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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2026.7.7

庭をしまうのでなく、次世代へ繋ぐ。
一人の庭師の思いから始まった、
「植木の里親」という選択肢

山下力人さん Rikito Yamashita
株式会社やましたグリーン 代表取締役
山下力人さん Rikito Yamashita
株式会社やましたグリーン 代表取締役

庭木は、なぜ「処分されるもの」になったのか。家の建て替えや相続、引っ越しといった暮らしの転機が訪れるとき、現代の日本では、多くの場面で庭木はコストとして扱われ、やむを得ず処分される。行き場を失いつつある植物と向き合い、次の人や場所へ渡すための取り組みに力を注ぐ、株式会社やましたグリーンの山下力人さんに話を聞いた。

庭木は、なぜ「処分されるもの」になったのか。家の建て替えや相続、引っ越しといった暮らしの転機が訪れるとき、現代の日本では、多くの場面で庭木はコストとして扱われ、やむを得ず処分される。行き場を失いつつある植物と向き合い、次の人や場所へ渡すための取り組みに力を注ぐ、株式会社やましたグリーンの山下力人さんに話を聞いた。

伐採されるはずだった
庭木を引き取り、
生かしていく

手入れができない。維持費がかかる。近隣への配慮も求められる。
庭と庭木を維持することは、現代の生活においては想像以上に手間と負担が伴っている。とりわけ高齢世帯では、日常的な管理さえ難しく、都市部では落ち葉や越境枝が近隣関係に影響するケースもある。空き家の増加も重なり、庭の問題は個人の領域を超え、地域全体の課題となりつつある。

こうした背景の中で、多くの庭木が、伐採の判断へ向かっていく。しかし、その判断は、必ずしも割り切って下されたものではない。

「『本当は切りたくないけれど』と、庭木を前にためらう人も多いんです」と山下さん。
家族の記念日に植えたサクラやモミジ、亡き人が大切にしていた盆栽、子どもの頃に食べて埋めたビワの種から豊かに育った大木。庭木は単なる景観ではなく、その場所に根を張り、暮らしの時間を宿してきた存在。だからこそ、処分の判断の裏側には、整理しきれない思いが残っている。

庭木の伐採は、物理的な片付けであると同時に、記憶や感情の折り合いをつけていく行為でもあった。

「処分されるもの」になっていく庭木の状況を見つめ続けてきた山下さん。その違和感は、やがて次の一歩として現れる

植物が“もの”として
扱われる現場で
積み重なった違和感

山下さんが植物と向き合うようになった原点には、幼少期の体験がある。母親の実家がある檜原村(ひのはらむら)で過ごした時間だ。「車では辿り着けない山奥の集落にあって、祖父が作ってくれた竹鉄砲を片手に、自然の中で遊ぶことが大好きでした。親戚に大工や建築業などの職人が多く、茅葺き屋根にトタンをかぶせる作業をみんなでやった思い出もあります。」
自然や手仕事は、暮らしと地続きのものだった。

さらに進路を決定づけたのは、子どものころにテレビで見た庭師の姿。縁側から庭を眺めつつ客と語らう場面や、法被(はっぴ)姿で仕事と向き合う背中に、憧れを抱いたという。

「かっこいい仕事だな、と思いました。」
庭木は単なる外構ではなく、人の暮らしと共にあるもの——そうした感覚は、当時からすでに芽生えていた。

初めて庭師の仕事に携わったのは、高校一年の夏。友人の実家が造園業を営んでいることを知り、頼み込んでアルバイトをさせてもらった。見習いの仕事は枝の片付けや掃き掃除。「葉っぱ一枚残すな」と職人たちに教え込まれ、一日中、掃除に明け暮れた。
「仕事が終わって庭を見渡すと、整った枝ぶりが夕日に照らされて綺麗でした。忘れられない光景ですね。けれど……」

高校の卒業と同時に飛び込んだ造園の世界には、理想とは異なる実情があった。約15年の修行の間に庭師を取り巻く環境も変化し、個人宅の庭の手入れより公共事業の比重が増していく。植物が交換可能な“もの”として扱われる状況が、目の前で繰り返されていった。

「『新しい木を買った方が安いから』と、処分されることがほとんどでした。」
山下さんの語り口は穏やかだが、その奥には、社会や自分自身へ向けた強い問いがある。

植物を移植する技術は古くから存在している。しかし、実際に行うには手間と技術を要し、コストもかかる。新しい樹木は安定して安価に供給されているため、役目を終えた樹木は切って処分し、新しく植える選択が合理的な判断として定着していた。山下さんはそこに違和感を覚え続けた。

植物は “もの”として扱える存在なのだろうか。

「おもしろいことがあるんですよ。私が庭木を剪定しているとき、気持ちがいいと感じる木と、そうでない木があるんです。」

枝の伸び方や葉の張り、刃を入れたときの抵抗感など、一本ごとに異なる状態や反応があることを、日々植物に触れる中で感じていたのだろう。そうした感覚の積み重ねは、やがて現象として捉えられるようになり、後に知識として裏付けられていく。「例えば、一本の木に虫が付いても、周囲の木には移らない場合があります。それは、虫が付いた木が揮発性の物質を出して、他の木が危険を察知して防御物質を増産するからなんです。植物の本能ですね。」

広大な森に限らず、住宅の庭先でも、植物は互いに影響し合いながら生きている。効率的に切り分けられるものではない。

「庭師の仕事は、単に枝を切るだけではなく、残す枝を選ぶ視点も大切」と山下さん。葉や枝の状態を注意深く観察し、言葉で表す様子は、まるで植物と人の通訳のよう

一本のツツジと
持ち主のひと言から
植物の循環が動き出す

現場の状況に疑問を感じていた山下さんが、独立を果たしたのは2008年。折しも社会では「庭じまい」の考えが広がり、庭を維持する文化自体が縮小していた。

「自分がやりたかった庭師の仕事と、現実が少しずつズレていきました。」

迷いの中で山下さんは大きな事故に遭う。台風後の公園で樹木を伐採する作業中に切り倒した木の下敷きとなり、頚椎骨折という命に関わる大怪我を負った。そして半年以上もの間、現場を離れざるを得ず、思うように体を動かせないベッドの上で、「このままでいいのか」とこれまでの仕事のあり方を見直すことになった。

退院後、もう一つの転機が訪れる。それは、いつもと変わらない庭木の伐採依頼だったが、電話の向こうの依頼者の声は、どこか迷いを滲ませていた。自宅の建て替えに伴い処分される予定だったのは、ツツジの木。詳しく話を聞いてみると、亡き夫が大切にしていたツツジだとわかった。

「それなら、僕が引き取って育てましょうか。」

特別な準備があったわけでは、ない。ごく自然に溢れたひと言が「植木の里親」の原点となった。依頼者は涙を流して喜んだ。

この日を境に、山下さんは現場で依頼者へ問いかけるようになる。「この木に思い出はありますか。それはどんなものですか」。すると、ほとんどの庭木にそれぞれの物語があった。「不要になった木」として相談される植物の背景には、人の記憶や関係性が重なっていた。

そうした木々をできる限り持ち帰るようにした小さな活動は、地域紙に紹介され、大手メディアに取り上げられ、テレビで放送されたことで、一気に認知が広がった。中でも朝の情報番組のオンエア直後に寄せられた問い合わせは、2日間で120件以上。「全国各地から相談が届き、驚きました。庭木を本当は廃棄したくない人や、それなりの費用が掛かったとしても伐採したくないと願う人が、想像以上に多かったのです。」

伐採される予定だったサクラの木。やましたグリーンの敷地の一角で、春の訪れを告げていた

引き取った木々を
「もらえる植物園」という
セカンドステージへ

「植木の里親」の取り組みは多くの共感を呼び、敷地は引き取った植物であっという間に埋まるようになる。しかし、植物の新しい家を探す「里親探し」は思うように進まず、知人や取引先に声をかけても対応には限界があった。「命を次へつなぐ仕組みが必要だ」と考えた山下さんは、この流れを、再現可能なサイクルとして設計していく。

その第一歩として整備されたのが、引き受けた植物の受け皿となる「もらえる植物園」である。

「植物がたくさんあるのだから、植物園として開放したらどうかな」と、山下さんの妻のひと言から生まれたスペースは、誰でも自由に散策できるように公開されており、気に入った植物は無償で譲り受けられる。費用は移植や運搬にかかる作業費のみ。

特筆すべきは、ここでは植物たちの手入れや剪定を、庭師を目指す若者たちに任せている点。従来はハサミを握るまでに数年の修行を要し、その間に離職してしまうケースもみられたが、やましたグリーンでは、見習いの段階から実際の植物に触れる環境が整っている。

さらに「お庭のカットモデル」と名付け、見習い職人が庭の手入れをする低価格のサービスも組み合わせ、技術力の向上と依頼人の満足を両立させている。伝統的な徒弟制度とは異なる、開かれた学びの場では、入社1年目の若手も実践を積み、主体性のある仕事に誇りとやりがいを感じていた。

写真上:庭木たちは、根を傷つけることなく掘り起こされ、鉢に移した状態で管理される
写真下:育ての親から引き受けた植木は、若手スタッフが中心となって手入れを施し、里親のもとへ。三者の間で植物の命が受け継がれていく

持続可能性を見据えた
事業構造の設計と
残されたコスト課題

「植木の里親」「もらえる植物園」、そして「お庭のカットモデル」。循環が回り始めた一方で、こうした施策を持続させるために、コストの問題は避けて通れない。移植の費用は現場の状況によって異なるため一概には言えないものの、数万円から十数万円は掛かるという。処分する方が効率的だと受け止められてしまうのが実情だ。

造園業は基本的に、剪定や伐採といった作業そのものに対して対価が支払われるビジネスである。その中で「植木の里親」は、事業全体の約3分の1を占めるまでに成長し、収益を支える柱の一つとなった。思想と意義から始まった活動を会社のビジョンとして明確に打ち出した結果、若手の庭師も継続的に雇用できるようになり、組織としての基盤が強まりつつある。

また、コストの課題に対しては、別の収益の流れを組み合わせる方法も模索している。例えば、動画コンテンツを通じて剪定のノウハウを公開し、技術の価値を別の形で回収する試みだ。将来的には、その収益を事業に還元することで、植物の“育ての親”と“里親”の負担を軽減し、場合によっては無償で対応する可能性も視野に入れている。

別々に存在していた課題が、一つの仕組みの中で同時に解消されていく。その設計そのものに、庭師としての信念と経営者としての視点が重なっている。

若手の庭師とともに現場に立ち、実践を通じて技術や考え方を伝える山下さん。「我々の世代の職人では考えられないような意見や提案もどんどん出てくるんですよ。新しい風が吹く、そんな期待がありますね」

「切る」から「つなぐ」へ
社会課題としての
庭じまいと、新しい価値

日本の家屋から庭が減り、身近な植物が失われていく中で、山下さんは「つなぐ」という選択肢を提示した。これまでに引き受けた植物は約1900本にのぼり、里親の希望者は個人にとどまらず、企業や教育団体へ広がっている。

「植木の里親」は、単純に木を移動させるサービスではない。
庭木をきっかけに、人と植物の関係性をつなぎ直し、新たな循環を生み出す試みだ。

庭木を手放さざるを得ない人にとっては処分以外の選択肢となり、新しく庭を作る人にとっては成熟した植物を受け入れる機会となる。そして、環境の観点から見れば、廃棄されるはずだった植物を生かす機会になる。

植物は、人よりもはるかに長い時間を生きる。だからこそ、この循環は、特定の業者だけに閉じることなく、地域に根ざしていくことが望ましいと、山下さんは加えた。「僕たちが全国各地へ出向くだけでなく、植物が生まれ育った土地の庭師が引き受け、その地域の人や企業へ任せられるようになるのが理想です。」

切断ではなく、つないでいく。前向きな選択肢が連なっていく。

あの日、山下さんが里親へ受け渡したツツジの木は、今も美しい花を咲かせている。「植木の里親」の取り組みは、人と植物、人と庭との関係を、静かに更新し続けている。

八王子だけでなく新潟や長野など、さまざまな場所から引き取られた庭木たちが、里親を待っている。人と植物との循環がここから広がっていく

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 植物を“もの”として扱わない
  • 名前を知らないままにしない
  • 一本ではなく、全体の関係性を俯瞰して見る
  • 人とも植物ともていねいに対話する

PROFILE

山下 力人さん Rikito Yamashit
株式会社やましたグリーン 代表取締役

1977年生まれ、東京都八王子市出身。母親の実家がある檜原村の豊かな自然がきっかけとなり、高校時代から造園業に携わる。以降、約15年の修行を経て2008年に独立。2012年、株式会社やましたグリーンを設立した同年から「植木の里親」活動に着手し、従来の造園工事や植栽管理などの植木事業に加え、庭木の循環を軸とした環境型事業を展開。環境省が主催するグッドライフアワード、グッドデザイン賞ベスト100などでも高く評価されている。

文/宮部真理子 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #環境問題
  • #サーキュラーエコノミー
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