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2022.10.17

あじつぎ(味継)プロジェクトレポートVol.2

【食ビジネスのプロ座談会】価値ある“味”のバトンをどう次世代へ受け継ぐか?

忘れられない思い出の味――特に地方でお店が廃業するなどして絶えつつあるおいしさを次世代へと受け継いでいくためのプロジェクト、「あじつぎ(味継)」。どんな事業承継の仕組みがあれば、大切な食文化は残していけるのか? 何が成功の鍵になるのか?

食にまつわるビジネスを手がけた経験のあるプロフェッショナルたちが集まり、ディスカッション。リーダーの佃さんのプレゼン後に、それぞれが自由闊達にアイデアを出し合った様子をレポートします!

目次

話し手

佃 慎一郎

ティー 代表取締役

竹内 崇也

Q-inks 代表取締役

與良 だいち

合同会社だいち 代表

小昏 雄介

マネジメントエージェント 代表取締役

大塚 仁志

マネジメントエージェント コンサルタント

松本 裕代

NODE コンサルタント

今までなかった、ライトな事業承継の提案

與良: 僕、実は10年ぐらい前に、企業内の後継者育成と事業マッチングをやっていたことがあるんです。その時に思ったのが、「継ぐ」ってプレッシャーが結構あるんですよね。親子であれば継がざるを得ないという義務感で継げるけど、他人だと覚悟がいる。一生これでやっていくんだぐらいの気持ちがないと、地方移住も含めてできない。
だから、もっとライトな感じで、若い人が2年限定で継げる、みたいな事業承継のプラットフォームがつくれたら面白いなと思いました。

小昏: 僕も本当、同じ感想で。地方の小さな飲食店って月の利益20万円みたいな世界だと思うんですよ。でもお店1軒引き継ぐのに1,000万円はまず切らない。1,000万円以上の投資をして20万円しか儲からないお店を引き継ぐってなかなかできなくて。
若者の中には、田舎で自由に働きたい人は意外にいると思うんですけど、彼らに今、「人生かけてこの店を引き継ぎなさい」とは言えないなと思いました。

小昏さんは飲食系企業に勤め、スープカレー店のフランチャイズ展開を指揮した経験を持つ

與良: だからこそ、ライトな事業承継プラットフォーム。

小昏: それは強いと思います。

佃 : あまりライトな事業承継って考えていなかったけど、ハードルが下がるから手を挙げてくれる人が増えるかもしれないですね。
コロナ禍でリモートワークができるようになって、都市圏から地方へ移住の流れがありますよね。だけど、現地に仕事がないのに移住って本当に成立するのかなって僕は疑問にも思うんですよ。地産地消じゃないけど、現地に仕事があって移住・半移住するのがいいんじゃないかなって。それで本当に残りたければ残ればいいし、残らないとしても、1回引き継いだものはまた誰かに引き継げるだろうという気持ちは僕にはある。

松本: 以前、友だちが離島に引っ越したんですよね。そこでやっているのが、漁師と民宿兼カフェ。もう帰ってこないんだろうなって思っていたんです。でも、人間関係に溶け込めないとかで、好きなことやりに離島に行ったはずなのに、もう帰ってきたいって。

佃 : ある、それは絶対ある。

ディスカッションの場は、リーダーの佃さんのプレゼンテーションから始まった

若者コミュニティとの提携で広がる可能性

竹内: マッチングしたら面白いかなと思ったのが、N高(学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校)の話。N高は私立の通信制高校で、リモートで勉強ができて、いろんな新しい教育が体験できて、若者が自分なりのやりがいを見つけてアクティブになれる学校なんです。ちょうどこの前、卒業後に彼らがもっと活躍できる場を世の中で提供できたらいいなと関係者と話していて。

佃 : なるほど。提携でやっていく。

竹内: そうそう。もし2〜3年やって合わないと思った時に戻れるか、みたいな話も、母集団があれば別の人を送るとか、対応も柔軟にできるかなと思って。

佃 : 確かに。僕からすると、事業承継されなきゃいけない案件はいっぱいある。で、それにお金を出そうという人たちもいる。だけど、それを引き継ごうと思う人が足りない。やっぱり、どうやったら事業承継をやりたい人をコミュニティ化できるのかってところですね。

竹内: そこはブランディングだと思うんだよね。たとえば僕の大学のサークルの後輩が和菓子屋をやっていて、ニューヨークで和菓子ショーをやったり、シンガポールに出店したりして海外に仕掛けている。そういうやり方を教育して、たとえば昔はただのゲームだった「eスポーツ」が憧れの仕事になったように、食文化を継ぐのが格好いい、みたいなブランドをつくれたら、もしかすると仕組みとしてどんどん動かせる可能性もあるのかなって。

竹内さんは、食べログのネット予約拡大や新規事業立ち上げを推進してきた立役者

與良: 既にあるコミュニティと連携するのはありですよね。僕の知っているところでも、たとえばNPO法人クロスフィールズは、「留職(りゅうしょく)」といって、要は所属企業から留学的に社会課題に取り組むNGOやスタートアップに数カ月にわたって飛び込むプログラムをやっています。あと、僕は「社会起業大学」というビジネススクールを出ているんですけど、そこは卒業してから自分で起業する人が多いんですよ。

佃 : そういうコミュニティにこの話を持っていったときに、新たな問題点も見つかるだろうし、きっと可能性も見えてくるだろうし。

與良: そうそう、それで移住の可能性がある当事者が1人でもいれば、もっとクリティカルな意見が出てくるだろうし。

佃 : 僕は、ものづくりをやる事業主であることは、自分の人生を豊かにしてくれると思っているんです。それは僕自身が会社をやってきた中での最大の学び。でも、いきなりゼロから起業して、今の仕事で得ているお金をすべて捨てられるかといったら厳しい。
自分にとって事業主になるという経験がすごく大きかったからこそ、できるだけリスクのないかたちで、その入り口の扉を開くお手伝いをしたい気持ちはありますね。

大塚: いいですね。でも僕、今26歳なんですけど、収入はそこまで高く求めてないけど、自分の好きなことで生活していける姿がまだ正直イメージが湧かなくて。となったときに、このプロジェクトが進む中で、まず1人でもモデルケースを輩出するというところをしっかりやってみるのも一つの手かなと思いました。

佃 : 確かにね。ゼロとイチは大違いってね。

大塚: そのときは、第1号は僕かな(笑)。

全員: おー!!

大塚さんは大手飲食チェーンでエリアマネージャーを務めた後、現在は小昏さんのもとで働く

継続性あるビジネスモデルにリデザインして託す

松本: 皆さんに伺ってみたいんですけど、もし仮にやる気やポテンシャルある人が集まったとして、皆さんだったらなんて説得します? このままではなくなってしまう食を継ぐと何がいいよって。

Well-living Lab事務局からは、ネイルサロン開業の経験を持つ松本さんが参加

與良: 僕、「2、3年やったらマジおもろいよ」って言いますね。それなら言えると思います。ずっとはしんどいだろうけど、って。

竹内: でも、それは今あるものを正として継いでもらうって話だからですよね。俺、今のものをプラスアルファに仕立て上げて継いでもらうのがいいと思うんだよね。さっきの和菓子だったら、グローバルのマーケットでファンを付けていったらインバウンドが来るとか、モデルをリデザインして、もっと可能性を広げてあげる。誰かがやりたいなと思うぐらい魅力的に仕立てることをセットで考えないといけない気はするかな。

佃 : 僕はまず今回のターゲットは飲食店ではなく、食の製造小売業だと思っていたんです。地方の製造小売は、まだECもやってないし、ブランディングも十分じゃなかったりするところが多いんですね。

竹内: ストーリーがあれば、よさはちゃんと伝わる。今はECのほうが伝えやすくて、ファンがつきやすいところはあるよね。

佃 : 本当そうなんですよ。

與良: 僕の知り合いのご実家が和菓子の最中をつくっていて、インスタグラムをその娘さんが始めただけで売上3倍になったそうです。

佃 : だからスタートは製造小売り。大がかりな工場のようなお店だと厳しいけど、1店舗で減価償却も終わっていて……となれば、事業承継に必要な費用もさほど大きくはないので、手が届きやすいですし。かつ、ノウハウは引き継ぎにくいけれど、モノであれば引き継ぎやすい。

大塚:でも、事業承継の課題を抱えている企業ほど、ECやオンライン発信に前向きじゃないんですよね。
もし、従業員がいるのであれば、従業員の方が事業承継したいと言ってくれるような空気感をつくれたらな、と思ったりもしました。そこをうまくサポートするのもありかなと。

佃 : 確かに。それが実は王道。地元の信用金庫さんや銀行さんがやろうとしているのもそれで。お金もつくし、一番スムーズと言われています。

竹内: ただそれだと、仕組みにするのは難しいなって正直思う。飲食店も食品製造業もだけど、俺はモデルを変えたほうがいいと思う。
たとえば飲食店だと、今はみんな「食べログ」とかで告知して、新しいお客さんに来てもらおうとする。だけど、常連さんだけで回っているお店のほうが本来あるべき姿に思えるんだよね。ファンがコミュニティになるような仕組みをビルトインしてあげれば、店主が辞めようと思ったときに、みんなが手伝える。クラウドファンディングでお金を出す人もいるかもしれないし、自分が継ぐと言う人もいるかもしれないし。
事業承継するときには今のモデルを受け継ぐんじゃなくて、そこでもっと再生可能な、継続性のあるモデルをつくっていけるといいんじゃないかな。

後継者コミュニティをみんなで支える仕組み

松本: 潰れそうで美味しいものを出しているお店って、どれくらいあって、どれだけ見つけられるんだろうって考えてしまいます。サーチファンド(注1)のサーチャーがやることは多いなと。

佃さんの冒頭プレゼン資料より
注1)サーチファンドとは、将来有望な若者(サーチャー)が自ら社長になりたい譲渡企業を発掘して、ファンドの出資支援のもとで経営をする仕組み

小昏: 潰れそうな地方のお店の情報って入ってこなくないですか、おそらく情報が地銀やM&Aセンターとかで閉じちゃっていて。
後継者を探している情報をまずマーケットに出してほしいし、世の中にオープンにしてほしい。そしてプラットフォームに、バリューを上げるアドバイスができる人たちもいて、元気な若者たちからやってみようって人が出てきたら、うまくいくんじゃないかなと思います。

佃 : そうですね。その意味では、M&Aセンターの情報を全部見せてもらって、食文化でソーシングして別のくくりをつくってみるというのも一つの手かもしれない。

竹内: サーチャーが出てくるのってやっぱり、お金が回る案件だから、承継案件全体の一番上澄みのほうだと思うんだよね。だけど、本来やりがいを感じるものって人それぞれだから。儲かって見えるところだけじゃなくて、歴史や伝統文化に関わるもので、自分がいることでそれが存在し続けるということに対して価値を見出す人もいる。
今回のプロジェクトで重視されるのは、きっと後者のエモーショナルなほうだよね。

與良: ですね。でもお金にならないから、そうなるとボランタリー精神もたぶん出てくると思うので、ベーシックインカム的なものが仕組みの中にあって、参加したら月10万円もらえるとか、そういう補償があると安心して飛び込めるかもしれないですね。
それこそ、あじつぎから生まれた店舗を束ねて、ECはまとめてやってあげてもいいし。

佃 : 1店舗ずつだけじゃなくて、まとめて我々のグループとして?

與良: そうです。東北に「MAKOTO」っていうベンチャーキャピタルがあるんですけど、50社ぐらいグループ参画していて、実は資本関係ないんですよ。でもみんなが束になって、震災後の東北のカンパニーを盛り上げている。グループみんなの商品を販売する窓口もある。そこに近いイメージを持ちました。

参加したくなる、残したい味のストーリーを集めて

佃 : ここまで話してきて、僕が結果、残したいのはやっぱり「味」なんだよね。
そういう意味では、リブランディングは目的ではなくて手段。だけど、経済的な合理性がなかったら、味は残れないだろうなというふうに考えている。

竹内: 刀鍛冶とか紙漉きとか、職人的な仕事はみんな一緒だよね。唯一、京都のここでしかつくれない人が引退してしまうから、その伝統文化がなくなっちゃうみたいな事例はたくさんある。たまたま今回は、食や味に対してフォーカスしていますというだけで。

佃 : そうそう。だから、まず案件があって、その案件がこのまま20年も30年も経済的にキャッシュを生み続けるためには、どういうかたちが最適かという議論がある。

與良: 僕、少し前まで「ハコニワファーム」という養鶏場の共同経営をやってたんです。
もともと養鶏場があって、そこのお手伝いしている福祉の就労支援事業所がニワトリの世話をしていたけど、その養鶏場が潰れちゃったんですね。そうしたら20人の障害者の仕事がなくなった。それで、福祉事業所が悩んだ末に、自分たちで養鶏場をつくるわけです。以前は狭いケージで飼われていたニワトリを、広いところで幸せに飼ってあげたいということで、無謀な設備投資をしながら、20人ぶんの仕事をつくるわけです。

養鶏場のハコニワファームや、極上たまごかけごはん専門店を経営してきた與良さん

それで一流の卵をつくるんだということで、残留農薬ゼロの餌とかを使って最高級の卵をつくるわけですけど、売れないんですよ、1個10円、20円の卵が。それで、僕に相談がきて。最終的には、僕が半年間の事業支援をした結果、卵1個300円で結構マーケットをつくれた。

佃 : すごいね!

與良: なぜ300円の卵をつくるかというと、「障害者がつくるものは安いもの」という固定観念を打ち破りたかったから。僕は障害者の皆さんに働く喜びや仕事への誇りを持ってほしい思いでジョインしたわけです。当初のお給料は卵を月に100個とかで。

松本: 卵100個!(笑)

與良: この卵の取り組み、僕はこの物語に参加する人を増やすことだと思ってやっていたんです。この「あじつぎ」プロジェクトでも、大切なのはストーリーに主人公として参加してもらうことなんじゃないかな。

佃 : 確かに。その食とストーリーの出会い方のうちの一つに事業承継という手段があるということですよね。サーチャーの役割はストーリーを見つけてくることで。

與良: そうそう。それで、サーチャーでありストーリーテラーは、大企業に勤める人たちが副業でやってもいいと思うんですよ。

松本: それは、面白そうですね。

與良: 大事なのは、どれだけ魅力的なストーリーが並ぶか。それで、誰かがそこにちょっと人生かけようかなと思えることかもしれないですね。

最後は全員で記念撮影。座談会後もあじつぎの話題は尽きなかった

PROFILE

佃 慎一郎さん
ティー 代表取締役/NODE 客員ディレクター

アクセンチュアに新卒入社。その後、株式会社アイスタイル取締役として@cosmeの創業に携わる。株式会社PPIH(ドン•キホーテ等運営) CDOなどを経て、現職。株式会社ティーではこれまでの事業経験を活かしハンズオン型の投資事業を行い、旭川市の食料品小売事業など複数の会社に投資、伴走型経営を行っている。

竹内 崇也さん
Q-inks 代表取締役

伊藤忠商事に新卒入社。その後、アクセンチュア等を経てデジタルガレージに参画、twitterの日本展開/普及を推進する。カカクコムに参画し、上級執行役員食べログビジネス本部兼メディア本部長として、食べログのネット予約拡大や新規事業立ち上げを推進。最先端のtoCネットビジネス領域全般に深い知見を持つ。

與良 だいちさん
合同会社だいち 代表/チャクラグラス 創始者

伊藤忠商事、アクセンチュア戦略グループ、IT企業役員等を経て、複数の会社を創業。「しあわせなニワトリが産んだしあわせなたまご」を育てるハコニワファームを共同経営、極上卵かけごはんのお店を東京三宿に仕掛けるなど、数多くの事業を手掛ける。著書「他人の思考の9割は変えられる」(マイナビ)

小昏 雄介さん
マネジメントエージェント 代表取締役

アクセンチュアへ入社し、数多くのプロジェクトを歴任後、外食支援ベンチャーの株式会社リンク・ワンへ転職。飲食業態のフランチャイズ展開などに携わった後、上場企業の管理部の責任者として、管理業務全般を統括。2010年にマネージメントエージェントを設立。 管理部門のコンサルを行っている。

大塚 仁志さん
マネジメントエージェント コンサルタント

飲食グループ企業で飲食事業部内エリアマネージャーを務め、新店立ち上げ時の人材育成、研修を担当する。その後、自己資本にて店舗間借りを用いた飲食イベントの運営プロデューサーを経験。2019年から中小企業コンサルティングを始め、2021年にマネジメントエージェント社へ入社、現職。

松本 裕代さん
NODE コンサルタント

外資系コンサルを退社後、自宅でネイルサロンを開業、舞台役者などを経験し、企業研修講師に。2022年より現職。コンサルタント業務と並行して、「Well-living Lab」の事務局として熱量のあるプロジェクトの立ち上げサポートを行っている。趣味と一言で片付けるには熱心すぎる舞台・お笑いのファン。

文・編集/丸山央里絵 撮影/雨森希紀

KEYWORD
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