壊れたら、直して使い続ける、
そんな物との関係が当たり前な社会へ。
日本に「リペア」文化を広める挑戦
- 平田健夫さん Takeo Hirata
- 株式会社CYKLUS 代表

- 平田健夫さん Takeo Hirata
- 株式会社CYKLUS 代表
今の日本では、物が壊れたら捨てて、新しいものを手に入れることが当たり前になっている。その文化を変えていきたいと奮闘しているのが「モノを大切に使い続けるカルチャーを育む」をミッションに掲げる株式会社CYKLUSだ。リペア文化をビジネス、コミュニティ、カルチャーの3つの軸で根付かせようと奮闘する代表の平田健夫さんの思いと活動を取材した。
今の日本では、物が壊れたら捨てて、新しいものを手に入れることが当たり前になっている。その文化を変えていきたいと奮闘しているのが「モノを大切に使い続けるカルチャーを育む」をミッションに掲げる株式会社CYKLUSだ。リペア文化をビジネス、コミュニティ、カルチャーの3つの軸で根付かせようと奮闘する代表の平田健夫さんの思いと活動を取材した。
リペアをすることの価値、
それによってもたらされる
心の豊かさを伝えたい
「壊れたら買い替える」ことから「直して長く使い続ける」ことがスタンダードになる世の中へ。人と物の関係性を見直し、世の中の流れを変えていきたいと語る平田さんは、起業する前の10年間、パタゴニア日本支社のリペアセンターに勤務していた。
「パタゴニアはアメリカ発のアウトドアブランドで、『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』ということをミッションに掲げています。私は、そこのリペアセンターの中で、長年愛されて使われてきて壊れた物が届き、人の手で直され、持ち主の元へ戻っていく、その様子を毎日たくさん眺めてきました」と、平田さん。
「物には一つひとつ、作り手や持ち主のストーリーがあって、思い出が詰まっている。特にイベントを行うと、直った物を手にする人の大きな喜びに接することも多く、私はそうした体験を重ねるうちに、リペアを仕事の軸にしていきたいと思うようになりました」
そうして、リペアをすることの価値やそれによってもたらされる心の豊かさといったことを体感した平田さんは2024年7月に独立、株式会社CYKLUS(サイクラス)を立ち上げた。

作りっぱなし、使いっぱなしで
誰も最後まで責任を負わない。
そんな悪循環を断ち切りたい
パタゴニアの前にも複数のアパレルの会社での勤務を経験してきた平田さんは、当時抱いていた葛藤をこう語った。
「私は長く、アパレル企業の中で、セールスやマーケティング、PRやプロモーションを担当してきました。ファッションを楽しむ、というアパレルの魅力を感じながら仕事をしていたものの、物をたくさん作ってたくさん売ることで利益を上げて成り立つビジネスのあり方に、次第にジレンマを感じるようになりました」
「具体的にいうと、海外で安価に作られた衣類が、日本に入ってきて、要らなくなったら捨てられて。不用品回収された衣類は、仕分けするコストもないのでそのままアジアを中心とした海外に送られる。一部は古着としてまた日本に仕入れられることもありますが、売れなければ最終的にはチリの砂漠に山積みにされ放置される。これはほんの一例ですが、実際に産業としてこのような流れが当たり前になってしまっています」
「そもそもが、作りすぎというところがあるのですが、それが結果的に大量廃棄につながっていて、企業側もユーザー側も責任を負わない。作りっぱなしだし、使いっぱなし。先進国で作られたものが最終的に途上国に押し付けられているという構図もおかしいですし、経済コストも環境コストもかかりすぎてしまっています」
そうした違和感を払拭してくれたのが、パタゴニアで出合った「リペア」という仕事だったという。


自社だけではなく
他社とも共創して描く、
大きなサーキュラーの絵
平田さんのキャリアと思想に大きな影響を与えたパタゴニアは、「BETTER THAN NEW(新品よりもずっといい)」というメッセージを掲げ、「Worn Wear(着古された服)」というリペアやリユース、リサイクルを推奨する取り組みに力を入れている。
パタゴニア・ヨーロッパでの取り組みでは2022年、オランダの企業と共同で、アムステルダムに「ユナイテッド・リペア・センター(URC)」を設立した。このリペアセンターがユニークだったのは、業界全体で「服を捨てずに長く着る」文化を広めることに注力するため、複数のアウトドアやアパレルブランドの修理を請け負う仕組みに加えて、難民などの雇用・技術訓練の場としても機能していることだった。
そうしたグローバルの動きは、日本支社で働く平田さんの仕事にも大きく影響した。平田さんは日本支社のリペア部門のディレクターを経て、社内で新設されたサーキュラリティ部で、壊れた製品の回収から再利用までのフロー構築の仕事を担当するようになる。
「社内でサーキュラーな仕組み作りに向き合っていくうちに、自社にとどまらず世の中全体で仕組みを作っていくことが、廃棄物を大きく減らし、地球のリズムを取り戻すことにつながっていくということを強く感じるようになりました」
他社も巻き込んで世の中を変えていくためには、日本ではまず、経済的にも環境的にも持続可能なリペアのビジネスモデルが必要であることを、平田さんはやがて強く実感するようになる。


ビジネスとコミュニティと
カルチャー、3つの軸で
循環型ビジネスを形にする
そうして生まれた株式会社CYKLUSの社名は、デンマーク語で「循環」を意味し、また地球が本来もっているサイクルにあわせてゆっくり暮らす、という想いも込めている。事業を始めて2年ほどが経った。
「CYKLUSでは、主に3つの軸でリペア文化を日本に根づかせようとしています。まずは持続可能な循環型の『ビジネス』を企業単位で構築すること。そして、そのコンセプトを共有する『コミュニティ』を広げ、さらに、社会全体で循環を楽しむ『カルチャー』を育てていくこと。この3つが揃うことで、地球のリズムに調和したリペア文化が社会に浸透していくと考えています」と、平田さんは言う。
ビジネスの軸では、国内企業に対し、サーキュラーエコノミー事業やサステナブルマーケティング推進の支援を行っている。中長期戦略の立案からロードマップの策定、マーケティングやプロモーションまで、環境と経済を両立させるための事業開発を支援している。
他方で、⾃治体や地域の人々と協力して、その地域の特性を活かしたサーキュラー・コミュニティの構築も⾏っている。地域の高校生や大学生と連携し、キャンパス内で衣類回収やセルフリペアを学べるワークショップを運営したり、壊れたものを持参して職人からリペアの方法を学び、その場で自ら修理することのできるイベントを開催したりするなど、カルチャーの浸透に尽力している。
「リペアを好み、受け皿になる人たちが増えていけば、企業も変わりやすくなる。ビジネスの仕組みと文化の両方が回っていくと、社会に利益が広がっていって、産業構造が変わって、消費行動も変わっていく。だから、両方からのアプローチが不可欠なんです」

地域に根差した循環の文化を
生み出し、発信する
『ぐるぐるふくい』プロジェクト
CYKLUSの取り組みの代表例として、2024年に環境省モデル実証事業に採択された『ぐるぐるふくい』というプロジェクトがある。福井県が中心となって、循環型社会の実現を目指すプロジェクトだ。
福井県は合成繊維の長繊維織物において世界でもトップクラスの生産規模と技術を誇る、一大繊維産地。しかし、それと表裏一体で、生産工程で繊維ゴミが大量に排出されているという、長年の課題を抱えていた。
そこでこのプロジェクトでは、合成繊維であるポリエステルの廃材を回収し、ペレット化し、再生した素材を使って新たなマテリアルリサイクル糸を開発。福井発の新製品作りに再び活用していく。CYKLUSは本プロジェクトの具体的な循環の仕組みを作る実務を担っている。
「ぐるぐるふくいで僕が面白いなと感じているのは、繊維大国・福井で出たポリエステルやナイロンの端材を一回溶かしてペレットにして、それを大阪でウールとポリエステルの綿を混合したマテリアルリサイクル糸にして、その糸を使って和歌山でニットの生地を作って、それを福井の縫製工場に戻してニット製品にして……と、福井だけで全てを完結させるのではなく、周辺の技術を持つ地域を巻き込みながら、共創で実現していく仕組みになっているところです。福井を一回出て、また帰ってくることも含めての “ぐるぐる”になっているんです」
ぐるぐるふくいでは地元でイベントも展開しており、福井の繊維業界が力を合わせて、未来に向けたサステナブルなファッションやライフスタイルの提案を行っている。会場には繊維や古着、食のブースが並び、ワークショップやトークライブが行われる。平田さんもそこに登壇し、サーキュラーエコノミーの考え方を広める役割を担う。


リペアを、ブランドや
企業の垣根を超えた
「社会のインフラ」に
最後に、平田さんが未来の構想として掲げる、日本版の『共創型リペアセンター』についても話を聞いた。
「企業への支援を続けている中で実感するのが、企業単体としてリペア機能を持つことが難しい会社は多いということです。複数の会社と連携して技術者を共有し、リペアのプラットフォームを作っていくことができたら、世の中に新しい価値を提供できるようになると思っています」
平田さんの提唱する共創型リペアセンターは、製品を作るブランド、リペア資材メーカー、縫製工場、リペア技術者などが参加し、単なる「修理工場」の枠を超えた、持続可能な社会を実現するためのハブとなる拠点にする予定だ。
個別のメーカーが自社製品だけを直すのではなく、複数のブランドが協力して一つの拠点を活用する。また、ユーザーが、リペア職人が物を直している様子を見られたり、ユーザー自身がメンテナンスに参加できたりするような楽しい仕掛けも考えていると平田さんはいう。
個々の企業の支援を続けながら、CYKLUSは仲間を増やし、新しいエコシステム構想に向けての歩みを着々と進めている。やがて実現すれば、この社会の大量生産、大量廃棄のサイクルがアップデートされ、人と物の関係性は変わっていくに違いない。
そうして、いつのまにか奪われてしまっている、私たちの「修理して使い続ける権利」は取り戻され、「修理して使い続けることがクールで当たり前」な文化が生まれていくだろう。

Well-living
Rule実践者たちの
マイルール
- フェアであること
- 感謝を忘れない
- 自然とのつながりを大切にする
- 言い訳をしない
- 仲間との信頼を大事にする
PROFILE
- 平田健夫さん Takeo Hirata
- 株式会社CYKLUS 代表
アパレル企業3社にて営業、製品企画、マーケティング業務を歴任後、2015年にパタゴニア日本支社に入社。サーキュラリティ部門ディレクターとして、製品を長く使い続けるための「Worn Wear」プログラムの推進やリペアセンターの運営、リセールビジネスの導入を主導した。2023年に独立し、CYKLUSを創業。2026年4月に株式会社化。ブランド共同リペアイベント「DO REPAIRS」の開催や「Community Loops」プロジェクトへの参画を通じて、サーキュラービジネス支援や地域循環コミュニティの構築に注力している。
文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵
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