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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2022.10.17

特殊冷凍テクノロジーで
フードロス削減や生産者支援を。
世界に挑み1兆円企業を目指す

木下 昌之さん Masayuki Kinoshita
デイブレイク株式会社 代表取締役
木下 昌之さん Masayuki Kinoshita
デイブレイク株式会社 代表取締役

Well-Livingを実践する挑戦者たちのインタビュー。第3回は「特殊冷凍テクノロジー」を駆使して、フードロスの削減や人手不足などの社会問題を解決するデイブレイク株式会社の代表取締役、木下昌之さん。
冷凍技術を突き詰めることは単に食品の保存期間を延ばすことだけではなく、これからの人類の生活に変化をもたらす可能性を秘めたものだった。

Well-Livingを実践する挑戦者たちのインタビュー。第3回は「特殊冷凍テクノロジー」を駆使して、フードロスの削減や人手不足などの社会問題を解決するデイブレイク株式会社の代表取締役、木下昌之さん。
冷凍技術を突き詰めることは単に食品の保存期間を延ばすことだけではなく、これからの人類の生活に変化をもたらす可能性を秘めたものだった。

フードロスの削減に
人手不足の解消。
特殊冷凍の可能性は無限大!

「冷凍」という言葉を聞いて一般の人がイメージするのは、「新鮮なものよりは少し味が落ちるが、食料品の保存期間を延ばすことのできる方法」というようなものではないだろうか。しかし、それは今現在の家庭の冷凍庫の話だ。取材を通して見えてきた、木下さんの手掛ける特殊冷凍テクノロジーは、さながら“生鮮食品のワープ”を実現するような代物だ。

最大の特徴は、細胞膜を破壊することなく食品を速く冷凍させることで、栄養価を落とさず、旨味をとじこめて品質を保てること。この技術によって従来、味を落とさずに冷凍するのは難しいとされてきたフルーツや鮨、天ぷらなどもおいしく仕上がる。

たとえば、あるお弁当屋さんに特殊冷凍機を導入した場合。そのお弁当屋さんでは従業員は毎朝4時に出勤。副菜を用意したり、肉や魚を焼いたり、お米を炊いたりと手間をかけてお弁当作りを行ってきた。しかし、そこに冷凍技術が介在すると、ある日は主菜を、翌日は副菜を作って凍らせることができるように。すると、朝はお米を詰めて、凍ったおかずをお弁当箱に入れ込むだけでよくなり、作業時間は一気に短縮される。

冷凍されたおかずは保存料不要で、保冷剤の代わりにもなる。食べる時間を逆算して用意しておけば、ちょうどおいしい食べ頃に。朝の調理は8時から始めればよくなり、必要人数も10人から2人へ。浮いた早朝の人件費を時給アップにまわしたことで、働く人たちのモチベーションアップにもつながった。特殊冷凍テクノロジーは、お弁当の質向上だけでなく、働き方にも大きなインパクトを与えたのだ。

独自開発した特殊冷凍機『アートロックフリーザー』
2022年8月には「第26回業務用加工食品ヒット賞/外食産業貢献賞」(主催:日本食糧新聞社、後援:農林水産省)を受賞した

生産者と料理店の橋渡しも。
加工ノウハウを提供して
新鮮な食材をワープさせる

漁港や農村など、地方の産地には資源はあるが、加工ノウハウがないという問題もある。

「たとえば気候の変化によって、北海道でブリが揚がるようになった。日本海では寒ブリとしてしっかり値段がついているけれど、北海道ではこれをどう売っていいかわからないとなる。旬だとキロ何千、何万円と高値がつく寒ブリが、ちょっと時期が違うだけでキロ100円など価格の桁から全く変わってしまうんです。
そういった食材に監修者をつけて、現地での加工方法をレクチャーする。もしくは現地で内臓の無駄なものだけをとって捨てて、冷凍してそれを別の場所へ送って加工して使ってもらう。そういった流れを作ることで、出荷時の商品単価を上げるお手伝いもしています。」

特殊冷凍で世界を変える。
自分にしかできない
仕事がしたかった。

木下さんはそもそもなぜ、特殊冷凍に目を付けたのだろうか。

「もともと家系が70年続く老舗の氷屋で。祖父の時代に氷屋から冷凍機器を扱う会社になり、その三代目になるはずでした。技術者および施工管理技士としてやっていましたが、電熱業界は右肩上がりの業界でもないし。このまま、父の会社を継いで自分自身、本当によかったんだっけ、という思いを抱くようになってしまって。」

父親の会社に専務で入り、20代はがむしゃらに働いた。「信頼される仕事」を自身のテーマに仕事に邁進し、会社の売り上げを数十倍にも伸ばしたという。しかし30代に入り、父のやりたいことと、自身のやりたいことに乖離が生まれ始めた。

「30代に入ってすぐ、海外に自分探しの旅に出て、ベトナム、タイ、マレーシアなどを巡りました。」そこで出会ったのが、起業のきっかけになる“マンゴスチン”だった。

「あまりにおいしくてびっくりして。東南アジアの屋台には、新鮮なフルーツが山積みでした。でも、鮮度が落ちるとあたりまえのように捨てられる。フルーツのおいしさと、そのもったいなさと、そこで働く貧しい人たちの姿と。全てに衝撃を受けました。」

新鮮なフルーツをいつでもどこでも食べられるようにして、廃棄をやめる代わりに、そこで働く人たちの対価にしてあげられたら。無駄になっているものに価値を与える、そんなイノベーションを興せたら……。

自身がずっと携わってきた電熱業界が、もしかしたら新しい形に役立っていけるかもしれないと考えたことが、デイブレイクの創業につながった。自分にしかできないことをやりたい。社会から尊敬されるようなことをやりたい。東南アジアで感銘を受けたマンゴスチンが、ヒントを探し求めていた木下さんの背中を押した。

「目指すのは新しい食の体験や感動の創造。極論、冷凍だけがその手法とは思ってはいません」と話す

点と点が線になったのが
フローズンフルーツの事業。
大事な仲間も集ってくれた

東南アジアの旅で、心に着火した木下さんは、2013年に株式会社デイブレイクを創業。構想を温め2018年に『HenoHeno』(ハワイ語で「愛らしく」という意味)と名付けたフローズンフルーツのサービスを立ち上げた。

自ら日本の農家を巡ること300軒。産地で困っていること、無駄になっているものはないか、などを聞いて回った。そこで見えてきたのは全国各地、日本でも食材が大量に廃棄されているという現実だった。日本の食材ロスは、産地でもだいたい2~3割はある。そこで、生産者からデイブレイクがある程度適正な価格で果物を買い取って、冷凍加工し、フローズンフルーツにして、提携している企業の福利厚生サービスとしてB to Eで提供した。それがHenoHeno事業だ。

現在、この事業はコロナの影響もあり閉じたが、その時に得たノウハウをもとに『冷凍シェアリング』のサービスを開始。1機400万円ほどする冷凍機を買えない生産者も全国にはたくさんいる。そのため、各地域で複数の生産者の方で冷凍機をシェアできるようにした。それを使って、石垣島ではフローズンにしたマンゴーやパイナップルを空港や港で販売したり、通販やふるさと納税で全国に流通させたりしている。

「HenoHeno事業は、僕がずっと思い描いてきたことが、点と点が線になって、円になった事業です。世の中は、ただただ利益を追求すれば満足する時代ではなくなってきていると思います。これからは社会課題の解決をしていかないといけない。それを形にできました。」

理念に共感してたくさんの仲間が集ってきてくれたことも大きな財産になったと、木下さんは言う。「この時に集まってくれたメンバーが今、デイブレイクの役員になってくれています。」

「完熟したいちばん美味しい状態で食べてほしい」という全国の生産者の思いから生まれたフローズンフルーツ

冷凍機器の比較事業を経て
自らがメーカーに。
商品開発のラボも開設

冷凍業界に大きなイノベーションを巻き起こしているデイブレイクだが、その道のりは平坦なものではなかった。木下さんが起業して最初に立ち上げたのは冷凍機器の比較検討サイト。メーカー各社の商品を比べ、顧客に最適なものを提案した。

業界では反発もあった。「特殊冷凍機器の業界は、そもそも小さい業界です。100億円しかない市場の中で、各メーカーがパイ取り合戦をしている状態でした。でも、比較することでA社しか知らなかったクライアントがB社を知るきっかけになる。業界全体を活性化させましょう!と、各社の社長を説得に行きました。」

「最終的にはみなさんに契約していただいて。説明したら、面白いかもしれないね、たしかにいがみあっていたら市場は大きくならないよねと。」

そうしてデイブレイクには、顧客から冷凍機器に求める声が直接たくさん届くようになった。しかし個社に、「今、こんな技術が求められています」と提案しても、希望のものを作ってもらえないことが続いた。顧客が望んでいる冷凍技術を即座に形にしていくため、木下さんは当初は想定していなかった、デイブレイクで自ら機器を開発する決断をする。そこで生まれたのが、2021年に販売を開始した特殊冷凍機『アートロックフリーザー』だ。

実現したのは、「やさしい風で隅々まで食材を優しく包むことで、庫内偏差をなくす」という冷凍法。やさしくウエッティな風で冷凍することで食材のフワッと感を残し、これまで不可能とされてきた刺身や天ぷらさえも味を損なわずに冷凍することが可能になった。

木下さん念願のラボチームも開設した。顧客の生の声と、社内の研究データを集めて、個社ごとに最適な機器そしてレシピの開発に反映していく。また、冷凍機器を購入してくれた生産者や加工業者、レストランのためのオープンイノベーションの場として、『デイブレイクファミリー会』も発足。この会を通して、前出の魚の加工やお弁当の事例も生まれた。デイブレイクが間に立つことで、新たなビジネスが次々と生まれ、育っている。

自社内のキッチンにて。木下さんのもとでは、若い社員たちが思いを持って日々働いている

できることを増やすため、
1兆円企業を目指す。
座組を組んで世界で勝つ

最後に躍進を続けるデイブレイクの今後の展望を聞いた。

「目指すは、一兆円企業。お金の話をするのはあんまり好きではなかったのですが、お金があればできることが世の中にはたくさんある。誰かを幸せにするために、サステイナブルであるために、社会課題の解決と経済合理性との両立は不可欠です。」

「今、日本のIT企業で、世界で勝っているところってないですよね。でも、冷凍業界だったらテクノロジーで世界に勝てる。1カ国のマーケットで100億円くらいの国は世界で結構あります。また、食材に広げれば世界に700兆円のマーケットがある。今はグローバルに挑戦するための通過点です。」

フードロスに世の中の関心が寄せられはじめているが、それ以上に今、「生産者がいなくなってしまうことに危機感をもっている」と、木下さんは語る。生産者がいなくなると、「今、当たり前に食べているものが、100年後に食べられなくなってしまう」というのだ。

地方の人口減少とともに一次産業は担い手が足りず、経営も苦しくなってきている。この国の食料自給率の向上のためにも、これからを担う若い世代の生産者を次世代のソリューションで支援していく必要がある。全世界で食料不足がこれから大きな問題にもなってくる。特殊冷凍テクノロジーの切り開く未来は、これからの人類の“希望の光”なのかも知れない。

「冷凍ソリューション事業で100億ダラーを生んで、社会問題を解決したい」と語る木下さん

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 信頼こそが対価
  • ラクな方よりキツイ方を選ぶ
  • 原点を忘れない
  • 希釈させない
  • 本質を解く

PROFILE

木下 昌之さん Masayuki Kinoshita
デイブレイク株式会社 代表取締役

70年続く老舗冷凍設備会社の3代目として親の会社に勤める傍ら自分にしかできないビジネスを模索。30歳の東南アジアへの自分探しの旅で露店に並ぶ大量のフルーツが廃棄される実情を知り、フードロスへの問題意識に火が付く。2013年7月に特殊冷凍テクノロジー×ITを軸に、国内唯一の特殊冷凍機の専門商社として株式会社デイブレイクを創業。特殊冷凍の技術をコアに、食品流通業界にイノベーションを巻き起こしている。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/雨森希紀 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #食
  • #地域活性
  • #サーキュラーエコノミー
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