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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2024.9.13

服を売らず、循環をつくる。
流通に強烈な意味を打ち出した
新世代アパレルブランド

三和 沙友里さん Sayuri Miwa
energy closet 代表
三和 沙友里さん Sayuri Miwa
energy closet 代表

「服が大好きなのに、既存のアパレル業界の中に、心の底から共感できるブランドがなくて……」控えめな口調でそう語るのは、服を売らないアパレルブランド『energy closet』を運営する、三和沙友里さんだ。1着1着の洋服が、最後まで大切にされて役目を終えられるように生み出された、服と想いが循環する新しいビジネススキームについて取材した。

「服が大好きなのに、既存のアパレル業界の中に、心の底から共感できるブランドがなくて……」控えめな口調でそう語るのは、服を売らないアパレルブランド『energy closet』を運営する、三和沙友里さんだ。1着1着の洋服が、最後まで大切にされて役目を終えられるように生み出された、服と想いが循環する新しいビジネススキームについて取材した。

洋服が大好きなのに
純粋に楽しめない
モヤモヤして苦しかった

幼い頃から洋服が大好きだったという沙友里さんは、将来はアパレルの仕事に就きたいと考えていた。しかし、業界の表側だけでなく、裏側の服が作られる工程にある実態を知るうちに、ファッションを純粋に楽しむことができなくなってしまったという。

アパレル業界について詳しくなるにつれ、大量に生産され廃棄される洋服たちの裏側に、発展途上国の人々が低賃金の過酷な労働を強いられていることを知った。そういった人々の労働のおかげで洋服が購入できていること、また綿から糸をつむぎ、布を作り、デザインされ、縫製され、1着を作るのに100人ほどが関わる工程があること。そして、それにも関わらず、多くの洋服がゴミに出され、焼却や埋め立て処分をされているという現状も知った。

当時、大学生だった沙友里さんの心の中に芽生えたモヤモヤの正体は、シーズンごとに発表される新作の服が、大量に生産され大量に廃棄されることが当たり前の既存のアパレル業界のあり方だった。

「服がこんなにも好きなのに、今のアパレル業界には自分の居場所がない。そう感じるのが寂しくてつらかった」と、沙友里さんは心の内を語った

服と想いを循環させたい
生み出したのは、
まったく新しい仕組み

「毎日違う服を着てワクワクしたいし、新しいものも着てみたい。でも、国内外の多くの人が関わって作られた1着1着を、その服が最後まで役目を終えられるところまで大事にしてあげたい。洋服が大好きだからこそ、その狭間で気持ちが行ったり来たりして、苦しくなってしまいました。」

そんな苦しさの中から彼女が生み出したのが、服と想いとが循環する仕組みだった。

現在、沙友里さんは月に一度、毎月第一日曜日に都内でポップアップショップを開催している。『CLOSETtoCLOSET(クローゼット・トゥー・クローゼット)』と名付けられたこのショップは、来店者が事前に3千円のイベント参加チケットを購入し、自身の不要となった洋服3着を持参することで、お店で代わりに好きな3着を選んで持ち帰ることができるというシステムだ。

洋服を売るのではなく、物々交換できるショップ。1着1着の洋服を売っているわけではないことから、会場の洋服たちには値段はついていない。「純粋に好きだと思った服を手に取ってもらいたいから」そうした仕組みにしたのだと、沙友里さんはいう。これによって、来場者は値段を気にせず、自身の感性だけを大事に服選びをすることができる。常に新作を売るアパレルメーカーとも違う、フリーマーケットや古着屋などとも異なる、まったく新しい形態が生まれた。

沙友里さんの理念に沿って創り上げられたCLOSETtoCLOSETの空間には、1時間毎に区切られた時間で予約したお客さんが訪れる。月に一度のショップには、マンションの一室を改装したレンタルスペースを借りている

価値観に共感して
集まってくれるお客さんは
性別や年齢も幅広い

今年で5年目を迎えるCLOSETtoCLOSETへ訪れる人たちは新規とリピーターが半々。属性でいうと、物事の背景や文脈に思いを馳せることが好きな人たちが集まっていると、沙友里さんは嬉しそうに話してくれた。

「性別や年齢、職業も幅広く、偏りがありません。10代から70代までの方々がいらっしゃいますし、単純に価値観が近い人たちが集まっているという感覚があります。ファッションの系統も、一応古着なのでカジュアル系が少し多いものの、本当に偏りがないです。最近では、“ずっと応援していてやっと来られました”と言ってくれる方もいて、とても励まされます。」

洋服の循環をつくり、クローゼットをお気に入りの服で満たしていく。その理念に共感したファンはInstagram等の発信を軸に全国的に増え、出張や旅行のタイミングを活かしてお店へ訪れてくれるのだという。

一度お訪れ、すっかりCLOSETtoCLOSETのファンになってしまったという20代の男性のお客さんは「店内で選んだジーンズには、前に使っていた人の趣味や嗜好がPOPに書かれていて。こういう風に楽しんでいたんだなと、引き継いで重ねていく楽しさを感じました」と、その魅力を語ってくれた。

固定ファンがつき、サービスとして安定してきたことに加え、近年ではルミネエストや西武・そごうなどの百貨店からもイベント出店への声が掛かり、CLOSETtoCLOSETをオープンするようにもなった。

また、業界向けに情報発信を行うメディア主催のイベントへ、有名アパレルメーカーの社長たちと共に登壇するなど、沙友里さんの新たな挑戦はアパレル業界内でも注目を集め始めている。

当日は沙友里さんもショップに立ち、お客さんに求められればコーディネートのアドバイスも行う

「服を売らない
アパレルブランド」は
果たして成立するのか

2019年に沙友里さんが創立し、CLOSETtoCLOSETのサービスを展開しているブランド『energy closet(エナジークロゼット)』は、「服を売らず、循環をつくるブランド」だと沙友里さんはいう。クローゼットをお気に入りの服で満たすこと。着なくなった服は次の人へ引き継いでいくこと。その手伝いをするブランドである、と。

ブランドとは、生活者がその商品やサービスに対して感じる意味や価値に共感し、ファンが集まる原動力になるものだ。その意味でいえば、energy closetはアパレルメーカーではないけれども、たしかに衣服を取り扱い、その流通方法に強烈な意味・価値を込めたアパレルブランドだ。

energy closetがブランドとして成り立つために大事にしたのは、エシカルであること。そして、サークル的ではなくビジネス的に成り立つことだった。無料にしてしまうと、ショップではなくサークルコミュニティのようになってしまう。きちんとお店として、ブランドとして、他のアパレルと闘えるものを作りたいと考えたのだと沙友里さんはいう。

そうして生み出された一つの形が、自身の捨てたくはないけれどもうあまり着なくなってしまった洋服を手放し、自分にとって新しい洋服と交換する「体験」に値段をつけて提供するというスキームだった。1着1着の服に値付けをするのではなく、体験に値付けをしたことが、これまでのアパレル業界の常識を覆す一手となった。

「ただの物々交換じゃない、しっかりとお金を払ってきてもらえるようなサービス・お店を作るというのをすごく大事に設計しました。ベースが社会問題解決のマインドだったからこそ、収益が上がる形、ブランドとして認めてもらえる形をということは強く意識しました。」

「energy closetは100%、私のフィロソフィーで生み出したブランドです。働き方も含めて、仕事が生き方そのものみたいになっています」と笑顔で話す沙友里さん

古民家を再生したアトリエと
都内のショップを
自らトラックで往復

沙友里さんは現在、千葉県市原市にアトリエを構え、都内でポップアップショップを開く際には、トラックに大量の洋服を詰め、自ら運転して運び入れる日々を送っている。もともと都内に事務所を構えていたが、3年ほど前に移り住んだのだという。

「市原市では空き家が問題化していて、古民家や平屋を賃貸で若い人たちに貸し出す事業が盛んだったんです。家を直しながら住んで、次の人に引き継いでもいいし自分で買ってもいい。energy closetの理念にも通じる街の考え方に惹かれたことと、広いアトリエを作りたくて移り住みました。」

沙友里さんはこのアトリエで、新たな挑戦をはじめている。CLOSETtoCLOSETで集めた洋服の中から、そのままでは着られないものを選び、アップサイクルしていく『upHAND』プロジェクトだ。どこからどんな生地となる服が来るのかわからない状態で、ファッションとして納得のいくものを作っていくことは体系化するのが難しかった、と沙友里さんはいう。クリエイターたちの手を借りて、作品化された洋服やバッグなどの一点物は百貨店などでのポップアップショップで販売する。また、オンラインショップでの販売にも力を入れ始めたところだ。

もう服の形としては使えない生地を解き、組み合わせて新しい服を生み出したり、刺繍を縫ってワッペンを制作したりしている『upHAND』プロジェクト(上の写真提供:energy closet)

「誰かの手によって生まれた服が、引き継がれたり、アップサイクルしてまた着てもらえるようになったり、1着1着の服が最後までその役目を終えるところまでをお手伝いしていきたいんです。だって、洋服が大好きだから」沙友里さんは自身の強い思いを語った。

洋服が好きだけれど、今のアパレル業界には自分の居場所が見つからないと悩んでいた大学生は、自らの力で自分が納得できる居場所を作り、ファンを増やし、その新しい価値観を波及させていっている。モノを大事にするその優しい気持ちは、多くの人の理解を得て、これからも広がっていくだろう。

「着なくなった服を引き継いで、クローゼットをお気に入りで満たしていく。その循環のお手伝いを今後も続けていきたいです。」そう話す沙友里さんが着ているTシャツは、『upHAND』クリエーターによるアップサイクル作品だ

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 一回だけにしておこうと思うものは、やらない
  • 今日の自分と明日の自分は違う
  • 悩んだ時には一人だけに意見を聞く
  • 朝は弱いので、頑張らない
  • 無理はしない

PROFILE

三和沙友里さん Sayuri Miwa
energy closet 代表

日本大学理工学部まちづくり工学科卒。大学在学中に経験した株式会社CRAZYのアルバイトで自発的にはじめたフードロス、ロスフラワーのプロジェクトで自信をつけ、社会課題を解決していく事業を起こそうと決意。2019年に「服を売らず、循環をつくるブランド」energy closetを立ち上げる。毎月第一日曜日に都内で開催される、クローゼットに眠っている洋服と店内の好きな洋服を交換できるサービスCLOSETtoCLOSETにファンが増えている。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #サーキュラーエコノミー
  • #環境問題
  • #ごみ問題
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