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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2025.1.24

ファッション×エコロジーで
美しい循環を生み出していく。
着物リメイクで仕掛ける挑戦

大方知子さん Tomoko Ohkata
つると合同会社代表/TSURUTOブランドプロデューサー
大方知子さん Tomoko Ohkata
つると合同会社代表/TSURUTOブランドプロデューサー

着物をリメイクして、ハイセンスな洋服のプロデュースを行うファッションブランド『TSURUTO』には日々、思いのこもった着物が持ち込まれる。世代を超え、形を変え、引き継がれる「美しい循環」を作っていきたいと語る、つると合同会社代表の大方知子さんの抱く世界観を取材した。

着物をリメイクして、ハイセンスな洋服のプロデュースを行うファッションブランド『TSURUTO』には日々、思いのこもった着物が持ち込まれる。世代を超え、形を変え、引き継がれる「美しい循環」を作っていきたいと語る、つると合同会社代表の大方知子さんの抱く世界観を取材した。

手放された
着物生地から生み出される
洋服や、ひな人形

「祖母の形見なんです」

その男性がTSURUTOへ持ち込んだのは、彼が高校生だった頃、学校が自宅から遠かったため身を寄せた祖母の家でよく目にしていた、祖母がかつて愛用していた着物だった。その着物は、TSURUTOの手によっておしゃれなアロハシャツに姿を変えた。

後日、「祖母をいつも近くに感じられるような気がします」と男性から伝えられた時、リメイクのデザインを手掛けた大方さんは、胸にこみ上げるものがあったという。

「着物って、受け継ぐことを前提とした日本の素晴らしい文化だと思うんです。祖母の着物を結婚式に着るなど、日本で古くから根付いていた受け継ぐ文化に、あらためて光を当てたい。着物を通じた美しい循環を復活させたいと、活動を続けています。」

TSURUTOではお客さんから持ち込まれる着物リメイクを行う一方で、一度手放された着物の中から厳選したものを購入して再利用し、洋服や、ひな人形に形を変え、新たなお客さんの元へ届けている。

環境省の2022年のデータによると、日本では家庭から手放した衣類は年間69.6万トン。そのうちリユースやリサイクルがされず、ごみとして処分される衣類は66%で45.8万トンに及ぶという。大方さんは、着物のリメイクを通じて、少しでもこの衣類の廃棄を減らしていきたいと考えている。

TSURUTOでは着物をほどき、普段の生活で身にまとえる日常の衣へと形を変えた『キモノフク』を提供している(写真提供:TSURUTO)

自国の文化に誇りを持つ
大切さを学んだ
インドとドイツでの経験

幼い頃から、マザー・テレサの伝記や、『風の谷のナウシカ』などアニメ映画の影響を強く受け、環境問題に強い関心を抱いてきたという大方さんは、大学生時代にインドでボランティア活動に参加。都市部からジープで2時間ほどかけてたどり着いた村は貧しく、教育もしっかりとは施されておらず、いろいろな問題を抱えていた。

しかし、そこで出会った15歳の少女が「自分の村が大好き」と言った言葉に、大方さんは大きな衝撃を受ける。目をキラキラさせて語る少女を見て、「私、自分の地元そんなに好きじゃないな」と自身とのギャップを感じたのだ。

その後ドイツへボランティアに訪れた際も触れあった欧州の若者世代が皆、自国の文化に誇りを持ち、語るのを聞いた。そこでも、アジア人であることになぜか引け目を感じ、日本の歴史や文化についてうまく語れない自分がいたという。

世界に出て目の当たりにしたのは、「自国の文化を誇れない日本人である自分」だった。

「自国の歴史や文化について自分は全く語れない。そこにもどかしさを感じていました」と、大方さんは当時感じた気持ちを話してくれた

デザインの力で
社会を良い方向へ導く。
そんな仕組みを作れたら

社会課題に取り組む活動に心惹かれる一方で、大好きなデザインやファッションに対する強い関心も捨てきれなかった大方さんは、進路に迷っていた。社会課題を追求するならば、NGOやNPOへの就職。デザインを追求するなら、都市デザインやファッション雑誌の編集者。さまざまな職業や方向性を模索するがどれも、ぴたりとはまらず、力を持て余していた。

そんな折、大方さんは本屋でのアルバイト中にある光景を目にする。

「毎日仕事帰りの時間帯になると、女性ファッション誌のコーナーに人だかりができるんです。今から20年ほど前、当時はそこまでスマホで情報を得たりする時代じゃなかった。なので、ファッション誌の周りにバーッと女性が集まっていたんですね」

「そこで感じたのが、自分も含めたみんなのファッションに向けるエネルギーの1%でも社会を良くする仕組みに活かせたら、世の中はもっと良くなるんじゃないかということでした。世の中に自分が思い描くことを実現している会社が無い以上、自分で起業するしかない。会社を立ち上げるにはまずは資金が必要だと思い、ベンチャー企業に勤める傍ら、古着をリメイクしたアクセサリーを作って販売することから始めました。」

会社員として働く一方、友人と共にリデュースをコンセプトとした古着リメイクのアクセサリーブランドを立ち上げた

古着のリメイクを通じ
リサイクルセンターで
着物と出合う

起業のための資金作りのつもりではじめたリメイクのアクセサリーブランドだったが、思いがけず当時の流行にも乗って売上は順調に伸びていった。

「古着のスカーフをリボンにしてチャームにしたり、イヤリングにしたり、ボンボンを作ったり。本当に簡単なものだったのですが、母が福祉作業施設で働いていたこともあり、施設にお仕事をお願いして作ってもらっていました。」

すると施設で働く障害者の人々が色とりどりの服をハサミで切る作業をとても楽しみにしてくれているという話も耳に入ってきた。施設では封入や糊付けなど単純作業の依頼が多い中、古着の解体はカラフルで楽しいと、休みがちだった男の子が仕事に行きたがるようになったというのだ。大方さんはファッションの持つ可能性を再確認する。

そうしてアクセサリーブランドを始めて1年ほど経った頃、雑誌『SPUR』への掲載や、伊勢丹新宿店からの常設での商品取り扱いの打診、阪急有楽町店でのポップアップショップなどさまざまな話が舞い込むようになる。事業が軌道に乗るにつれ、古着の仕入れ先であるリサイクルセンターへ足を運ぶ頻度も増えていた。

「リサイクルセンターに通う中で、工場長さんから着物と革製品が大量に届くけれども、引き取り手がいなくて困っているという話を聞きました。」

大方さんの中でパズルのピースがはまった。

2024年3月より移転し、東京・表参道に構えた「つるとアトリエ」には、美しいキモノフクが並んでいる

最もエコロジーな
ファッションは、
自国の文化の着物にあった

日本文化の代表的な存在である、着物。着物は立体的な洋服と違い、細長い反物で構成されている。そのため、着付け方によって丈の調整ができ、体型が変わってもサイズを調整し、ずっと着ることができる。古くなった生地は、雑巾やオムツとして最後まで使い切る。着物に向き合ったとき、大方さんは日本文化の中で深められてきた「無駄を生まない」工夫の数々に気づかされた。

「着物は最高にエコロジーなファッションだったんです。」

大方さんはリメイクアクセサリーの事業を、一緒に進めてきたパートナーに譲り、着物を中心に新たな挑戦をはじめる決断をする。

ファッション、デザイン、エコロジー、和……それらのキーワードが合わさり、「日本の和とエコ」をメインコンセプトにTSURUTOブランドが生まれた。そしてちょうどそのころ、大方さんの育ちの地からほど近い、埼玉県越谷市で旧日光街道沿いに明治38年からあるお屋敷を改装し、複合施設にしようというプロジェクトが動いていることを知った。友人を通じて、古民家複合施設『はかり屋』のプレオープンイベントのマルシェへの出展の誘いを受けた大方さんは、試しに着物をリメイクした洋服を販売してみることにした。2018年4月のことだ。

はじめて販売した『キモノフク』は、リサイクルセンターでピックアップしてきた着物を用いて、友人を介して出会ったファッションデザイナーさんに洋服へとリメイクしてもらったものだった。数量限定の洋服は好評を博した。結果、このマルシェでの販売をきっかけにTSURUTOは、はかり屋の看板ショップとして店を構えることになる。

マルシェの出展経験から、着物リメイクの可能性の大きさを感じた大方さんは、店舗の立ち上げを決意。現在は引き取った着物をリメイクする『ときもの』と、持ち込まれた着物をオーダーメイドでリメイクする『きもの時季』を展開(写真提供:TSURUTO)

着物の持ち込みが増え
新たな展開が生まれ、
それに伴い仲間も増えていった

手探りでオープンした、はかり屋のショップは順調にファンを増やしていった。そんな中、お客さんから、持ち込んだ着物をリメイクできないかという相談が相次ぐようになる。

しかし、デザインと縫製をお願いしていたデザイナーさんも自身のブランドを抱えているため、追加での依頼は難しかった。そこで、引き取った着物のリメイクとは別の体制で、持ち込まれた着物のオーダーメイドリメイクを行う体制を作ることにした。

持ち込み着物のリメイクは、大方さん自身がデザインを手掛け、縫製は個人の方にお願いするという方法をとることにした。

「海外ブランドのパターナーを引退した70代のマダムや、出産をきっかけに縫製の仕事を辞められていた主婦の方など、腕のある個人の方を選抜し、チームを組みました。工場を通さないことで百貨店にリメイクをお願いした場合の半額程度で、より品質の良いものを提供できています。」

大方さんのビジョンのもと、さまざまな技術を持つプロが集い、それぞれが自信を持ちながら手応えを感じつつ、仕事をしているという。『きもの時季』と名付けた、この持ち込み着物のオーダーメイドリメイクは、今ではTSURUTOの主力サービスとなっている。

現在は表参道に拠点を移したTSURUTOだが、はかり屋にいた頃にお祭りを通して出会った人形屋『人形のあいはる』さんとはじめた、ヴィンテージ着物をまとったひな人形の事業も順調に出荷量を増やしている。5組の販売からはじめた『つるとひな』は今年で5年目。独特の色みの着物が美しいひな人形を、今年は30組販売する。

着物のリメイクを主軸とした事業は、多様な展開を見せている。

2025年の販売に向けて現在、表参道のアトリエでは予約制にて「つるとひな」の展示会も行っている(写真提供:TSURUTO)

古くから根付く
日本文化に誇りを。
そして世界に美しい循環を

「最近はお客さまに、『海外へ転勤で行くので、日本文化としての着物を語ることができるように、TSURUTOの服を買っていきたい』、『ヴィンテージ着物のおひなさまを見て日本ならではの色みの美しさを再確認した』と言っていただけることもあり、日本文化の継承・発信という意味でも活動が形になってきているのを感じています。」

海外で「自分は自国の文化を、誇りを持ってうまく語ることができない」という衝撃を受けて帰ってきた大方さんは今、着物という日本古来の文化に気づき、リデザインを通じてその美しい文化の伝承を担う。

またTSURUTOでは、大方さんが根底に持つ社会課題解決の考えのもと、寄付付き商品の販売も行っている。集めた寄付金はコットン畑の過酷な労働環境で働く子どもたちの環境改善を図るNGOへと贈られる。

日本文化の発信、社会貢献、デザインの力。大方さんが人生を歩む過程で、課題を感じながらも長いこと正解を見つけられずにバラバラと散らばっていたパズルのピース。それらが今、TSURUTOを通じてひとつの形を生み出している。

大方さんの強い想いは、多くのプロフェッショナルたちを惹きつける。現在、クリエイティブディレクター兼フォトグラファーとして、TSURUTOを支える宇波滉基さんもその一人だ

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 人生の時間を美しいものに使っていく
  • 社会や環境の循環を良くするものを選んで利用する
  • すでにあるものを有効活用する
  • 明るい方に目を向ける、暗い方ばかり見ない
  • 気負いすぎない、無理しすぎない

PROFILE

大方知子さん Tomoko Ohkata
つると合同会社代表/TSURUTOブランドプロデューサー

学生時代に、インドやドイツでのボランティア活動を経験したのち、国際青年環境NGOにてデザインや執筆活動を行う。ソーシャルビジネスの創出を目的に、2008年より「reduce」をコンセプトとしたアクセサリーブランドを始め、『リユース×福祉作業施設×地元女性×チャリティー』で行うものづくりに取り組む。 2012年、着物が大量に廃棄されている状況を知り、また自然と寄り添い育まれてきた和文化への関心が高まり、2015年より 『TSURUTO』をスタート。クリエイティブワーク・デザイン全般を担当。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #サーキュラーエコノミー
  • #環境問題
  • #ごみ問題
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