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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2026.5.25

居酒屋で捨てられていた「竹箸」が
長く愛用されるテーブルへ。
創意工夫を重ね、新たな価値を生む

村上勇一さん Yuichi Murakami
株式会社TerrUP 代表取締役
村上勇一さん Yuichi Murakami
株式会社TerrUP 代表取締役

「これ、まだ使えるんじゃないかな」その素朴な気づきから始まった挑戦が、今、美しい家具へと姿を変え、オフィスやカフェの空間を彩っている。株式会社TerrUP代表取締役の村上勇一さんは、年間43億膳が消費され、その大半が焼却処分される「竹割り箸」に新たな命を吹き込んでいる。

「これ、まだ使えるんじゃないかな」その素朴な気づきから始まった挑戦が、今、美しい家具へと姿を変え、オフィスやカフェの空間を彩っている。株式会社TerrUP代表取締役の村上勇一さんは、年間43億膳が消費され、その大半が焼却処分される「竹割り箸」に新たな命を吹き込んでいる。

捨てられるはずだった
竹割り箸が、美しい
テーブルに生まれ変わる

『TAKEZEN TABLE』と名付けられたそのテーブルは、空間に馴染む落ち着いた煤竹(すすたけ)色と竹本来の清々しい白、それらが幾何学的なグラデーションを描く一枚の天板が特徴だ。村上さんが展開するアップサイクル・プロダクトの主力商品だ。

「これ実は全部、使用済みの割り箸からできているんです」

村上さんが指差すテーブルは、一見すると寄木細工のようにも見えるが、よく見ると一本一本の箸の輪郭が、層となって重なり合っているのがわかる。コーティングされたテーブルの表面は、撫でると驚くほど滑らかだ。

「TAKEZENという名前には、竹箸の『一膳、二膳』という数え方と、禅(ZEN)の精神、そしてすべてを使い切る『全』という意味を込めています。最小サイズの天板一枚に、約1,250本もの割り箸が詰まっているんです」と、村上さん。

捨てられるはずだったものが、数百年の歳月を耐えうる家具として生まれ変わる。そのギャップに大きな可能性を感じていると、村上さんはいう。

「テーブルを使ってもらった人に、“割り箸でできている”と知ってもらうことを通じて、アップサイクルについて考えるきっかけを生む、そんな商品になってほしいという思いがあります。なので、割り箸でできているとは思えないクオリティを狙いつつも、どこかに割り箸感の残るデザインにこだわっています」

写真上:廃棄物処理を手がける国内大手の総合環境企業に納品したミーティングテーブル(写真提供:株式会社TerrUP) 写真下:テーブルの原材料となっている、使用済の竹割り箸

アイデアを30個書き出し、
動きまわるうちに
徐々に形になってきた道

村上さんは大学卒業後、大阪の商社で5年間勤務。その後、一念発起してイギリスへ渡りMBAを取得した。

「イギリスの大学院へ行こうと決めた時には、まだ何をやりたいかというのは明確には決まっていませんでした。ただ、自分で事業を興したいという気持ちはあり、その気持ちに従って行動を起こしたという感じです」

帰国後、自身の事業を立ち上げるべく、日々の生活の中で感じた違和感や課題をノートに書き留めていった。その数は30を超えたという。取り組む事業テーマを模索しているところに、かつてアルバイトをしていた飲食店から「人手が足りない」と声がかかった。新規事業の戦略を練る傍ら、夜は居酒屋で接客をする日々。そこで目にしたのが、宴会の後に山のように積み上がる、使用済みの割り箸だった。

「特に竹製の割り箸は、繊維が強くて再利用が難しく、再生方法がまだ世の中で確立していませんでした。リサイクルルートに乗る木製箸と違って、そのほとんどがただ燃やされる運命にある。数十分の食事のために使い捨てられるのは、あまりにも惜しいと感じました。社会的な意義もあると感じましたし、何より『物』として分かりやすい。まずはここからやってみようと思いました」と、村上さん。

「木工職人でも家具職人でもない自分が、とりあえず何か作って売ってみようということで、最初は小さいもの、コースターなどからつくりはじめました。最初はそこまでしっかりとプランニングをしていたわけではなくて。ただ、木の集成材があるということは知っていたので、この割り箸の集成材を作るなら……ということで調べていったところ、京都市に産業技術研究所という、公的に地域企業の技術支援を行っている施設があることを知りました」

集成材とは、断面寸法の小さい複数の板を乾燥させ、節や割れなどを取り除き、繊維方向を揃えて接着剤で結合してつくられた木材のことだ。バラバラの木をパズルのように組み合わせて、大きな一枚の木材に仕上げていく。村上さんは、竹箸を使って、このようなものを作れないかと考えた。

ここから、“わらしべ長者”ならぬ“わりばし長者”さながらの、村上さんの快進撃がはじまっていった

正解のない「板」づくり
試行錯誤を重ねた半年間で
生み出した独自の製造方法

使用済みの割り箸を、どうやって成形して、強度のある家具へと転換するか。

村上さんが門を叩いた京都市産業技術研究所には、“ドンピシャ”でその集成材の技術に精通する技術者がいた。彼に、木材代わりとなる竹割り箸を接着させる樹脂の選定に伴走してもらい、またプレス機材も借りて、村上さんの技術開発は一気に進んだ。

「いろいろなメーカーから樹脂を選定してもらって、僕が電話をして仕入れて、それをひとつずつ試していきました。割り箸と樹脂をプレスして、完成度を見て。何度の温度で固めるか、プレスでどのくらい押すか、最適な時間は何分か、という実験を重ねていったのですが、ずっとその技術アドバイザーの方が一緒に進めてくれました。本当に頭が上がらないですね」

現在、村上さんの制作拠点は、京都にある実家の元米屋の倉庫だという。かつて祖父が米を保管していた場所に、大きなプレス機が鎮座している。

「プレス機を自社で購入して倉庫に入れる時には、その技術アドバイザーの方も見に来てくれました。研究者肌なので、大喜びしてくれるというよりは、静かに喜んでくれるという感じで。嬉しかったですね」と、村上さんは当時を振り返る。

「ここで僕が割り箸を熱処理して、プレスして、集成材にする。そこまでの工程は今もすべて一人で担っています。祖父が大切にしていた仕事場で、新しい価値を生み出していることに、不思議な縁を感じています」

かつての米屋の倉庫で黙々と彼がプレス機に向き合う姿を想像すると、TAKEZENのプロダクトが持つ重みがより一層感じられる。

写真上:村上さんの制作拠点となっている、元米屋の倉庫 写真下:テーブルの天板となる集成材を作るために集めた竹箸を購入したプレス機で固めていく(いずれも写真提供:株式会社TerrUP)

技術開発を支えたのは、
小中高大と野球で培った
粘り強さと改良の視点

大量に廃棄された割り箸は、アルバイト先だった飲食店で袋に入れておいてもらい、それを村上さんが今も車で回収しに行っている。

「アルバイト先の系列2店舗から回収しています。他にも、最近では提携先のホテルから割り箸を回収し、そのホテルに納品する商品に使用するということも行っています」

地道に足で集め、粘り強い技術開発を続ける力の根源をたずねると、村上さんは少し照れ臭そうに「野球、ですかね」と答えた。小学生から大学生まで、人生の傍らには常に野球があった。

「ずっとピッチャーをしていました。ピッチャーって、孤独なんですよね。一球一球、自分で判断して投げ抜かなければならない。投球方法を改善して、もっと速く、もっと打たれないように投球するにはどうしたらいいかを工夫し続ける日々を十数年間過ごしてきました」

その「やり抜く力」は、イギリス留学へのプロセスでも発揮された。留学を決意した当時の英語力は、TOEIC400点。そこから働きながら毎日3時間の猛勉強を続け、3年かけて大学院の合格を勝ち取った。

「野球も勉強も、そして今の事業も、一つのことに対して努力していくというところは、僕の中で繋がっていると思います。一度はじめたからにはやり切りたい」

「少なくとも今後、十年以上はTAKEZEN TABLEを売れるものにしていくための試行錯誤を継続できる自信があります」と、村上さんは朗らかに笑った

オフィスやホテルに置かれた
家具を通じて、環境に思いを
馳せるきっかけを生んでいく

材料となる使用済の割り箸を確保し、それを熱処理し、樹脂で固めて一つの板にする技術は身に付いた。しかし、それを最終的なプロダクトとして美しく仕上げるには、熟練の職人の技が必要だった。

「はじめはコースターなどの小さいものばかりを作っていたのですが、企業からの案件で、今の主流商品となっているテーブルなどを作れないかという話になり、さすがにド素人が作ったものは納められないので……」

そこで、村上さんは、イメージに合うデザインに仕上げてくれそうなプロフェッショナルを探し始めた。最終的に、現在パートナーとなっている家具屋さんとはSNSを通じて出会った。素敵な家具屋さんと出会うことができ、次の悩みは販路の拡大へと移っていく。

「安定して販売を増やし、収益化につなげていくことが重要なのはわかっていたのですが、最初は難しくて。一人で建築事務所にピンポンをして営業活動もしてみたのですが、ぜんぜん駄目でした。最近になって、展示会がその後につながるというのが見えてきて、力を入れはじめています」

今年に入って、東京と京都で開催された大型ギフトショーにも出展し、TAKEZEN TABLEの存在は広く知られはじめている。

2026年2月4~6日に東京ビッグサイトで開催された「東京ギフトショー2026」にも出展した

テラ(地球)をアップデート。
社名には壮大な思いを込め、
それを一膳の箸に託した

2022年に創業し、2024年3月に株式会社TerrUPを設立。今では、サステナブルな都市開発の拠点である「シティラボ東京」や大手通信社、カフェなどから、次々と声がかかるようになった。オフィスの休憩室やカフェのスロープに、TAKEZENの持つ幾何学模様の美しいデザインが彩りを添える。村上さんの情熱は、着実に社会を動かし始めている。

「導入してくださった企業の皆さんがおっしゃるのは、『これが置いてあるだけで、社員の間で環境意識の話が自然に生まれる』ということです。ただの家具ではなく、対話を生むツールになっている。それは、僕が一番望んでいた形でした」

『TerrUP(テラップ)』の社名には、ラテン語で地球を意味する「テラ」を、「アップデート」していくという意味を込めた。そんな大きな決意を託した箸がアップサイクルされたテーブルが今、人々に環境意識を伝播していっている。

「野球では、僕は左投げピッチャーだったんですね。右投げピッチャーだったら多分埋もれて大学で野球をしていなかったと思うんです。左であることの『希少性』をどう活かすかを常に考えていました。それが今の、あえて誰も手をつけない『竹割り箸』というニッチな分野で勝負する戦略思考に繋がっているのかもしれません」

「今はまだ、僕が車で廃棄された割り箸を回収しに行っていますが、いずれは『ゴミ箱』ではなく『原材料の回収ボックス』を置いてもらって、循環の仕組みを作っていけたらと考えています。気がついたら、地球がちょっと良くなっていた。そんな、気負わない循環を作っていきたいんです」

村上さんの言葉の端々に、MBAホルダーとしての冷静な分析と、職人としての熱い執念が同居していた。「リサイクルできない厄介者」として燃やされるだけの存在だった竹箸を、村上さんは、技術とデザインを用いて、ホテルのラウンジでも使えるような「高付加価値なプロダクト」へと昇華させた。これは、「捨てられるはずだったものが、最も美しい場所に置かれる」という、価値の逆転劇だ。

消費社会に立ち向かう村上さんは、創意工夫を重ねながら、静かに、しかし力強い一球一球を投げ続けている。

使用済の割り箸で新しい価値を生み出すというコンセプトに共感してくれたFabCafe KYOTOに納品したバリアフリー用のスロープ。竹箸約8000本で作られている

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 売上をちゃんと立てる
  • 基本的には断らない
  • 少しずつ変えて継続する
  • 臆せず動いてみる
  • 人と違うことをやる

PROFILE

村上勇一さん Yuichi Murakami
株式会社TerrUP 代表取締役

京都生まれ京都育ち。大学卒業後、鉄鋼専門商社での営業職を経て、イギリスの大学院でマーケティングや経営を学ぶ。MBA取得後帰国し、2022年10月に竹割り箸を再利用し、インテリア家具の製造を行う「TerrUP(テラップ)」をスタート。2024年3月に株式会社化。廃棄される割り箸を幾何学模様が美しいテーブル等へ再生するブランド「TAKEZEN」を展開。商品を通して地球(テラ)を少しでもいい方向にアップデート(アップ)していきたいという思いを持ち、活動の幅を広げている。

文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #サーキュラーエコノミー
  • #ごみ問題
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