「日本のごみを減らしていく」
この国のごみ問題・労働問題に
お笑い芸人の僕ができること
- 滝沢 秀一さん Shuichi Takizawa
- マシンガンズ・お笑い芸人/ ごみ研究家
- 滝沢 秀一さん Shuichi Takizawa
- マシンガンズ・お笑い芸人/ ごみ研究家
「ごみ清掃芸人」として知られる、太田プロダクション所属のお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢さんは、お笑い芸人として活動しながらも、妻子を養うために2012年にごみ収集会社に就職。ごみ清掃を通じて見えてきた世界をYouTubeや書籍の出版を通じて世の中に伝えている。著書の発行部数は累計15万部を超える滝沢さんのWell-livingな活動を取材した。
「ごみ清掃芸人」として知られる、太田プロダクション所属のお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢さんは、お笑い芸人として活動しながらも、妻子を養うために2012年にごみ収集会社に就職。ごみ清掃を通じて見えてきた世界をYouTubeや書籍の出版を通じて世の中に伝えている。著書の発行部数は累計15万部を超える滝沢さんのWell-livingな活動を取材した。
お笑い芸人の活動をしながら、
「日本一のごみ清掃員」
になると決めた
「妻子を養いつつ芸人を続けていくには、並行して仕事を見つけなくてはいけなくて。そこで出会ったのがごみ清掃員の仕事でした。清掃員という仕事が見つかってラッキーではあったんですけど、3年くらい続けていくうちに、本当はこれを中心にやりたかったわけじゃないのに、という気持ちも生まれていました」と、滝沢さん。
「マシンガンズは、サンドウィッチマン、ナイツ、オードリーなどと同じ世代なんですね。ある日、TVを見ていたら、彼らがひな壇芸人として、司会者から一番遠い席に座っていたんです。M-1チャンピオンがこんな遠い席に座っているんだったら、自分はもうあそこに座るのは難しいかなって。」
その時、「せっかくやるなら、日本一のごみ清掃員になってやろう。ごみのことなら、何でも答えられる人になろう。」そう心に決めたと、滝沢さんは語る。
いざ前向きな気持ちでごみ清掃の仕事に向き合いはじめると、見えてくるものが変わってきた。
「漫才のネタにしてやろうとか、そういう気持ちはありませんでした。真剣にごみに向き合っていたら、気になることがたくさん出てきて、それを発信していきたいと思うようになったんです。」
お金持ちの多い地域と
そうでない地域から出てくる
ごみの違いに気づく
ごみを収集車に入れると、袋が破けて、見ようと思わなくても中が見える。ごみが回転していく様子を眺めながら、滝沢さんは、お金持ちの多い地域と一般家庭の住む地域でのごみの内容の違いに気づく。
「一般の家庭からは、カップラーメン、チューハイ缶のほか、100円ショップで買ったカゴや、まだ着られる洋服やベルトなどのごみが、ものすごく大量に出てきます。まるで、お金を出してごみを買ってるんじゃないかと思うくらいです。一方、お金持ちのエリアは、圧倒的にごみの量が少ない。余計なものは買わない、という強い意思をごみから感じられる地域もあります」と滝沢さん。
「ある時、お金持ちのエリアでは一般家庭のエリアに比べて、市販の風邪薬がごみとして出てこないということに気づきました。それってどういうことなんだろうと思って見てみると、一般家庭に比べ、海鮮やフルーツのごみが多かったり、健康グッズは捨てられているけれどタバコの吸い殻は見なかったり。健康に対する意識の違いを感じ取りました。一般家庭の不燃ごみからは、小銭が出てくることもあります。お金持ちエリアでは絶対にそんなことはありません。」
「お金、健康、買い物、あらゆる面で意識の違いがあり、それがごみに現れている。」そう感じたという。
観察眼のするどい滝沢さんは、昔からそういったことが得意だったのだろうか。そう問うと、「全然そんなことないです。ごみ清掃員って、ごみが好きなんですよね。みんなで話すのはごみのことばっかり! 飲みに行ってもごみの話しているんです。共通点だからかな。他のこと話せばいいのにって思いますけど、尽きないんですよね、ごみの話って!」と楽しそうに教えてくれた。
お金持ちのごみの捨て方
を真似するうちに、
日本の問題が見えてきた
滝沢さんの転機は「お金持ちのごみの捨て方」を真似し始めた頃に訪れたという。「本当にお金がなかった時期で、神頼みのような気持ちです。この人たちのような捨て方ができるようになったら、お金が貯まるんじゃないかって。ごみを減らすにはどうしたらいいかを、本気で考えました。今思えば、半分ノイローゼだったんじゃないかな。」
しかし、本気で取り組みはじめると、勉強することも面白くなり、知識もどんどん増えていった。
「最初の頃は、ベテラン清掃員に話を聞いたりもしていました。あまりに毎日回収するごみの量が多いので、先輩に『日本って、ごみで埋まったりしないんですかね』と声を掛けたら『埋まるよ』と返事されて。『え!埋まるんですか?!』と衝撃でした。都内で回収されたごみは、中央防波堤埋立処分場という東京湾にある広い埋立地に最終的に捨てられるんですが、そこのキャパシティがあと50年くらいしか保たないらしいんです。今まで気にも留めていなかった事実がたくさん出てきて、一つ一つ調べていくことを繰り返していきました。」
滝沢さんに、今一番の関心事を聞いた。
「やっぱり、ごみの量ですね。これはもう11年前から変わっていないです。」
「ひとりがごみを出す量って『こんなもんか』って感じですが、町のごみを集めたら、その量は衝撃的でした。ごみ収集車1台で1回2トンのごみを集めるんですが、1つの町で6台が6回ずつくらい回るんです。車がいっぱいになったら、いったん捨てて、また行って。『どんだけ捨ててるんだ!』って思いましたよ。」
日本のごみを減らすには
個人のごみを減らすこと。
一人ひとりの変化が必要
「僕の目標は、『日本のごみを減らす』ことです。でも、いきなりそんな大それたことはできないので、まずは『地域のごみを減らす』ことを考える。そのためには『町のごみを減らす』こと。それはつまり『個人のごみを減らす』ことにつながっていきます。」
「大敵なのは、『生ごみ』です。ある自治体では、ごみの4割が生ごみなのだそうです。紙とプラスチックをきちんと分別すると、現在の3分の1はごみの量が減ります。そこからさらに生ごみをどうにかすれば、全体のごみの量はかなり減ってくると思います。」
日本は、世界的に見てもごみの分別ルールがかなり徹底されている。しかし、実は日本におけるごみのリサイクルはEU加盟国と比べるとかなり低い方なのだ。ドイツ、スロベニア、オーストリア、オランダ、ベルギー、リトアニア、ルクセンブルクではリサイクル率が5割を超える。
一番の違いは、生ごみだ。ヨーロッパだと、それも資源にしているという。一方、日本は焼却処理がごみ処理の主流。水分を含んだ生ごみの焼却には、燃料もかかる。そこで、滝沢さんは今後、自身の社団法人の活動でコンポスト(土壌の微生物でゴミを分解させる装置)のコミュニティを作ろうと考えている。
「『100%失敗しないコンポスト』を提供できるようになったら、皆さん取り組み始めてくれるんじゃないかと思って。きちんと発酵ができれば、生ごみの嫌なにおいや虫の発生も抑えられます。まだ構想中ですが、負担にならないところまでを家庭で行ってもらって、仕上げ発酵はこちらで引き取りますというような形にしたらどうかと考えています。」滝沢さんは常に、一人ひとりの関心を引き出すにはどうしたらいいか、取り組みやすい方法は何かを考えている。
「5月30日には、ごみフェスをやりたいと思っているんです。」
ごみゼロの日。その日は偶然にも、滝沢さんご夫婦の結婚記念日なのだという。
「結婚したのは、ごみ清掃員になる前です。まさか自分にとってこんな形で特別な日付になるとは当時は思ってもいませんでした。みんなでお祭り的に何かをやる日にしたいですね。内容はこれからオンラインコミュニティなどで詰めていきたいと思っています。」
ものがごみになる前に
食い止めたくて、
終活事業をスタート予定
お話を聞いていると滝沢さんが、日本をごみから救うヒーローのように見えてくる。そんな滝沢さんを突き動かす力の源はどこにあるのだろう。
「自分の中に、『あるべき姿になっていない社会』というのがあるかもしれません。ごみ清掃は『無駄』と対峙する作業でもあるので。最初は、この洋服まだ着られるのに……からはじまり、自治体のこの建物、何に使うんだろう、戦争なんて一番無駄な資源の使い方だよな、とか、気になってしまって。世の中の無駄なことが減って、ごみになる前に食い止めることができたら、最高にうれしいです。」
今後の取り組みのひとつとして、人生の最期に向けた財産や身のまわりの整理、葬儀やお墓の準備をする「終活」の手伝いをしたいと滝沢さんは言う。後輩芸人の中には「ごみ屋敷芸人」だったり、実家がお寺や葬儀屋だったり、行政書士の資格を持っている人までいるという。
「今は売れていなくても優秀な芸人たちと一緒にやりたいと考えています。ごみ屋敷って、これからどんどん増えていくと思うんです。そうならないように、ごみ屋敷になってしまう前に一緒に片づけてあげることで、ごみを減らしたい、というのが僕たちの考える終活です。」
亡くなった後に捨てると、全てがごみになってしまう。しかし、亡くなる前であれば売れるものもあるし、遺言状で誰かに譲ることもできる。「ごみになる前にごみを減らすことができる」と滝沢さんは言う。
「代わりに捨ててあげることは法律上できないので、分別の指導や、出品するお手伝い、そういった関わり方になっていくと思います。ごみひとつとっても、さまざまな法律や利権について知って、対応していかなくてはいけないので簡単に進まないこともありますが、あきらめずに活動していくつもりです。」
さらに今後は、法律や制度などの仕組みから変えていけたら、と滝沢さんの思考は広がっていく。
「ごみは、人の家から持ち出した時点で法律違反になるんです。今のごみ収集の仕組みは『ごみを集めたらお金がもらえる』というもの。処理をすればするほど、儲かる人がいる。でも、本気で日本のごみを減らそうと思ったら『ごみをなくしたらお金がもらえる仕組み』にしていかないといけないと思うんです。」
自分の中には
人生のテーマとして
“労働問題”というものもある
「話はごみから少しそれますが、僕は芸人を続けるためにアルバイトをしないといけない時期が長かった。なんでこんなに働かないといけないんだろう、と思うことも多かったです。アルバイトも、下積み時代の芸人生活も、労働搾取みたいな側面があったりするので、世界の低賃金で働く人びとや、労働問題にすごく反応してしまうところがあります。」
洋服も、中国やバングラディシュなどで作ってもらうことで、日本で安く着ることができる。
「目の前で10代の子どもがチクチク縫っているところを見た服だったら、そんな簡単に捨てられないですよね。僕には、新品同様の服が捨てられているのを見ると、彼ら彼女らの時間が捨てられているように思える。僕の祖父母は、新潟でお米を作っているので、ごみ収集場所でお米がどーんと捨てられているのを見ると、同じ理由で心が痛いです。」
「日本はこの20年賃金が上がらず、安いものを作って売って捨てて、ごみが大量に出るような国になってしまった。お金持ちとそうでない人のごみの話で言ったら、完全にそうでない人の出し方になってしまっています。」
「僕は、日本がお金持ちのごみの出し方ができる国になったら、この国はもっと豊かになると思うんです。無駄なごみを減らしたい、その裏で働いている人たちの労働について知ってほしい。僕はごみを通して、そんなことを伝えていきたいのかもしれません。」
日本がうまくごみと対峙できるようになったその時、この国は今の負のスパイラルから抜け出せるようになるのかもしれない。滝沢さんの観察力、分析力、そしてそれらを人にわかりやすくユーモアを持って伝えるお笑いの力で、『べき論』ではなく、面白く、楽しく、一人ひとりがごみに向き合っていけるようになったら、そんな未来にもたどり着ける気がした。
Well-living
Rule実践者たちの
マイルール
- 滞らせない
- 答えられる質問には全て答える
- 目の前のことを一生懸命にやる
- 問題を追う側になる
- 気づいたことはメモをとる、写真を撮る
PROFILE
- 滝沢 秀一さん Shuichi Takizawa
- マシンガンズ・お笑い芸人/ ごみ研究家
1976年、新潟県生まれ。大学在学中にお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。太田プロダクション所属。2012年にごみ収集会社に就職し、ごみ清掃員の仕事を始める。著書に『このゴミは収集できません』『ゴミ清掃員の日常』などごみに関する本を12冊出版。一般社団法人ごみプロジェクトを立ち上げ、代表を務める。環境省のサステナビリティ広報大使にも任命され、オンラインコミュニティ『滝沢ごみクラブ』の運営をはじめ、ごみ研究家として活動を行っている。
取材・文/木崎ミドリ 撮影/倭田宏樹 編集/丸山央里絵
- KEYWORD
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