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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2025.2.26

不要な寝具を再生素材に。
リサイクル業界をDXで導き
「廃棄大国日本を、資源大国へ」

内橋 堅志さん Kenshi Uchihashi
株式会社yuni 代表取締役
内橋 堅志さん Kenshi Uchihashi
株式会社yuni 代表取締役

サーキュラーエコノミー領域のスタートアップ企業である株式会社yuniは、寝具ごみの再資源化に取り組むリサイクル業界の新星だ。高い分別技術を持ちながらも、リサイクルに至らず、焼却処分を余儀なくされている日本の粗大ごみ事情に切り込む、代表取締役の内橋堅志さんを取材した。

サーキュラーエコノミー領域のスタートアップ企業である株式会社yuniは、寝具ごみの再資源化に取り組むリサイクル業界の新星だ。高い分別技術を持ちながらも、リサイクルに至らず、焼却処分を余儀なくされている日本の粗大ごみ事情に切り込む、代表取締役の内橋堅志さんを取材した。

寝具を回収して、再素材へ。
リサイクル率2%だった
粗大ごみの再資源化へ挑む

「今、日本では毎年約1億枚の寝具が廃棄されています。しかし、そのリサイクル率はたったの2%。アパレルの20分の1しか再生利用されていないんです。」

そう語るのは、布団やマットレスをはじめとした寝具の引き取りと再生素材化を行うサービス『susteb』を運営する株式会社yuni代表取締役社長の内橋堅志さんだ。

「ところが、この廃棄されている寝具、実は天然素材の宝庫なのです。たとえば、寝具を天然素材で新規製造しようとすると、羽毛布団であれば水鳥200羽分の羽毛が、綿布団であれば綿畑100坪分の綿が必要になります」と、内橋さんは語る。

日本では羽毛や綿はもう国内生産していない。その全てを輸入に頼っている。しかし、sustebが廃棄される予定だった布団から再生させた羽毛や綿を利用すれば、国内で天然素材よりも約40%もコストダウンした良質な素材が手に入るのだ。

天然素材よりも安価に、しかも海外から運ぶ手間なく手にすることのできる再生素材は今、寝具業界での再利用に留まらず、多様な業界から熱視線を浴びている。

全国3ヵ所にあるsusteb直営の再生工場には次々と廃棄予定だった寝具が届く

高校生で実家の手伝い。
まだキレイな寝具を捨てに
行くのが最初の仕事だった

内橋さんが“再生素材”、さらにいうと“ごみ”をビジネスにしようと思ったきっかけは、高校時代の実家の工場での経験にさかのぼる。

「実家が、寝具メーカーをしています。そこで、高校生のときに手伝いをしていたんですね。工場を継げと言われたことは一度もないし、そのつもりもなかったので、その時は単純に手伝いとして入っていました」と、内橋さん。

そこでの最初の仕事が、返品されたもの、もしくは工場での製造過程で一度でも床に落としてしまったものなどほぼ新品の寝具を捨てにいくというものだった。

「ごみ処理場では、法人からのごみ出しの日が決まっているので、その持ち込み日に列に並んで捨てに行っていました。ほぼ新品のものが毎月毎月大量に捨てられていく、その光景がかなり異様だなと感じていました。」

高校生ながらに心に引っ掛かりを感じていたと内橋さんは当時の心境を語ってくれた。

「10年後や20年後も、こんな捨て方を続ける未来はない。そう強く感じました」と、当時を振り返り語る内橋さん

ビットコインの会社を起業。
ものすごく儲かったけれど
まったく面白くなかった

実家の工場を継ぐことは考えていなかった内橋さんは、大学に進学。2014年の当時はまだそれほど注目を集めていなかったAIや機械学習を専門とする研究室に入り、エンジニアとしてのスキルを磨いていく。そして、卒業後は研究室を通じて出会った友人に誘われたことをきっかけに、ビットコインの会社の起業にエンジニアとして参加する。

「ビットコインは、正直ものすごく儲かりました。でも、全然面白くなかったですね。通帳の額はどんどん増えていくけれど、お金が増えても、なくなっても何も感じないというか」と、内橋さんは静かに語った。

「親の工場経営を見ていて、大変そうだということはわかっていたので、自分は仕入れの要らないビジネスをやりたいと思っていました。でも、一方でビットコインのような仮想の話では、生きている気がしなかった。フリーランスのエンジニアとして稼ぐことはできるけれど、自分にしかできないことってなんだろうと考えるようになりました。」

寝具工場の実態や機械について詳しく、AIやデータについても詳しいというのはめずらしいプロフィールなのではないか。内橋さんは自身の強みを生かし、できることをやって日本社会に貢献したいと考えるようになる。そうして2019年に立ち上げたのが株式会社yuniだった。

回収した綿布団は一つ一つ分解し、滅菌してからほぐし、綿素材として再生されていく

寝具の廃棄をなくす。
それだけではなく、
資源に変えていくビジネスを

sustebでは回収した寝具を、直営工場で分解。綿やポリエステルなどを素材ごとに仕分けて、洗浄や滅菌を行い再生している。ある国立大学と提携し、創業当時から、資源の再生素材化の研究に力を入れる一方で、商社やアパレルメーカーなど、さまざまなパートナー企業や研究機関と連携した共同研究を実施。再生素材の活用方法の拡大にも力を入れている。

再生した綿やポリエステルは現在、新たに製造される寝具へ利用されるほか、衣服や車のクッション材、さらには建築資材にも用いられている。

「先日は、私たちと取引のあるアパレルメーカーが、再生素材の利用をきっかけに海外ではなく国内工場に製造拠点を移す判断をされました」と、内橋さん。国内で手に入る再生素材の存在が、メーカーの製造ラインの設計の、大きな判断材料になったのだ。

「これまで、海外で素材を調達するのであれば、海外の工場で製品製造を行い、その後日本へ運び入れるというのが一番安価に商品製造を行えるスキームでした。しかし、国内で安価で素材が調達できるのであれば、国内の工場で製品製造を行った方が安く作れる。このことから、中国ではなく日本国内の工場に製造を委託する判断をされたのだそうです。」

再生素材の存在は、すでに国内の素材調達力の底上げ、さらには内需拡大に大きなインパクトを与え始めている。

工場ではAIを専門とする内橋さんが考案した機械で、再生素材化が進んでいく(下の写真提供:株式会社yuni)

キャッシュインポイントを
2つ見出したことで
安定的なビジネスが描けた

リサイクルをビジネスにしていくにあたり、内橋さんが直面したハードルにキャッシュフローの問題があった。再生化に時間がかかれば、ごみをただ持っているだけの期間が長くなり、資金ショートにつながりやすい。

そこで内橋さんは、リサイクルビジネスを軌道に乗せるために「先にキャッシュインのある仕組みを作った」と教えてくれた。

「私たちのリサイクル事業には2つのキャッシュインポイントがあります。ひとつ目が、寝具を引き取る時。焼却処分に掛かる費用を、sustebでのお引き取り費用へとリプレイスし、燃やすよりもsustebに渡した方がコストを抑えられる仕組みを作りました。ふたつ目が、再生化後の素材の販売時。キャッシュインポイントを2つ設けることで、事業が安定しました。」

合理的な仕組みを作った結果、廃棄したい寝具の引き取りを希望する自治体からの相談は後を絶たない状態に。天然素材と比較した再生素材のリーズナブルな価格設定と利用方法の開拓により、販売先も増えている。sustebでは現在、素材回収から再生、販売、再回収まで見事な循環サイクルを描くことができている。

焼却処分された東京のごみは、東京湾に埋め立てられる。しかしその埋め立てキャパシティは残り50年でなくなると言われている(Image by Pharaoh_EZYPT from Pixabay)

焼却処分場を減らして、
代わりに再生工場を。
「廃棄大国日本を、資源大国へ」

「実は世界の焼却処分場の50%が日本にあり、ごみの焼却率が世界一なんです。」

日本は、ごみ分別の技術は世界に誇るポテンシャルを持つにも関わらず、再生技術の開発や供給をする企業が少なく、せっかく自治体が分別を徹底して集めたごみも、これまでその多くはリサイクルに至らず焼却処分されてきたのだと内橋さんはいう。

「日本には資源はないけれども、ごみがある。資源化マッチング事業を行うことは、あるべき未来の社会を創ることにつながっていくと信じて、取り組んでいます。」

現在、株式会社yuniでは兵庫県、大阪府、山梨県に再生工場を有している。今後さらに、この再生工場を全国に展開し、その土地ごとに自治体と連携をしたローカルな素材の循環基地を作っていくことを予定している。

「日本中にある焼却処分場の変わりに、素材の再生工場を増やしていきたい。従来の廃棄を前提とした製造の構造ではなく、再生することを前提とした仕組みを作っていくことが私たちの未来には必要だと感じています。」

壮大な未来像を思い描く内橋さんを、突き動かしているものは何なのか。そう問うと、「 “グッドアンセスターになる”ということでしょうか」と、答えてくれた。

グッドアンセスターとは、未来の人の良き祖先であれ、という考え方だ。

「廃棄大国日本を、資源大国に再生する」をスローガンに掲げる内橋さんが未来に遺すのは、ごみが減り、日本の素材自給率が上がり、必要な素材がきちんと適正価格で手に入る未来の生活だ。限りある資源を大切に使う、循環型社会を支える屋台骨だ。

「今、年間に廃棄されている寝具は1億枚ですが、家で眠っている寝具は実は12億枚あると言われているんです。僕らはこれを採掘してさらに大きな市場を開拓していきます。さらに今後は寝具にとどまらず、さまざまな粗大ごみの再資源化にも取り組んでいく予定です」

家庭に眠る資源の採掘に意気込む内橋さんの瞳はキラキラと輝いていた。

山梨県都留市の工場にて仲間たちと。工場のマネジメントは工場長(写真右)に一任し、社員は地元で雇用。内橋さんは工場のDX化に取り組む

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 判断は人にゆだねない
  • 遠い世界にいる人を参考にする
  • 尊敬する人の真似をする
  • 15分単位で全ての行動を記録する
  • 未来にとって良い選択をする

PROFILE

内橋 堅志さん Kenshi Uchihashi
株式会社yuni 代表取締役

「日本を廃棄大国から資源大国へ変える」ことをミッションに掲げ、2019年10月に創業した脱炭素、サーキュラーエコノミー領域のスタートアップ、株式会社yuniを創業。寝具等の綿・羽毛・ウレタン・ブレス製品のお引き取りと再生素材化を行うサービス「susteb」及び、オンライン診断で作るパーソナライズドマットレスの「xSleep」の提供を行う。ICCスタートアップ・カタバルト、国際開発協力ソーシャル・イノベーション・チャレンジなどビジネスコンテストでの優勝多数。2023年にはグッドデザイン賞も受賞している。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #サーキュラーエコノミー
  • #環境問題
  • #ごみ問題
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