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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2024.6.19

誰もがヴィーガンを選べるように
レシピやレストラン事業を展開。
人や動物が平和に共生できる世界へ

工藤 柊さん Shu Kudo
株式会社ブイクック 代表取締役CEO
工藤 柊さん Shu Kudo
株式会社ブイクック 代表取締役CEO

幼少期から漠然と抱いていた、人が自然や動物に及ぼす悪影響、人と人同士の争い、格差、差別に対する違和感。もっとお互いに、平和に平穏に関わっていけたらいいのに。そのために実践しているのがヴィーガン生活だと今回の取材で語ってくれたのは、ヴィーガンのためのレシピ投稿サイトや宅配冷凍弁当、ネットスーパーなどを事業展開する株式会社ブイクックの代表取締役である工藤 柊さんだ。

幼少期から漠然と抱いていた、人が自然や動物に及ぼす悪影響、人と人同士の争い、格差、差別に対する違和感。もっとお互いに、平和に平穏に関わっていけたらいいのに。そのために実践しているのがヴィーガン生活だと今回の取材で語ってくれたのは、ヴィーガンのためのレシピ投稿サイトや宅配冷凍弁当、ネットスーパーなどを事業展開する株式会社ブイクックの代表取締役である工藤 柊さんだ。

ヴィーガン生活を始めたのは
人と動物との間に存在する
格差への気づきがきっかけ

ヴィーガンとは、肉や魚、卵や乳製品といった動物由来のものを食さず、ファッションやコスメなどに関しても動物性素材の利用を行っている商品の消費を避ける人、またはそのライフスタイルを指す。その根底にあるのは、動物倫理、環境問題、健康意識などの価値観だ。人によって、それぞれの価値観の比重は異なってくるが、ダイエットや美容など自身に関することというよりは、動物や地球環境を守りたいといった想いから始める人が多いという。

工藤さんがヴィーガン生活を始めたのは2016年、高校3年生の時だった。

「学校からの帰り道、車に何度も轢かれてぺちゃんこになっている猫を目の当たりにして。どうして、こんな姿になるまで誰も助けてあげなかったんだと、怒りと悲しみでいっぱいになって。泣きながら保健所へ連絡を入れました」と、工藤さん。

家に帰ると、どれだけの猫が事故にあっているかを調べた。それに関連して、保健所の犬や猫の殺処分のデータに行きつき、さらには畜産物として「効率的に」生み、飼育され、殺されている家畜動物の劣悪な飼育環境の現実や、食用に大量飼育される家畜の排出するCO2やメタンが地球温暖化を引き起こしているという現状も知った。

大阪の工業地帯の近くで生まれ育った工藤さんは、幼い頃から家の近くの空気の汚さ、川に浮いている油などに嫌悪感を抱いてきた。田舎の川のきれいさと比べ、本来はきれいな川のはずなのに、人間が汚してしまったのか、と絶望感を覚えることもあったという。

轢かれた猫と、殺処分や過剰飼育される動物たち、汚れた川。見て見ぬふりができない。どうしたら、この悪循環を断ち切れるのだろう。そんな思いでいっぱいだった工藤さんが、実践の第一歩として出会ったのが「ヴィーガン」というライフスタイルだった。

「人と人だけでなく、人と動物の間にも確かに差別があると思って。自分はそれを助長させないように、まずは動物を食べないという選択をしようというのでヴィーガン生活を始めました」

想いを持ってヴィーガンを
始めた人たちが、
無理なく続けられるように

ヴィーガン生活を始めたものの、工藤さんはすぐに「何を食べたらいいのかわからない」という状況に陥った。自分で料理をしたこともなければ、大学の学食でも動物由来のものを避けようと思うと選べるメニューがない。

途方にくれた工藤さんは母親に協力を仰ぐ一方で、自身の通う神戸大学の学食にヴィーガンメニューを導入できないかと掛け合った。その後、活動を続けていく中で出会ったカフェのオーナーにオファーを受け、大学2年の時にはヴィーガンカフェの店長を任されるように。そしてその秋、「Hello Vegan! な社会をつくる」をキャッチコピーに、日本中のヴィーガンに会いに行く旅に出る。

「当時はまだ自分の周りにはヴィーガン生活をしている人がほとんどいなくて。一人では何もできないと感じていたので、同じ価値観の仲間を100人集めたいと思いました。みんなどんなことを考えて、どんなことに困っていて、どう支え合っていったらより良い社会につながっていくのかな、と。まだ大学生で日本を周るためのお金もなかったので、初めてクラウドファンディングを行ったところ、85万円ほど集まって。その資金で、日本中のヴィーガンの方々に会いに行きました」と、工藤さん。

「旅の中で本当にたくさんの方と出会い、話を聞くことができました。とある主婦の方は、ご自身はヴィーガンだけれども家族は違うと。ヴィーガンで食事をつくるとおいしくないから、家族にもうやめてしまえと言われている。おいしくつくれないことを理由に、自分の大切にしている価値観も否定されるのがつらいと話してくれました。」

当時、ヴィーガン料理はレパートリーが少なく、情報もほとんどない。材料も手に入りづらいという問題があった。

「一方で、ヴィーガンイベントなどに参加すると、ヴィーガン料理をおいしくつくれる方がいる。この人のレシピを、料理が苦手な人やヴィーガン生活を始めたての人にシェアできたらいいのにと思い、投稿型のレシピサイト『ブイクック』をつくろうと思い立ちました。」

大学時代に開催していた、ヴィーガンやベジタリアンを実践する人や実践しようとする人との交流会(写真はご本人提供)

日本を一周し、300人以上の
ヴィーガンの人たちに会って
生み出したレシピ投稿サイト

投稿型レシピサイトをつくろうと動き出した工藤さんだったが、その道のりは険しかった。当時大学2年生だった工藤さん。人を巻き込んで推進するような仕事をまだ経験したこともなく、お金もない。あるのは思いだけ。引き受けてくれるエンジニアやデザイナーも見つからずに苦戦していた。そんな工藤さんを見かねた1つ年上の大学の先輩が、心意気で開発を引き受けてくれた。結局デザイナーは見つからず、工藤さん自身がイチから勉強し、デザインをした。類似サービスのデザインを参考に、とことん研究を重ねた。

「Twitterで大手レシピサービスのデザイナーの方を見つけて。次に東京に行く時に相談させてくれないですか、とDMを送ったところ、実際にお会いでき、目から鱗のアドバイスをたくさんいただくことができました。」

日本中を巡り、300人以上のヴィーガンと対話する中で課題を知り、ほぼ手づくりで立ち上げたウェブサイト。半年ほどでリリースしたβ版はエラーだらけだった。さらに一年かけて正式版をリリースした。

デザイナーの方に教わった「ユーザーが一番使う画面にデザイナーは一番時間を使うべきだ」などのアドバイスは全て大事に反映したと語る工藤さん

Hello Vegan! な社会を目指し
クラウドファンディングや
資金調達を重ねて

2019年に正式リリースした投稿型レシピサイト『ブイクック』は現在、世界中から投稿された5,800ものレシピを蓄積・公開している。オムライスにハンバーグ、餃子にカレー、チーズケーキ。全てヴィーガン素材のみを使用し、おいしくつくることができるレシピが満載だ。

「ユーザーの方々からは、自分だけではなく、他にもヴィーガンの料理をつくっている人がいるんだと勇気をもらった。孤独でやめようと思っていたけれど、日本にこんなに仲間がいるんだと知って、続けられた。というような声も届き、サービスを通じてヴィーガン当事者のユーザー同士がすごく支え合っています」と、工藤さん。

その後、レシピ本の発行に向けて2度目のクラウドファンディングを実施。870名ほどが支援をしてくれて、1,000冊以上の予約がある状態でレシピ本を発売することができた。さらに、レシピがあっても忙しくてつくる時間のない人たちのために、2021年にはヴィーガン料理の冷凍宅配弁当サービスである『ブイクックデリ』をリリース。この頃、初めて総額2,500万円の資金調達を実施して、フルタイムのメンバーを採用することもできた。

「クラウドファンディングも資金調達も、毎回とても感謝しています。やるたびに、応援コメントもたくさんいただきますし、幸せな気持ちになります。頑張ろうって思えますね。」

その後、ヴィーガン食材をオンラインで購入できる『ブイクックモール(現:ブイクックスーパー)』立ち上げの際には総額1億1,000万円の追加資金調達を行っている。

料理をする時間がない、コンビニやスーパーの総菜コーナーでは買えるものがないと悩むヴィーガンのために展開した宅配冷凍弁当サービス『ブイクックデリ』。人気商品は「黒酢豚」だとか(下の写真提供:株式会社ブイクック)

日本はヴィーガン後進国。
観光に訪れる世界中の人が
今、食事に困っている

「僕がヴィーガンを始めた当初は、環境問題や動物倫理などの課題を発信すれば、ヴィーガン生活に共感してくれる人は自然と増えるだろうと思っていました。けれども、想定より日本のベジ・ヴィーガン人口は増えていない。実際に事業を始めてみて、また他のヴィーガンの方々の話を聞いて、まずはヴィーガン生活を続けやすい環境をつくることが必要だと強く感じました」と、工藤さんは語る。

ヴィーガンを続けたいけれど、続けられない。そんな仲間たちのためにレシピ投稿サイトを立ち上げ、レシピ本を出し、冷凍宅配弁当サービスを始め、食材ネットスーパーをつくってきた。そんな工藤さんの次なる挑戦は、インバウンドだ。

2024年の訪日外国人は、想定3,310万人。2030年には国を挙げて6,000万人にまで増やすことを目指しているという。その中で、ベジタリアンやヴィーガンを志向する人々の比率は約5%といわれている。欧米圏では「ヴィーガンマーク」のついている商品やメニューも多くあり、インドではレストランには当たり前のように緑のマーク(べジ:植物性の食材を主体として作られたもの)、赤のマーク(ノンべジ:動物性のものが含まれているもの)などの表示があるが、日本ではまだ普及していない、と工藤さん。

「たくさんの外国人観光客の方に日本に訪れていただけている中で、困っている人も多いし、事業としても大きなチャンスだと感じているので、次はヴィーガンレストランを立ち上げたいと考えています。」

海外のヴィーガンの人々が、もっと気軽に日本で食を楽しめる環境をつくることは、ひいては日本のヴィーガンの人々の生活環境向上にもつながっていくはずだと、ブイクックのメンバーは考えている(写真提供:株式会社ブイクック)

日本をヴィーガン大国へ。
まずは外国人の多く訪れる
観光地にヴィーガンレストランを

インバウンド事業として今、工藤さんが考えているのは観光地でのヴィーガン寿司店の展開だ。渋谷に支社を構える立地を生かし、メンバーと日々、都心に訪れる外国人旅行者へヒアリングを行っている。

「すでにヴィーガンやベジタリアンの外国人観光客の方、100人ほどにお話を伺いました。そもそも困っているのかどうか、困っているなら何に困っているのか、どんなものだったら食べたいと思うか。ヒアリングを繰り返す中で、日本食としての寿司に注目しました。従来の魚のお寿司の味を再現するというよりは、キノコや野菜などを使って、全く新しい『ヴィーガン寿司』を提供できたらと考えています。」

野菜寿司職人から監修を受けたり、ヴィーガンレストランで接客を学んだり、外国人観光客に考案したメニューへの意見をもらって試行錯誤したりしながら、工藤さんたちはスピードと熱意を持って準備を進めている。

今考えているメニューは、アドカドの巻き物や、パンプキンでつくったウニ軍艦、出汁の利いたナスやシイタケの握りなど。どれもカラフルで食欲をそそる(写真提供:株式会社ブイクック)

「まずは都内に実験店舗を立ち上げて、その後、鎌倉や京都など外国人観光客の多い観光地へと広げていきたいと考えています。日本中どこに行ってもヴィーガンのお店を見つけるのに困らない状態にしていけたら、と。20~30年後には、日本に気軽なイタリアンを普及させたサイゼリヤのような存在になれたらと思っています。」

日本中の人たちが、イタリアンレストランに行くように気軽にヴィーガンレストランに行ける世界をつくる。それを通じて工藤さんが実現したいのは、人が自然や動物と共生し、平和に暮らしていける世界だ。気候変動による食糧危機、地球温暖化による海面上昇など、現代の地球を取り巻く自然環境は、とても穏やかとはいえない。

未来の地球で暮らす人や動物たちのためにできること。その答えのひとつがヴィーガン生活であり、その選択を続けていくことで、人と自然の関係性は大きく変化していくはずだと工藤さんは考えている。ブイクックがヴィーガン生活を続けやすい世界をつくっていくことで、徐々にその選択ができる人たちを増やしていける。工藤さんが行っているのは、地球規模の変化につながる大きな土台づくりだった。

「社会課題を解決したいという想いから始めた活動ですが、今はその想いが広がっていく楽しさも実感しています」と、工藤さん。ブイクックの躍進は止まらない

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 先人の知恵を借りる
  • 求められるものをつくる
  • 楽しみながらやる
  • 誠実にオープンに向き合う
  • 一人でやらず一緒にやる

PROFILE

工藤 柊さん Shu Kudo
株式会社ブイクック 代表取締役CEO

1999年大阪生まれ。高校3年生で動物倫理と環境問題を理由にヴィーガン生活を開始。神戸大学食堂への対応メニュー導入、ヴィーガンカフェ店長を経て、2018年にNPO法人を立ち上げる。その後、「誰もがヴィーガンを簡単に始められ、楽しく続けられる"Hello Vegan!"な社会をつくること」をミッションに2020年4月株式会社ブイクックを神戸で創業。レシピ投稿サイト『ブイクック』、冷凍宅配弁当サービス『ブイクックデリ』、食材ネットスーパー『ブイクックスーパー』を展開。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #食
  • #環境問題
  • #動物倫理
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