50カ国で20万カ所以上!
無料の給水スポットが探せる
mymizuが描く持続可能な世界
- ルイス・ロビン敬さん Robin Takashi Lewis
- 一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事

- ルイス・ロビン敬さん Robin Takashi Lewis
- 一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事
「給水」で、世界を変えようとしている人物がいる。カフェや公共施設の無料スポットを紹介し、マイボトルで気軽に給水を行うことをサポートするアプリ『mymizu』を展開する、一般社団法人Social Innovation Japan代表理事のルイス・ロビン敬さんだ。給水を通して、サステナブルがあたりまえになる世界の実現を目指すロビンさんの活動を追った。
「給水」で、世界を変えようとしている人物がいる。カフェや公共施設の無料スポットを紹介し、マイボトルで気軽に給水を行うことをサポートするアプリ『mymizu』を展開する、一般社団法人Social Innovation Japan代表理事のルイス・ロビン敬さんだ。給水を通して、サステナブルがあたりまえになる世界の実現を目指すロビンさんの活動を追った。
マイボトルを持参して
街中でいつでも気軽に
給水ができるように
mymizuとは、カフェや公共施設などで、無料で給水ができる場所を紹介している「給水のプラットフォーム」だ。アプリを開くと、マップ上にプロットされた「mymizuスポット」が表示される。マイボトルを持参すれば外出中、どこにいても、気軽に水を補給できる場所を見つけることができる。
2019年に日本で生まれたこのサービスはクチコミで広がり、「給水パートナー」と呼ばれる加盟店はどんどん増え、現在国内で1万3000カ所が登録されている。そして日本から飛び出し、あっという間に世界でも50カ国・20万カ所にmymizuスポットが誕生した。
「まさか、ここまで大きく広がるとは思ってもみませんでした」と、mymizuを立ち上げた一般社団法人Social Innovation Japan代表理事のルイス・ロビン敬さんは朗らかな笑顔を見せる。
そのムーブメントは留まることを知らず、水に関係する企業サポーターも増えている。2021年8月には世界的なスポーツ用品メーカーNIKEと共に、ランニング・ウォーキングを通じて「プラスチックフリーで水分補給ができる街へ向かって」をテーマにしたコラボイベントを開催するなど、大きな広がりを見せている。


社会をよくする活動がしたい
けれど、全く自信がなかった
10代の頃の自分
イギリス人の父と日本人の母を持つロビンさんは、日本で生まれた後、イギリスと日本を約3年ごとに往復して移住する生活の中で育つ。物心ついた頃から、社会をよくするための仕事に就きたいという思いはあったが、何をすればいいのか、どうすればいいのかわからなかったと、ロビンさんは10代の頃の思いを語ってくれた。
転機は大学を卒業する2011年の春に訪れる。祖父の住む宮城県仙台市が、東日本大震災で被災したのだ。イギリスにいたロビンさんは、ニュースを見て衝撃を受けた。
「これは大変なことが起きたと思いました。いてもたってもいられず、その夏には福島・岩手・宮城で3カ月間のボランティアに参加して。この経験を通じて、やはりこういった社会に役立てる仕事に就きたいと強く感じるようになりました。」
その後、ロビンさんはピースボートにボランティアとして乗船。そこで出会った人々から大きな影響を受け、NGOの職員として災害支援の仕事に就く。
「それまでは、とにかく自分に自信がなかったのですが、ピースボートでいろいろな人と出会って、話を聞くうちに、もしかしたら自分にもできることがあるんじゃないかと感じるようになりました。」
ピースボートの後は、霞ヶ関にある世界銀行で防災関係の仕事も経験する。そして、社会問題に向き合う仕事に従事する中で徐々に自信をつけていったロビンさんは、2017年、大学時代に出会った友人らと共にSocial Innovation Japanという団体を立ち上げる。

沖縄の海岸で見かけた
大量のプラスチックゴミを
どうにかしたくて
「Social Innovation Japanは、社会問題に取り組む仲間を増やしたいという思いから始めたコミュニティ活動団体です。企業の研修や、学校向けの教育プログラムをデザインしたり運営したり。ビーチクリーンのイベントや、コミュニティ作りなども行いました。」
mymizuの事業プランが出てきたのは、仲間と行った沖縄旅行がきっかけだった。
「楽しくて面白い、クリエイティブな形で何か環境問題の解決につなげることはできないかとメンバーで模索していた時期に、沖縄の海岸で見かけたのが、ビーチに流れ着いた大量のプラスチックゴミだったんです」と、ロビンさんは当時を振り返る。
「観光地化されているビーチにはゴミが少ないのですが、少し離れた海岸には本当に大量のゴミがあって。その中でも特にペットボトルのゴミが多かったんです。」

災害支援の仕事でさまざまな国へ訪れているロビンさんからみて、日本は他国に比べても、豊かで恵まれた国だという。特に水に関して、こんなにも美味しく安全な水道水がある国はそうそうない。それなのに、ペットボトルの飲料水を買って、ゴミが大量に発生しているなんて。
「ビーチクリーンを行うことも大事な活動ですが、消費から変えないとこの問題はなくならない。イタチごっこだ、とその時に思いました。」

オープンデータ化で
50カ国・20万カ所に広がる
mymizuスポット
沖縄で観た景色に心を痛めたロビンさんは、もったいないペットボトルゴミをなくすにはどういう仕組みがあったらいいかを突き詰めて考えていった。学生時代から水筒を持ち歩く生活をしていたロビンさんは、日本に留学していた際、キャンパス内に給水できる場所がなく、仕方なくトイレで給水していたことを思い出した。それは決して、気持ちよいものではなかった。気持ちよく、楽しく給水できる場所があれば、マイボトルを持ち歩く人が増えるのではないか。そして、その習慣が根付けば、ペットボトルゴミの削減につながるのではないかと、ロビンさんは考えた。
テクノロジーとクリエイティビティと人々のパワーを融合させて、どうにかよい仕組みが作れないか。仲間たちと頭をひねるうちにmymizuの構想は生まれ、具体化されていった。公共の施設の無料給水スポットをアプリで簡単に検索できるようにした他、カフェなどに協力を仰いだ。理念に共感してくれたお店が1軒、また1軒と飲み水を提供できる給水スポットとしてアプリに登録してくれた。
「1軒目の給水パートナーとして渋谷のABOUT LIFE COFFEE BREWERSという、とても素敵なカフェが登録してくれたんです。すてきな前例が1つできたことで、他のところも追随してくれるようになって。本当に感謝しています。」

その後の加速度的な加盟店の登録数とファンの増加には、目を見張るものがある。サービスリリースから5年目の今、登録されている給水スポットは50カ国20万カ所を超えた。
「mymizuのロゴデザインは、オープンアクセスで提供しています。そのため、みんなが勝手にのれんや旗、ポスターを作って広げていってくれてるんです。旅行先で車を走らせていたら、誰かが作ってくれたmymizuの旗を見かける、というようなこともよくあります」と、ロビンさんは笑う。
「さらに、mymizuにはスマホとウェブ用の2つのアプリがあるのですが、ウェブアプリはオープンソースで提供しているため、誰でもコーディングができるんです。Wikipediaに似た形ですね。誰でも新しい機能を追加することができる。なので、みんなが勝手に進化させてくれている。何社かの企業もプロボノでサポートしてくれています。」


写真下:給水パートナーの店舗の窓に貼られたmymizu公式ステッカー(写真提供:mymizu)
小さなことから始めて
行動する人を増やす
ムーブメントを起こす
環境問題のような、真面目だったり壮大だったりするテーマは、「楽しく、小さく始めることが大事」と、ロビンさんはいう。
「環境問題というと、CO2の排出量削減など大きな話になりがちです。そうすると、活動に参加しづらいと感じる人もいるかもしれません。でも、まずはペットボトルを減らすことから始めようとなると、参加のハードルはグッと下がる。mymizuは5歳から90歳まで誰でも参加できる活動です。小さなことから環境問題に関心を抱き、アクションを起こす人が増えていってくれたらと思っています。」
mymizuは給水プラットフォームだが、真のビジョンは「給水を通して、できるだけ多くの人に環境活動に参加してもらうこと」なのだと、ロビンさんはいう。
「給水を通して、サステナビリティに取り組む人がもっともっと増えていったら。給水で、サステナブルがあたりまえな世界になっていったら。そんなムーブメントを起こすべく、mymizuを広げています。」
一人ひとりの本来持っている思いに自信を与え、自発的な行動を引き出すことを意味する「エンパワーメント」。その輪を広げていくことが、ロビンさんの活動の根底にある思いだ。それは、Social Innovation Japanを発足した時から、変わらない。
日本へ訪れた外国人旅行者が、日本でmymizuを知り、自国で給水スポットを登録する例も多いのだそうだ。先日はミャンマーに給水スポット1軒目が登録されたという。世界はすでに変わり始めているのかもしれない。

Well-living
Rule実践者たちの
マイルール
- be fun, but do serious
楽しみながら、真面目にやる - think big, start small
壮大なことを、小さく始める - leading self
自分をリードする - top down & bottom up
トップダウンとボトムアップの両方が必要 - social change is not a sprint, it’s a marathon
社会の変化には時間がかかる
PROFILE
- ルイス・ロビン敬さん Robin Takashi Lewis
- 一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事
エジンバラ大学国際ビジネス学修士課程卒業。プラスチックの消費削減をミッションにした、日本初の無料給水プラットフォーム「mymizu」の共同創設者。代表理事を務める一般社団法人Social Innovation Japanでは、大手企業にコンサルティングや人材育成サービスを提供する。世界銀行(気候変動グループ)やUNDP(国連開発計画)のコンサルタントとしての経験を含め、これまでに20ヶ国以上における国際機関、社会的企業などで活動。MIT Technology Review, ‘Innovators Under-35’ Japan アワード、環境省主催「海ごみゼロアワード2020」環境大臣賞など受賞歴多数。
取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵
- KEYWORD
2025.8.22
「廃棄物 × 障害福祉 × ファッション」意外な組み合わせから生まれた、新しいアパレルブランドの形

伴 真太郎さんShintaro Ban
株式会社みんなのニット共和国 代表取締役
2025.7.21
アジアから世界の漁業を変える。漁師の声を聴き、稼げば稼ぐほど「海が美しくなる」循環をつくる

村上 春二さんShunji Murakami
株式会社UMITO Partners 代表取締役
2023.09.14
捨てられるはずだった羽毛布団が、良質なダウンジャケットに。189社が参加する羽毛循環サイクル

長井一浩さんKazuhiro Nagai
一般社団法人 Green Down Project 理事長
2023.08.21
子どもたちに「居場所」を。目の前の誰かへのおせっかい精神が、地域の人を、企業を、行政を動かす

栗林知絵子さんChieko Kuribayashi
認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長
2023.06.12
目指すのは「地域分散型社会」。地方を拠点にプロジェクト実践する先例のない大学を開校!

信岡良亮さんRyosuke Nobuoka
さとのば大学 発起人/株式会社アスノオト 代表取締役