繊維業界で数十年おきに
起きているイノベーションを
この手で興したい
- 深井喜翔さん Kisho Fukai
- KAPOK JAPAN株式会社 代表取締役

- 深井喜翔さん Kisho Fukai
- KAPOK JAPAN株式会社 代表取締役
木の実由来の軽くて暖かい新素材「カポック」を使ったアウターなどを提案する、サステナブルなアパレルブランド「KAPOK KNOT(カポックノット)」。その代表を務める深井喜翔さんがカポックに注目し、インドネシアに飛んだのが2019年だった。KAPOK JAPAN株式会社を創業し、素材の開発とブランドの運営を通じて繊維業界の新たなイノベーション創出に奮闘する、深井さんの挑戦を取材した。
木の実由来の軽くて暖かい新素材「カポック」を使ったアウターなどを提案する、サステナブルなアパレルブランド「KAPOK KNOT(カポックノット)」。その代表を務める深井喜翔さんがカポックに注目し、インドネシアに飛んだのが2019年だった。KAPOK JAPAN株式会社を創業し、素材の開発とブランドの運営を通じて繊維業界の新たなイノベーション創出に奮闘する、深井さんの挑戦を取材した。
アニマルフリーで
サステナブルな新素材
「カポック」に魅せられて
カポックはインドネシアやタイなど東南アジアに広く分布する大きな木だ。その木の実から採れる繊維は、繊維の内部が空洞になっているため、非常に軽いのが特徴だ。優れた断熱性と弾力性、復元力を合わせ持つ。
また、種子から繊維が採取されるため、木を伐採する必要がなく、生育に農薬も不要、グースダウンのように動物由来ではないため地球にも動物にも優しい天然素材だ。しかし、繊維が短く絡みにくいため商品化が難しく、現代のアパレル中綿(なかわた)としては使えない素材として、繊維業界の中ではこれまであまり注目を浴びてこなかった。
「僕がカポックの存在を知ったのは、繊維関連の資格取得のための教科書の中でした。そこでも『あまり重要ではない素材』という位置づけで紹介されていました。」
しかし、そこで出会った素材の特徴は、深井さんの心に大きな引っ掛かりを残した。


背中を押され訪れた
カポックの産地で目にした
雪景色のような光景
「カポックはコットンの8分の1ほどの軽さのわたになる、木の実由来の天然繊維なのですが、まだ国内のどの会社も着目していませんでした。何より、水鳥の羽毛を大量に使うダウン製品のあり方など、従来のアパレル業界の当たり前に対して自身が疑問を感じていたこともあり、新たな挑戦をしてみたいという気持ちがありました。」
グラフィックデザイナーの友人に相談すると、現地を見てみたいと言い出した。背中を押してもらった深井さんは、すぐさま格安宿を手配し、その友人と共にインドネシアに飛んだ。
「領事館に電話をして紹介してもらったカポックの農園に、ジャカルタから車で数時間をかけて行きました。現地に辿り着き、車から降りると、目の前にはまるで雪景色のような光景が広がっていました。」
3mから10mを超える高さのカポックの木々に実が連なり、風が吹くと木の実から落ちた白いわたが、ゲレンデスノーのように舞い上がっていた。深井さんは目を奪われた。
「その光景を目の当たりにして、本当にやるぞと強く心に決めたのを覚えています。」

「わた」ではなく「シート」
発想の転換から生まれた
カポックシートで製品化へ
冬の定番商品であるダウンコートは、暖かさを求めるほど素材は重くなっていく。また高機能素材ほど石油由来の割合が高まり、製造から廃棄までの環境負荷が増していくという問題があった。衣服の快適さを求めるほど、どこかに無理が溜まっていく既存のアパレル業界の構造そのものに、深井さんは大きな違和感を抱いていた。
新たに着目した新素材カポックは、それらの違和感を払拭する理想的な存在だった。しかし、カポックは羽毛やポリエステル、ナイロンなどの化学繊維のように「わた状」に成形することができない。そのことは、商品化に向けた大きな障壁だった。
その突破口となったのは、「わた」ではなく「シート」にするという発想だった。
繊維を絡ませて成形するわたではなく、繊維を薄く均一に配置し、面として固定する。この考えから生まれたカポックシートが、既存のダウンコートよりも軽くて暖かく、なおかつ地球環境に優しい新たなコートの生産を、実現へと導いた。
「コートの中綿をカポックシートにすることで従来のダウンコート4kgのおよそ8分の1、たった500gの軽さでダウン並みの暖かさをかなえるコートを製造することができました。『Makuake』(購入型クラウドファンディングサービス)でブランドのファーストコートを発売したところ、開始9分で目標を達成、のちに1700万円を超える支援を集めることができました。」
商品のクラウドファンディングページではコートの軽さをメインに訴求したが、サステナブルの文脈にも多くの共感が寄せられたと深井さんは語った。


写真下:カポックシートを用いることで「軽いのに暖かく、長く着られ、なおかつアニマルフリーで地球にも優しい」コート作りが可能に
0から1を生むことと
1から10に育てることは
全くの別物だった
インドネシアの現地視察から帰国後、3カ月で進めたクラウドファンディングが成功し、手応えを感じた深井さんは、経産省の主催するアクセラレーションプログラムにエントリー。シリコンバレー派遣選抜に選ばれるなど活動の幅を広げていく。そのプログラムで受けた刺激から、カポックで「世界に飛び出す事業を作る」と心に決めた。
デザインやブランディングの得意な大学時代の友人たちの力も借りて“0から1”を作り上げ、順調にカポックのブランドの立ち上げにこぎつけた深井さんだったが、そこから事業を“1から10”へとスケールさせていくことは、それまでの過程とは全くの別物だったという。
「当社が掲げる“世界中にサステナブルで機能的な素材を届ける”というミッションは変わらないのですが、ビジョンやバリューを語っているだけでは売上は上がらない。自分も含めて関係者のファイナンスリテラシーが低く、ビジネスとして次の段階へとスケールさせていくには大きなシフトが必要でした。」
実感したのは、創業フェーズと成長フェーズではそれを得意とする人間の種類が全く違うということだった。
「メンバーに予算はいくらかと聞かれても、売上期待値がわからないと、それはわからない。今振り返ってみると、初期メンバーは自分も含めてPL(損益計算書)の思考に傾き、BS(賃借対照表)の思考がおろそかになっていた。この転換の時期は本当に苦しかった。」
深井さんは思考を切り替え、経営の安定性や支払い能力を分析できるようにファイナンスリテラシーを磨き、経営の判断力を高めることに注力した。結果として創業期のメンバーの多くが去る苦しみを味わうが、共に次のステージを語れるメンバーが残り、チームは筋肉質な経営体質へと変化していった。

『Farm to Fashion』
一気通貫のサプライチェーンで
アパレル業界の常識を打ち破る
KAPOK JAPANは創業直後より『Farm to Fashion』という思想を打ち出している。
「このコピーは、農場から食卓へ、を意味する『Farm to Table』がアイデア元です。ちなみに、僕が出したキャッチ―コピーの中で唯一採用されたアイデアです」と、深井さんは笑う。
その言葉の通り、KAPOK JAPANの大きな特徴は、一気通貫のサプライチェーンを持つことだ。
インドネシアの農園から原材料を調達し、素材を生産し、製品化、販売、さらにはリサイクルまで、アパレル製品が顧客に届くまでの全工程を扱う一気通貫のサプライチェーンを持つ。それによって、生産者、消費者、地球環境、全てに無理のない形を模索している。
サプライチェーンが細かく分断され、誰がどう作っているかもわからなくなりがちなアパレル業界の中では稀有な存在だろう。
「自社でやりきることのメリットの一つに、消費者をまっすぐ見て商品を作っていけることがあります。たとえば、販売を他社にお願いするとなると、その会社のブランドマネージャーを説得しなくてはいけない。しかし、そこを一気通貫することで、ダイレクトに顧客の反応を得ることもできます。」
「5社分くらいを1社で担っているのですが、このサプライチェーンこそが自分たちの価値だと感じています。」


国内5社との資本業務提携で
新世代のサステナブルな
繊維の開発を加速させる
長いサプライチェーンを1社で担い、『Farm to Fashion』を実現していくにあたり、KAPOK JAPANは2024年、5社との資本業務提携を行った。
「株主として加わってくれた5社は繊維機械、化学研究、縫製、EC・AI、ブランド作りと、それぞれの得意分野を持つ会社です。金銭的な出資だけでなく、それぞれの強みを活かし、研究開発パートナーシップとしてKAPOK JAPANの成長に深くコミットしてくれています。」
この提携を通じ、一気通貫のサプライチェーンが盤石なものとなった。また、5社が力を貸してくれることで、カポックを中心とした植物由来の素材とテクノロジーを用い、「新世代のサステナブル繊維開発」を目指すという未来に向けても大きく前進し始めた。
5社の中には、深井さんの曾祖父が創業し現在父が社長を務めるアパレルメーカーである双葉商事株式会社も名を連ねる。
「これまで家業との資本関係はありませんでしたが、自社に父が他の株主たちと同じ立場として加わることで、親子の新たな関係性が築けています。」
「正直、カポックのブランドを作るだけならば、家業の中で充分でした。しかし、スタートアップとしてわざわざKAPOK JAPANという会社を創業したのは、世界に通じる事業を作っていきたいという思いがあったからです。」
そう語る深井さんの目には強い光が宿る。

「私は、カポックという素材は、ダウン(羽毛)を代替できる存在だと考えています。ダウンのマーケットはグローバルで約50兆円。その何%を獲得していけるのか。私たちは、“2030年までに、世界のダウンの1%をカポックに置き換えていく”ことを当面の目標としています。」
繊維業界の主要素材は、これまでも技術革新、資源の制約、社会のニーズなどに強く影響されながら変化を遂げてきた。
リネンやウール、シルク、コットンのような身近な天然繊維が主流だった時代から、低コストで大量生産可能、かつ高い耐久性や機能性を持つナイロンやポリエステル、アクリルなどの石油由来の化学合成繊維(化繊)へと移行。しかし、現在のアパレル業界ではそうした化繊の環境負荷が問題視されている。
「繊維業界の変遷を紐解いていくと、数十年おきに素材のイノベーションが起きているんです。その大きな転換をもう一度、カポックで興したい」と深井さんは力強く語った。
繊維業界では使いづらいとされてきたカポックだが、栽培工程がほぼ自然放置で成り立つ。そのため、大量の農薬を使用するコットンに比べても、生産段階でのCO2排出量の多い化繊と比べても、環境負荷が際立って低い。リプレイスが進んでいくことは、地球の未来にとって非常に大きな意味を持つはずだ。
深井さんが目指すのは、自然に優しい植物由来で機能的な素材でもあるカポックを、既存の素材に代替していくことで、世界第2位の汚染産業とも言われるアパレル業界をサステナブルな業界に変えていくことだ。来年には新素材の発表も予定しているというKAPOK JAPANの挑戦に目が離せない。

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PROFILE
- 深井喜翔さん Kisho Fukai
- KAPOK JAPAN株式会社 代表取締役
1991年生まれ、大阪府吹田市出身。2014年慶應義塾大学卒業後、ベンチャー不動産、大手繊維メーカーを経て、家業である創業79年のアパレルメーカー双葉商事株式会社に入社。現在の大量生産、大量廃棄を前提としたアパレル業界に疑問を持っていたところ、2018年末、カポックと出会い運命を確信。KAPOK KNOTのブランド構想を始め、クラウドファンディングで新規事業を開始。2020年には、KAPOK KNOTの運営を軸としたKAPOK JAPAN株式会社を設立し、アトツギとスタートアップ両社の経営に参画中。
取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵
- KEYWORD
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