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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2024.1.31

ビジネスパーソンが気軽に
DIY体験できるバー経営を通じて、
日本のものづくり文化を再生する

小島幸代さん Sachiyo Kojima
Rinne.bar 発起人・代表
小島幸代さん Sachiyo Kojima
Rinne.bar 発起人・代表

東京・御徒町に、お酒を飲みながら廃材を使ってものづくりができるバーがある。一見すると、東京下町に登場した新コンセプトの小さなバーにも見えるこの取り組みだが、その根底には「日本のビジネスにクリエイティブの自信を取り戻す」という大きな目的意識があった。誰もがアップサイクルのものづくりができるRinne.bar(リンネバー)代表の小島幸代さんにその思いを取材した。

東京・御徒町に、お酒を飲みながら廃材を使ってものづくりができるバーがある。一見すると、東京下町に登場した新コンセプトの小さなバーにも見えるこの取り組みだが、その根底には「日本のビジネスにクリエイティブの自信を取り戻す」という大きな目的意識があった。誰もがアップサイクルのものづくりができるRinne.bar(リンネバー)代表の小島幸代さんにその思いを取材した。

人事・採用の仕事を通じて
クリエイターと日本企業
の間にある溝を感じていた

今やバーの店主として、Rinne.barに訪れる人々にお酒片手に、廃材を使ったものづくりをレクチャーする日々を送る小島さんだが、バーをオープンする前は16年もの間、クリエイターに特化した採用支援や人材育成のコンサルティングの仕事を手掛けてきた。

大企業から中小企業まで様々な会社とクリエイターをつなぐ仕事に関わる中で、小島さんは日本のビジネスパーソンからクリエイティビティが失われつつあることに課題感を抱くようになった。大量生産・大量消費社会において効率化が求められ、業務が細分化されていくにつれ、クリエイティブの外注化が進んだ。一方で、雇われるクリエイターたちも、ビジネスフィールドではどうしても受け身になってしまいがちで、力を発揮しきれない。年々深くなっていくその溝を、どうにかしたいと小島さんは考えていた。

「企業で働くビジネスパーソンの多くが、『クリエイティブなことは専門家に任せよう、自信がない』というのです。ビジネスパーソンとクリエイターとが膝を突き合わせて会話のできる場が必要で、それをどうやって作ったらいいのかということを考えていた時、周りの友人たちが次々とアメリカのオレゴン州にあるポートランドへの移住や訪問をはじめて。自分も何かヒントを得られるかもしれないと、訪問してみることにしました」と、小島さん。2018年のことだった。

当時、ポートランドは米不動産テック企業Movotoの行った「America’s 10 Best Cities for2013」にて1位を獲得。NIKEの本社やadidasの北米本社などおしゃれなアウトドアブランドも多いこの街は、環境にやさしい都市としても、世界的に注目を集めていた。アメリカの人口データによると、最も人口流入の多かった2000年には約9万人が、2018年には約4万人がポートランドへ移住をしている。

人口65万人ほどのコンパクトシティであるポートランドは、職場やお店などが住居から徒歩や自転車、公共交通機関で20分もあれば行ける距離にある。生活に車を必要としない街づくりによって、CO2排出量を大幅に減らすなど、「サステナブルな街」としても注目されていた(上の写真提供:UnsplashのJustin Shen、下の写真提供:UnsplashのKaren Z)

友人の影響で訪れた
ポートランドで出会ったのは
人心地のする小商い文化

訪れたポートランドの街はチェーン店を目にすることのほとんどない、可愛らしいレストランやカフェの並ぶ、小商いの盛んな街だった。

「面白かったのは、黒人のおばさんが運転するタクシーに乗ったとき。ポートランドへ何しにきたの?と雑談になって。私が新しい事業の種を探しに来ているんだと伝えるとおばさんが、“私もやりたいことがあるの。片親で忙しくて、スーパーで買い物ができないような人たちのためのデリバリービジネスをやりたいと思っている、そういうときはNPOに相談するんだ”って言い出したんです。」

当時を思い出しながら、小島さんは笑顔で話す。

「ポートランドでは人口一人当たりのNPOの数がものすごく多くて、行政が起業支援やビジネスマッチングなどの仕事をNPOに分散委託しているらしいのです。たとえばタクシーの運転手さんも常に自分で他に小商いをはじめることを考えている。そしてそれを実現しやすい土壌がある土地なのだなと実感しました。」

「ポートランドでは店へ入れば、『来てくれて本当にありがとう』『私の作ったものを買ってくれてありがとう』という声が行き交います。街中が作り手の顔が見える、人心地のする空気で満ちているのがとても素敵でした」と、小島さん

特に刺激を受けたのは
巨大な倉庫で運営される
リサイクルセンターの存在

街を見てまわる中で小島さんが最も刺激を受けたのは、「Rebuilding Center」と「SCRAP Creative Reuse Center(以下、SCRAP)」だった。

Rebuilding Centerは、住宅や店舗など建物の解体やリノベーションによって不要になったものを集めた、巨大なリサイクルショップ。廃材やドアノブから窓枠、バスタブに至るまであらゆるものが再販されている。アメリカの開拓時代の影響を色濃く残し、自分たちの手で住宅を修繕することが一般的なポートランドでは、DIY、ものづくりの文化が強く根付いているのも特徴だ。

SCRAPは、小学校で使わず残ったクレヨンや絵の具など、不要になった文房具を集め、格安で必要とする子どもたちに販売することを仕組み化した場所。カラフルなリユース素材が再パッケージングされてずらりと並ぶその様子にとてもわくわくしたと、小島さんは語る。

「“ひしゃげたピンポン玉はお湯で温めれば膨らみます”と書いてあったり、スクラップペーパーやチラシなども色分けされて可愛らしく再販されていたり。もともとは捨てられるはずだった物でも楽しさがデザインされていることで、まるで宝の山のようなわくわく感がありました。」

「『これだよな!』と、インスピレーションをもらいました。素材の楽しさを感じて、そこから何か作りたいと思って、作ってみる。企業のビジネスパーソンとクリエイターが一緒にそんな時間を設けられたら、ビジネスの場でも良いものづくりの雰囲気が生まれるんじゃないと思ったんです。」

小島さんがSCRAPで購入してきたキット。パッケージには“カロリーゼロ”や“アンリミテッドコンビネーション”など、ユーモアのあるコンセプトワードが添えられている

集客施策を打たずとも
目的意識の高い人たちが
自然と集まり出した

日本に帰るとすぐに、小島さんはポートランドで見たSCRAPに準ずる場所の設計を試みた。ところが、日本で人に話すと「それって子どもの工作だよね」と言われてしまう。

「私のやりたかったことは、大人のビジネスパーソンのクリエイティビティのキャップを外すということだったので、このままじゃだめだ、伝わらない、と思いました。」

そこで、バーという大人のための場を作り、そこでカジュアルにものづくりを楽しめるよう構想を練り直した。Rinne.barがオープンを迎えたのは生憎なことに2020年2月。オープン直後に新型コロナウイルス感染症が大流行し、夜の営業とお酒の提供ができなくなってしまった。

「結局、昼間に細々と営業する形でのスタートになりました。何の集客活動もしていなかったのですが、オープン2カ月後に最初の雑誌の取材記事が出ると、そこから、サステナブルやアップサイクルに関心のある人たちが来てくれるようになって。彼らがクチコミで、ある意味勝手にどんどん広げていってくれたんです。」

小島さんがもともと輸入したかった、廃材を通じて感じるワクワクした気持ちは、徐々に狙っていたビジネスパーソンにも届き始めた。現在、バーには男性の一人客も多いという。

「常連さんの中には、大手メーカーのエンジニアで、長時間パソコンに向き合う仕事をするような方も。もともと、ものづくりに興味があったわけでも、物に愛着があったわけでもなかったけれど、リモートワークで家に一人でこもっているのが限界になり、最初はお酒を飲みに一人でふらりと来て、ちょっとしたものを作ってみたら、すごく癒された、と言っていました。今ではデートや、仕事で知り合った方を連れてこられたりしています。」

Rinne.barでは、お店にある素材から自由に選んで、コインケースやレザーアクセサリーなど、小さな手作りを楽しめる。お酒を飲みながら、手元の作業に没頭したり、周囲のお客さんと褒め合ったり、糊の貼り方や穴の開け方を教え合ったりと、自然なコミュニケーションが生まれている。

「ビジネスの現場でも、知識や工夫のシェアというのは、とても大事だと言われています。Rinne.barでは、目の前の『物』がトーキングオブジェクトになり、ちょっとした知恵の共有が生まれやすい。その体験を、お酒のあるリラックスした空間で、利害関係のない相手と体験することで、クリエイティブに対するマインドのスイッチをポンと押すことができるのではと考えています。」

昔ながらの家具や工具がコラージュされたRinne.barのメインテーブル。真ん中に大きなトンカチが埋まっているのが目をひく

SCRAPの日本版を
つくるのが
小島さんの最終目標

Rinne.barは小島さんの計画の中では第1弾に過ぎない。第2弾として、企業や小学校への出張授業などの出張事業を始めている。新規事業部やデザインの部署などからアップサイクルの研修などを受託するほか、2023年11月には廃材を使ったものづくりのワークショップ事業を東京都環境公社から支援されている。プラスチック家庭ごみを再利用するアップサイクル体験を通じて、使い捨てプラスチック等に対する理解を深めるワークショップを主催する。

「第3弾ではSCRAPの日本版をやりたいと思っています。もともとDIYの文化の根付いているポートランドだからこその施設だという見方もできますが、日本にも古くは家で着物を仕立てるほどの、ものづくりカルチャーがありました。そして、私は日本版SCRAPを作るキーになってくるのは、『日本のおばあちゃん』たちだと、考えています。」

Rinne.barには、常に全国から不要になったボタンや布などの素材の寄付が届く。

「現在200を超える量の贈り物が主におばあちゃんたちから届いています。『もらってくれてありがとう。浮かばれます』という手紙付きで。まさに輪廻ですね」と、小島さん。

海外のリユースセンターではゴミ袋に入れてドサッと届く素材が、日本のおばあちゃんたちの手にかかると、きれいにパッケージされた状態で届く。“この布は何メートル何センチ、ボタンは全部消毒してあります”などと細かく書かれた手紙が添えられていることもあるという。小島さんは、素材の寄付活動に参加してくれている人々を『Rinne Mothers』と名付けた。

寄付された素材に添えられていたお手紙。小島さんのもとに届く、Rinne Mothersから寄せられた素材は、Rinne.barやワークショップに参加してくれた人々の手で新たな作品へと輪廻する(写真提供:Rinne.bar)

「大正から昭和中期生まれのおばあちゃんたちは、女性の教育として家政を習って育ってきた世代。着物を仕立てたり、子ども用の服を作ったりということを日常的にされていた。だから、家に大量の布切れやボタンを保管しておく文化があったんですね。もし、SCRAPの巨大な倉庫ができたら、Rinne Mothersが大活躍する場ができると思うんです。」

今や日本の大企業となっている、トヨタやホンダなどのメーカーも最初はスタートアップ。創業者たちは、目を輝かせてものづくりに励んできた。日本のビジネス界がクリエイティビティを取り戻し、育っていくには、今、一人ひとりのビジネスパーソンが意識を変えていく必要があると、小島さんは考えている。

小島さんの広い視野から生み出される『廃材』を用いたこれらの草の根の活動は、日本のビジネスを牽引する人々の脳内スイッチをこれからも押し続けていく。それらは失われつつあるものづくり文化を取り戻し、クリエイティビティマインドを一人ひとりの中に蘇らせる、その一助を担っていくだろう。

「人は‟創造的自信を持った時に全ての扉が開く”と感じています。少しでも多くのビジネスパーソンに、その扉が開く瞬間を味わってほしい」と、小島さんは語る

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 面白がっていたい
  • 魂を込めることで時間も人も金も環境も無駄にしない
  • 三方よしが実現しないものは早めに断る
  • 作品性を高める
  • 常に考え続ける

PROFILE

小島幸代さん Sachiyo Kojima
Rinne.bar 発起人・代表

美大卒業後、クリエイティブに特化した人事コンサルティングに16年間従事。2020年2月に「お酒を飲みながら、カジュアルにものづくりが楽しめる」Rinne.barをオープン。廃材など、ゴミになってしまうはずだった素材をアップサイクル作品に蘇らせる日本発のバーが注目を集める。「不要になったものをアイデアや想像力で楽しく生かす思考」が環境や社会を良くするという考えのもと、企業や行政の人材育成やワークショップ、教育機関への出張事業も行っている。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #サーキュラーエコノミー
  • #ごみ問題
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