているからです。」

さとのば大学の卒業生たちの手によって、日本の地域で次々と明るい未来につながるプロジェクトが生まれていく。そんな未来像をさとのば大学は描いている。

「実際に地域に入り込んでしっかりと動ける状況を、どう社会的に作るかを考えているうちに、今の日本では大学というあの時間が一番余白を持って動ける時間なのではないかと思ったのです」と信岡さん

学生たち自身が抱く
テーマや課題感をもとに
プロジェクト化していく

では、未来創造の楽しさを、実践を通じて教える「さとのば大学」で、学生たちは実際にどのようなプロジェクトを経験しているのだろう。

例えば、岡山の西粟倉(にしあわくら)という地域で実現したのが、村の獣害問題を解決する「ジビエを使った食育プロジェクト」。「食」を自身のテーマとした学生が、西粟倉村について調べると、土地の95%が森林で、林業のベンチャーが1400人の村に10社以上あるような場所だった。しかし、現地を見ていくと、林業に関わる人にとっては身近な森も、関わらない町エリアの人にとっては暗くて遠い存在になっていることがわかった。

地域のみんなにとって森を「近くて明るい」印象に変えていきたいと思った学生は、森林で暮らす獣のジビエを使って森と村との接続をはかりたいと考えた。その方法を現地の小学生・中学生へ届けたいと考えていったところ、鹿肉のハンバーガーを作る料理イベントの開催などにつながり、町の学校給食にジビエが採用されるまでになったという。

ほかにも、自身の積極性のなさに劣等感を感じていた学生が宮崎県新富町に移住。自分でリヤカーを作って町に出掛け、「何かお手伝いできることはありませんか」と話しかける、「お手伝い行商プロジェクト」を行ったというものもある。町のいろんな人と交流できて、本人にとって大きな自信になったのだそうだ。

写真上:完成した給食の鹿肉のレンコンはさみ焼き
写真下:給食で提供された鹿肉のレンコンはさみ焼きを食べる小中学生の前で、ジビエを使った食育プロジェクトについて説明する小曽根雅彰さん

正解は自分で見つけるもの。
学生の意思を尊重し
見えないところを可視化する

さとのば大学では、プロジェクトの成果の大きさ以上にそのプロセス、そしてそれがどのように「自分と接続しているか」に意味を置いている。

「『1万人のイベントを作りました』と言っても、自分との接続が薄いと次につながらない。改めて5人くらいで小さな場を作ってみたら、すごくしっくりきたというようなこともあります。大人が作りたい波に乗った瞬間に、大きくハネたりすることってありますよね。それよりも、自分自身でなぜそれをするのかを、真剣に向き合うプロセスの方が大事だと思っています。」と、信岡さん。

さとのば大学の講師たちは、プロジェクトをこうしたほうが正しいとは決して言わない。学生の意思を尊重し、見えないところは可視化してあげて、選択的な状況を作っていくことを意識しているのだという。

正解は教えられるものではなく、自分で見つけるもの。自身との接続の強いテーマや課題感から組み立てたプロジェクトを形にしていく、その積み重ねこそが、「未来を創造していく」力を養っていく。

リヤカーを自ら制作し、お手伝い行商プロジェクトを実践した村上瑠渚さん

クラウドファンディング
から始めた大学設立。
経営3年目のリアルとは

信岡さんは、2018年に1000万円のクラウドファンディングにチャレンジし、300名以上から1040万円を超える支援金の調達に成功。補助金なども含めて、さとのば大学の立ち上げを実現した。四年制の学生の受け入れを開始した2021年から3年目の今、経営の実情を聞いた。

「正直、今もずっと苦労し続けています。授業料でまわるビジネスモデルを組んでいますが、1学年30〜40人を超えて、4学年そろってからでないと採算がとれないので、まだ数年かかる見通しです。1年間にだいたい4000万円ほど赤字を出しながら、4年くらいは粘らなくてはいけません。」

「経済産業省からの補助金と、僕がコンサルティングで稼いできたお金をこちらに注ぎ、さらに、私募債で1700万円ほどを集めたり、理念に共感くださった方から出資や寄付をいただいたりして、何とか経営しています。」

そもそも、大学を1つ作るのにどのくらいの資金が必要なのか、想像もつかないところから始めたという信岡さん。しかし、既存の教育システムとは異なる形の大学設立を通じて、硬直化している日本の社会システムを変革していきたいという思いに賛同する人たちからの支持が、大きな力となって、四年制大学の設立が実現した。

多くの人々が支えてくれるのは、さとのば大学の目指す未来を皆が共有し、共感しているからだろう。

今の状況や社会の仕組みを変えたい思いはあっても、実現の方法がわからない。そんな大人たちも多い今の日本において、その実現の方法を教えてくれる大学が誕生したことは、大きな希望だ。さとのば大学は学生のみならず、社会人に対しても門戸を開いている。「学び直しを考える社会人にとっても、ひとつの選択肢になれば」と信岡さんはいう。

混沌とした今の世の中を楽しみながら、新しい実験を創造して仲間と一緒に楽しんで実現していく。そんなことができる人たちが増えていくことは、この国を少しずつ良い方向へと導き、より良い未来につながっていくだろう。

信岡さんは、社会に出た後もそれぞれに必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と学びを繰り返す「リカレント教育」を日本社会に広げていきたいとも考えている

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 変えるための勇気を持つ
  • 変えられないものを受け入れる冷静さを持つ
  • 強さと弱さの両方を大事にする
  • 互いに目撃者になる
  • 心の底から思いを発する

PROFILE

信岡良亮さん Ryosuke Nobuoka
さとのば大学 発起人/株式会社アスノオト 代表取締役

同志社大学卒業後、東京のITベンチャーでWebディレクターとして勤務した後、人口2300人・高齢化率40%の島根県の島「海士町(あまちょう)」に移住。2008年に株式会社巡の環を起業。6年半の島暮らしを経て東京に戻り、2015年に株式会社アスノオトを創業。2016年にさとのば大学の前身となる「地域共創カレッジ」を主宰。2019年から短期コースを開始し、2021年に四年制大学として「さとのば大学」を開校した。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #越境人材
  • #地域活性
  • #少子化問題
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