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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2023.01.25

新興国のシビアな現場に
日本のビジネスパーソンを派遣。
経験が人と社会を変えていく

西川 理菜さん Rina Nishikawa
NPO法人クロスフィールズ 事業統括ディレクター
西川 理菜さん Rina Nishikawa
NPO法人クロスフィールズ 事業統括ディレクター

今回お話を伺ったのは、『留職プログラム』を手掛けるNPO法人クロスフィールズで、事業統括ディレクターを務める西川理菜さん。日本企業で働く人材を新興国に派遣し、社会課題の解決に挑んでもらうこのプログラムは、どのように海外の課題を解決し、そして日本のビジネスパーソンを元気にしていっているのか。そのイノベーティブな取り組みを取材した。

今回お話を伺ったのは、『留職プログラム』を手掛けるNPO法人クロスフィールズで、事業統括ディレクターを務める西川理菜さん。日本企業で働く人材を新興国に派遣し、社会課題の解決に挑んでもらうこのプログラムは、どのように海外の課題を解決し、そして日本のビジネスパーソンを元気にしていっているのか。そのイノベーティブな取り組みを取材した。

海外の課題を解決し、
日本で働く人を元気にする。
その理念に魅了された

西川さんがクロスフィールズと出合ったのは、日本企業で営業を担当していた社会人2年目の頃。やりがいを見出せずに仕事に取り組む先輩の多さに驚き、仕事ってそれでいいのかな?とモヤモヤしたものを抱えている時期だった。

そんな時、たまたま雑誌で特集されていたクロスフィールズの記事を目にする。「海外の課題を解決し、日本のビジネスパーソンを元気にする」と書かれた代表のインタビューに魅了された。その後、西川さんは代表の登壇するセミナーに直接足を運び、そのままラブコールをして入社を果たす。

「世界史の授業を受ければ、『人間って、なんでずっと戦争をしているんだろう?』『人と人が殺し合う、不幸にし合う連鎖はなぜ消えないのだろう?』そんな疑問で頭の中がいっぱいになるような高校生でした。」

そう笑って話す西川さんは、大学時代はカンボジアやメキシコへのボランティア派遣プログラムに参加するなど、国際問題への意識の高い学生だった。就職先では、国連をめざすもそこは狭き門。それならば、まずはビジネススキルを身に着けて、将来は新興国で現地の人と対等な立場でともに社会課題を解決するビジネスに関わるような人間になりたいと、最初の就職先には民間企業を選んだ。

しかし入社して目にした先輩たちの熱意なく働く姿に、思わず「仕事、楽しいですか?」と聞かずにはいられなかった。新入社員の無邪気な質問に、「いや、あんまり楽しくないけど仕方ないよね」「家族もいるから、守るべきものために自分を殺して仕事をしているよ」と先輩たち。人生の中で占める割合の高い仕事の時間。無視できない時間をそこに充てているのに、熱意を持てないだなんて。

「ここにも社会課題があった、そう思いました。」と西川さんは話す。「これまで海外の課題にばかり目を向けていたけれど、日本の大企業に入ったら、日本の課題もたくさん見えてきました。」

学生の頃から関心の高かった海外の課題、そして社会人になって出合った日本のビジネスパーソンの抱える課題。この2つに対する違和感が見事にマッチした天職のような仕事に出合えたと、クロスフィールズに加わることによって、西川さんは実感していく。

大学2年時にカンボジアでボランティアに参加した西川さん。何かしてあげたいという熱意を持って現場へ足を運んだ。しかし、「そこでは自分がしてあげることよりも、自分が“受け取るもの”や、“気づかせてもらうもの”の方が断然多かったんです」と話す

社会課題の現場と日本の
ビジネスパーソンをつなぐ
『留職プログラム』

『留職プログラム(新興国派遣/国内派遣)』は、日本の若手ビジネスパーソンに、国内外で社会課題解決に挑むNGOやスタートアップに飛び込み、本業のスキルと経験を活かして社会課題の解決に挑む機会を提供するプログラムだ。

派遣元企業側から推薦された育成対象の人材と、その人が最も貢献できる組織と仕事をマッチングして派遣する。現地業務を通して社会課題解決の一端を担うこと。そして、留職者自身に成長の機会を与えることを目的としている。

推薦された人材=「留職者」は、事前研修を受け、現地滞在期間3~12カ月で任されたプロジェクトを完了し、所属元企業に帰任する。留職者が現地で業務にあたる期間は限られているものの、派遣先の現地団体からのサーベイ結果は、毎回満足度がほぼ100%という成果を上げている。

その成功の鍵を握るのは、プロジェクト設計だ。全ての留職者にはプロジェクトマネージャーが専属で付き、現地とのマッチングからプロジェクト完了までを伴走する。エンジニアの留職であればシステム設計で困っている派遣先はないか、リサーチャーの留職であればリサーチ案件のニーズはないかなど調べ、留職期間である程度完結し、現地団体のメンバーに引継ぎができるプロジェクトを事前に練り上げる。すでに2,000件近い派遣先候補となる現地団体とのネットワークがあるが、リストの中でマッチングする業務内容がなければ、留職者に合わせて新たに開拓もしていく。完全なるオーダーメイド型の派遣システムだ。

NPO法人クロスフィールズのメンバーは現在30人弱。国境やセクター、既成概念といったあらゆる枠を超える挑戦を行う人と組織に伴走し、さまざまな領域(Fields)の橋渡し(Cross)をしているチームだ(写真提供:NPO法人クロスフィールズ)

あなたのやっていることは
本当に現地のためになるか、
ひとりよがりになっていないか

西川さんがクロスフィールズ加入から4年間で担当していたプロジェクトマネージャーという職務では、現地とのマッチングから、手厚い事前研修、現地同行しての立ち上がりフォローアップ、その後の週1ペースでのオンラインコーチング、プロジェクトの進捗管理まで、一貫して留職者に伴走する。

プロジェクトマネージャーは留職者が最もそのスキルを発揮できる仕事をマッチングするが、現地でその仕事をどのように組み立てて進行していくかは留職者にゆだねられる。留職者が、現地の代表に「自分は何をすればいいのか」を聞けば、「It’s up to you.(君次第だよ)」と言われる。「大企業出身の方ほど、全てをゆだねられるこの環境で何をすればいいかわからず立ち止まってしまうことが多いです」と、西川さん。

週1回のオンラインコーチングでは、「あなたはどう現地に貢献したいのか」「それは本当に現地のためになるのか」「ひとりよがりになっていないか」を留職者と対話していく。

新興国派遣型の場合はインドやベトナムなどアジアが中心だが、最近はウガンダなどアフリカでの事業も開始した。共通言語は、英語だ。留職者には、最低限の英語力が求められるが、それ以上に重要なのが「他責にしない」精神だと、西川さんは言う。

「仕事が進まないのは、代表が時間を取ってくれないから。ネット環境が悪いから。など、他責にしてしまうと何もできなくなってしまう。そうではなくて、自分が失敗したときに、それを次にどう生かしていけばいいかを内省できる人、フットワークが軽く自発的に行動できる人は得るものがとても大きいと思います。」

そして、留職経験者が口をそろえて言うのが、留職を通じて「仕事の本質」を考え行動できるようになったということ。本当の意味で社会に役立つということはどういうことか。それを実現するにはどう行動すればよいのか。文化も背景も、環境も違う場所と人が相手だからこそ、その本質に向かう姿勢が問われていくのだという。

写真上:ハウス食品に勤務する藤井佑典さんは、2018年に留職プログラムへ参加。写真は、タイで農家支援に取り組む「サイアムオーガニック」の研究室に彼が初めて案内された時の様子。現地では米商品の開発に携わった
写真下:プロジェクトマネージャー時代の西川さん(左手前)。留職者の藤井さん(左奥から3番目)や現地のメンバーたちと食卓を囲んで(いずれも写真提供:NPO法人クロスフィールズ)

「社会課題が解決
され続ける世界」を
めざすという壮大な夢

「クロスフィールズは、たった30名弱の小さな組織。その人数で、組織のビジョンである『社会課題が解決され続ける世界』を本気でめざして邁(まい)進しているのですが、正直時々、大海に水を落とすような現実との規模感のギャップに圧倒されてしまうこともあります」と、西川さん。

クロスフィールズが留職事業を始めて11年。これまで10か国に合計250名ほどの留職者を派遣してきた。新興国でのビジネスを通じた社会課題解決の実践という、強烈な体験を経て帰国してくる留職者たち。10年前にインドへの留職を経験した人の中からは、現在、派遣元の会社で当時の留職で取り組んだ課題の延長線である、インドの糖尿病を未然に防ぐための予防医療事業を立ち上げる人も出てきた。確実に化学変化は起きている。

コロナ禍を経て国内派遣もスタートした。宮城県石巻市を拠点に農業を通じた就労支援を行う一般社団法人など、日本国内で活動をするNPOや社会的企業に、半年から一年に渡って人材派遣する留職プログラムだ。国内にも多くの社会課題が存在する。海外、そして国内ともに、クロスフィールズをハブにした人材交流がはじまっている。

同僚とのミーティング。「社会課題が解決され続ける世界」を本気で目指すメンバーばかりで議論はいつも熱が入る

自分の持つ “志”が
社会とつながっていく
“志事”が世界を変えていく

「クロスフィールズでの仕事を通して、私自身が、ようやく生きやすくなりました」と、西川さんは言う。「私、もともとはすごく“いい顔しい”な人間だったんです。ずっと誰かの求める自分になろうとしていた。けれど、コーチングは鏡ですよね。プロジェクトマネージャーの仕事を通して、留職者に本当は何をしたいのか、それはなぜかを問うているうちに、その質問を自分にも問い始めた。」

「そして、もっと純粋に、自分のときめきを中心に意思決定していいって思えるようになったんです。」

プロジェクトマネージャーという、タフな環境でもがき社会のために価値を生み出そうと踏ん張っている留職者たちに伴走する仕事を通して、西川さん自身にもたくさんの気づきが生まれていた。

そんな西川さんが今、自ら企画運営しているのは「未来人材の育成」だ。クロスフィールズでは2022年12月、初めて高校生に向けてグローバルキャリアを探求するための2カ月のオンラインプログラム『CROSS BRIDGE』の提供を開始した。

「オンラインでカンボジアの工房で働く女性や、ウガンダの社会課題に挑むリーダーなどとつながって対話し、学びを深めるような内容を用意しています。あらゆる立場の大人と出会って、自分の進路の可能性を広げてもらえたら。」

昨今、コロナ禍の影響も相まって、急速に海外への視野は狭まってしまっているように感じる。しかし、未来を創っていく高校生たちには早い段階から、海外から見た日本の状況や、世界には本当にいろんな人がいて、自分たちの将来には無限の可能性があることを知ってほしい。基本をオンライン型としたことにも、西川さんのこだわりがある。

「教育アクセスの格差をなくしたいという思いから、本プログラムはオンラインをベースにしました。そのため、北は福島から南は沖縄まで全国から計30名の高校生が参加しています。」

日常ではなかなか直接知ることのない、海外の社会課題。そこに学生のうちから目を向けることによって、世の中で起きるさまざまな問題を「自分ごと」にできるようになるのだと、西川さんは言う。

ともすると、自分は関係ないと思いがちな、世の中の出来事。社会課題が、自分に関係するものだと感じられた時、一人一人の中に「志」が生まれる。その志は、本当の意味で人の役に立つ、社会に役立っていると実感できる仕事を生んでいく。目の前の仕事が「志事(しごと)」になる時、世の中は少しずつ良い方向に変わっていくはずだ。西川さんたちはそう信じて、今日も世界に目を向けながら、目の前の志事を進めている。

自らのときめきを大切にするようになった西川さんは、2019年にクロスフィールズを休職して1年間イタリア留学へ。ジュエリー製作を学び、帰国後には自身のジュエリーブランド「onde」を立ち上げた。ジュエリーを通じて社会課題解決に挑むのが今の夢だ

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 違和感を大事にする
  • 自分に嘘をつかない
  • 迷ったらときめく方へ
  • 背景や思いを大切にする
  • 違和感はあえて顔に出す

PROFILE

西川 理菜さん Rina Nishikawa
NPO法人クロスフィールズ 事業統括ディレクター

早稲田大学政治経済学部卒業。民間のIT企業で営業として勤務したのち、2015年にNPO法人クロスフィールズに加入。プロジェクトマネージャーとして留職プログラムなどを担当後、広報・マーケティング統括リーダーに。現在は事業統括ディレクターとして、経産省「未来の教室」事業も担当し、全国の高校生が海外の社会課題とつながり、キャリアや進路について考える2カ月の短期プログラム『CROSS BRIDGE』の推進を行っている。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #越境人材
  • #グローバル
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