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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2023.05.01

循環型農業を体現する
農業法人が救うのは、
地域の雇用と未来の食糧不足

齋藤伊慈さん Yoshishige Saito
株式会社シェアガーデン 代表取締役社長
齋藤伊慈さん Yoshishige Saito
株式会社シェアガーデン 代表取締役社長

今回取材したのは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)とユニバーサルワーク(個性に合わせた多様な働き方の提供)を実現し、千葉県の八街市で有機農業を手掛ける株式会社シェアガーデンの社長・齋藤伊慈(さいとうよししげ)さん。安心安全な有機野菜と畑を増やすことで、地域を活性化していく「企業農家」の先進的なビジネス戦略には目を見張るものがあった。

今回取材したのは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)とユニバーサルワーク(個性に合わせた多様な働き方の提供)を実現し、千葉県の八街市で有機農業を手掛ける株式会社シェアガーデンの社長・齋藤伊慈(さいとうよししげ)さん。安心安全な有機野菜と畑を増やすことで、地域を活性化していく「企業農家」の先進的なビジネス戦略には目を見張るものがあった。

“無理のない”野菜作りで
人にも地球にも優しい
「循環型農業」を実現

自然資源の減少に、もはや無視できないほどに膨らんだ廃棄物が地球環境に与える悪影響。今、私たちには廃棄物を生まない経済活動へのシフトが強く求められている。そこで今、世界的に注目されているのが、製品やサービス設計の段階から資源の回収や再利用を前提とする「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の考え方だ。それは、環境負荷の軽減だけでなく、新たな経済効果や雇用創出をもたらすと期待される、これからの時代のビジネスモデルでもある。

あるものが排出した「廃材」も、別のものにとっては有益な「資源」として活用され役割を持ち続けられる仕組み。そんなサーキュラーエコノミーを体現している存在が、千葉県八街市にあるという。それは、2017年より有機野菜を育て、年々その規模を拡大している農業法人「シェアガーデン」だ。

「有機農業は循環型が大原則です。一部、どうしても黒いビニールを畑に敷き、草を生えないようにしなくてはならないなどでプラスチックフィルムを使用してしまう場面もありますが、限りなくそういった環境に対して要らないものを使わず、野菜作りを行っています。」と、齋藤さんが教えてくれた。

「有機JAS認証」を受ける畑では、肥料は全て植物性のものを使っているという。1つは、麦やマメ科の植物をそのまま畑にすき込んで肥料とする、緑肥(りょくひ)。土の中で増えた微生物が栄養分を作り出して、野菜収穫後に痩せた土地を回復させてくれる。

もう1つは、スーパーから出た野菜屑を回収して利用する、植物性の堆肥(たいひ)。キャベツの皮や、弁当に使う葉材などを回収し、3カ月ほどかけて堆肥にしてくれるリサイクル業者を通して仕入れ、畑に使う。つまり、メインの出荷先がスーパーであるシェアガーデンの野菜たちは、野菜屑になるとまた、畑に戻って養分になるのだ。

「植物性の肥料で育てると、実は野菜の成長は遅くなるんです。やっぱり化学肥料や、動物性の堆肥をまく方が、野菜は速く大きくなる。ただ、人間もそうですが、必要以上の栄養分が入ると年齢は一緒なのに体だけが一気に育ってしまう。結果、細胞の成長スピードがあまりに速いので細胞壁が脆く弱くなってしまい、壊れた細胞壁から出てくる臭いに虫が集りやすくなり、殺虫剤として農薬が必要になってしまいます。」と、齋藤さん。

シェアガーデンで育てている野菜はゆっくり育つ分、しっかりとした細胞壁になるので、虫にやられにくい。農薬を使わずに育てることができるのだという。

シェアガーデン敷地内で発酵中の植物性堆肥。微生物の呼吸による熱や発酵熱によってホカホカと温かい

90歳の人も、16歳の人も。
人に合わせて仕事をつくる
ユニバーサルワークの実践

自然由来の有機栽培の畑は、増えれば増えるほど、その地域に環境に優しい土壌を増やしていく。有機農業を広げていきたいと考えている齋藤さんが、その実現のために今、力を入れているのが「ユニバーサルワーク(=人に合わせた仕事を作る)」という取り組みだ。例えば、90歳の人がいたら90歳の人ができる仕事を、16歳の人がいたら16歳ができる仕事を用意する。

「農業は、アナログな作業がたくさんあります。作業を分解していけば、その人の得手不得手に合わせた仕事を配分することができるんです。重たい肥料袋を運ぶという作業なら、若い男性にその作業を切り出して担当してもらう。座ってできるパック詰めは、座り仕事ならできる人にやってもらう。」

決まった仕事の流れに人をあてがうのではなく、人に合わせた仕事をつくるのだ。

「そうすると、面白いことに年齢も性別も関係なくなるんです。出勤時間と退勤時間も人に合わせて設定するなど、働きやすさに重点を置いて考えていったら、周りから人をたくさん紹介してもらえるようにもなりました。」

日本はこれから、少子高齢化が加速し、労働力不足に陥ることが懸念されている。シェアガーデンは未来の雇用のあるべき方向を示しているのかもしれない。

職歴も年齢も多様なスタッフは週1回のランチ会で交流を深める。この日は主力商品のケールを800パック詰めて出荷した
都内のスーパーマーケットに並ぶ有機野菜(写真提供:シェアガーデン)

Web広告業から農業へ。
ネット上で数字を見る世界から
手で土をさわって過ごす日々へ

とても自然体に循環型農業、そしてユニバーサルワークの考えを推進する齋藤さんとは、どのような人物なのだろう。

大学では理系を専攻、最初に就いたのはWEB広告の仕事だった。しかし、実際にはじめてみると、そこは「直接手にふれる」というよりは「インターネット上で数字が動いていく」という世界。「なんとなく“実感”が持てない」そんな風に感じていたと、齋藤さんは振り返る。

自身の中で生まれた違和感にあらがえず、WEB広告の会社を退職した齋藤さんは、仲間とキャンプの事業を手掛けるようになる。手ぶらできて、テントを張って、焚火をして、参加者が各々読書をしたり、コーヒーを飲んだりして過ごせる大人向けのキャンプだ。しかし、齋藤さんはそこで「天気商売」の難しさに直面する。

「キャンプは、その日の天気で流れてしまうことも多々あります。スタッフにも固定給ではなく都度の報酬体系になってしまっていたので、皆、他の仕事と掛け持ちをしないとならなくて。」

それは、齋藤さん自身も同様だった。「自然の中でできる仕事をしたい」という気持ちの強かった齋藤さんは、兼業先として野菜の卸しの会社に出合う。そこで2年間、野菜の営業を担当する中で気づいたのは、「自分で野菜を作る立場、生産する立場になりたい」という思いだった。

そんな思いを抱き始めた矢先、働いていた卸会社が新規事業で、畑をはじめることになる。齋藤さんはすぐに手を挙げた。そうして、農業のつくり手の世界に足を踏み入れることになったのだという。

「緑肥」として植えているマメ科の植物。根っこには根粒菌がいて、畑で育った後は、枯れて土に還すことで、野菜の生育に欠かせない窒素を土壌に供給してくれる

家族経営の農家に
頼り続けてきた日本の農業。
このままでいいのだろうか

「農業は土地によって条件が違う。自分の畑と隣の畑でも全く違う。自分で経験して、失敗して、それで自分たちにとっての最適解を見つけていく作業。だから、嘘を言ったり、話を盛ったりする必要もなく、ただひたすらに自分の中のクオリティを上げていくことになります。情報に溺れるような世界にいた自分からすると、目で見て、全身を使って、五感で確かめていく。そんな作業がとても、しっくりときました。」

しかし、ビジネス観点でいうと「キャンプと一緒で、天気商売というか、ほぼギャンブルですね」と齋藤さんは笑う。

「台風が来たら一瞬で数カ月の労力が吹き飛びます。一方で、野菜が採れ過ぎても市場原理で価格が下がってしまうこともあります。」

採れすぎても困るし、採れなさ過ぎても困る。「だから、みんな全部農協に出して、値段はどうであれ、ある程度稼げればそれでいいや、と。それが今の農業の仕組みです」と、齋藤さん。

現在の日本の農家の多くは家族経営だ。

「昔からの農家で持ち家があって、畑があって。家賃も発生していないという状況でやっているところが多いので、“月収10万円あれば生きていける”と、ある農家さんから聞いたときには驚きました。」

「でも、それでいいのかな……。家族経営の農家さんたちに頼り続けてきた今の日本の農業は、構造上、生産者が儲けられない仕組みになってしまっている。それが、他業種からきた自分にはとても気にかかります。」

日本の農業の未来を、齋藤さんはどのように考えているのだろう。

「これからの話でいうと、農業従事者の年齢がどんどん上がってきているので、辞めざるを得ない人が増えてくるのは必須です。そうすると、その空いた畑を誰が管理するのかという話が出てきます。管理されずに荒れていく畑もあるだろうし、企業が入り込んでやっていくところも出てくるでしょう。僕は、これから農地戦争のようなものが起こっていくだろうなと感じています。」

「本当に大きな農家さんか、大きな法人か、小規模に自分が納得のいくものを作る農家さんか。生き残るのはこの3種類だと思っています。農業の形は今、ガラリと変わる転換期。そこには、大きなビジネスチャンスがあると思っています。」

シェアガーデンの農地は現在6ヘクタール(東京ドーム約1個分)。八街市内で少しずつ畑を広げている

企業として農業を続けるには
人を雇い続けるための
体制をつくることが必要

齋藤さん率いるシェアガーデンは、今後拡大して、さらに大きな農業法人を目指そうとしている。土地を広げて地域の雇用を作り、地域の産業として有機野菜をつくっていくことが目標だ。

しかし規模が大きくなればその分、数の増える社員の継続的な雇用が大きな課題となる。

「農業には、品目ごとに繁忙期と閑散期があります。米を例にすると、種まきの時期と収穫の時期だけがものすごく忙しく、あとはそうでもない。なので皆、スポットで手伝いを呼んで繁忙期を乗り切ります。しかし、企業である以上、人の継続的な雇用の仕組みが不可欠。どうやって通年の仕事を作っていくかというのがひとつの大きなポイントになります。」

シェアガーデンでは、ニンニクとケールが生産の2大柱だ。

「まずはこの2つで年間の仕事のベースを作る。ニンニクもケールも、すごく育てて出荷するのに手間がかかるんです。それは、仕事を生むという意味ではすごく良いこと。規模がないとできないことですし、通年で人を雇う土台になってくれています。そこにトマトやピーマンなどの季節野菜をのせて、まわしています。」

主力商品はどのように目をつけていったのだろうか。「最初にプランを立ててやったというよりは、6年間いろいろな野菜を作って、試して、失敗をしているうちに結果的に今の形にたどり着いたという感じです」と、齋藤さんは笑う。

ニンニクの球根を育てるため、芽は早めに摘んで食材に。ニンニクはとにかく手のかかる野菜だという

八街市の働き先として、
シェアガーデンがパッと
頭に浮かぶような存在に

「将来的にはシェアガーデンを、地域の産業を支える企業にしていきたいという夢があります。そこに行くと本当にいろいろな人、おじちゃんもおばあちゃんも働いているし、親子で働いている人もいれば、障がいのある人も楽しく働いている、みたいな。」と、齋藤さんは目を輝かせる。

「今の農業は、世代交代ができなかったことが一番の課題です。シェアガーデンは世代交代をしていって、それこそ100年以上続く企業にしていきたいと考えています。」

齋藤さん自身もまだ35歳。年齢的には現役世代だが、すでに、どんどん幹部を育て、きちんと世代交代をしていける強い企業を目指している。

経営者の視点で農業を仕組みから変えていこうとする齋藤さんは、減り続けている日本の農業の新しい担い手だ。自分にも、従業員にも、土にも、野菜にも、無理はさせたくない。その素直な思いが自然と、循環型のビジネスを生み出し、ユニバーサルワークの発想を生む。そして、地域の人にも自然にも愛されるビジネスが発展していく。地球に良いことが、経済的発展にもつながっていく。

自然との共生や循環の考えは、これからのビジネス全てに求められる大きな命題になっていくはずだ。この八街市にある小さな畑には、日本全体が見習うべき、未来のビジネスの理想的な形が凝縮されている。

「生まれ変わってもまた農家になりたい」と、齋藤さんは笑顔で話してくれた

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 違和感を感じ取れる自分でいる
  • 違和感はそのままにしない
  • 嫌なことはしない、させない
  • 好きなことをやろう
  • 絶対にうまくいくと信じる

PROFILE

齋藤伊慈さん Yoshishige Saito
株式会社シェアガーデン 代表取締役社長

WEB広告代理店やマーケティング会社に勤務する中、PCに向き合い続けるワークスタイルに違和感を覚え、自然の中で働きたいと感じるように。「気軽に参加できるアウトドア」をテーマに、イベントの企画運営を行う団体『Relaxcamp』の立ち上げに参加し、その後代表を務める。その後、農業に興味を抱き、野菜の卸しの会社で営業と販売を担当する。2017年から株式会社シェアガーデンで有機野菜の栽培を始め、2023年3月代表取締役社長に就任。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #食
  • #地域活性
  • #サーキュラーエコノミー
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