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INTERVIEW今、注目のウェルリビングの実践者
2024.3.4

リユーザブル容器を浸透させて、
サステナビリティへの取り組みが
あたりまえになる社会にしていきたい

中村周太さん Shuta Nakamura
株式会社Circloop 代表取締役
中村周太さん Shuta Nakamura
株式会社Circloop 代表取締役

サステナビリティをあたりまえにしていく。その第一歩として、2022年10月にリユーザブル容器のシェアリングサービスをはじめた株式会社Circloopの中村周太さんを取材した。「ユーザーの方々が、気づいたら循環型社会に貢献していたという状態を目指したい。」そう語る中村さんが思い描くのは、今は捨てられている物が、人々の生活の中で当たり前に循環している世界だった。

サステナビリティをあたりまえにしていく。その第一歩として、2022年10月にリユーザブル容器のシェアリングサービスをはじめた株式会社Circloopの中村周太さんを取材した。「ユーザーの方々が、気づいたら循環型社会に貢献していたという状態を目指したい。」そう語る中村さんが思い描くのは、今は捨てられている物が、人々の生活の中で当たり前に循環している世界だった。

飲食店へのヒアリングで知った
大量にカップなどの容器が
「捨てられ続けている世界」

マーケティングリサーチ・データ分析を行う会社勤めを経て、2022年に独立した中村さんは、フリーランスとして仕事を請け負う傍ら、友人たちと新規ビジネスの芽を探していた。友人と最初に目を付けたのは、飲食店の使い捨てカップに広告を入れ、それ自体を媒体にすることはできないかというビジネスだった。企業から広告出稿料を得ることで、ユーザーが無料で飲み物を飲めるような仕組みを作ることを考えた。そのために飲食店へのヒアリングを重ねていたところ、中村さんはカップをはじめとしたテイクアウト容器があまりに大量に捨てられている事実を知って衝撃を受ける。

「飲食店には、売れた後の食べ物(フードロス)のことは気にしても、容器のその後のことまで気にされている方はほとんどいらっしゃらないかと思います。その結果、本当に大量の容器が廃棄されている、その事実を目の当たりにし、どうにかできないかという思いがフツフツと湧いてきました」と、中村さんはいう。

「2022年4月に日本でプラスチック資源循環促進法が施行されました。プラスチック製品の設計から販売、そして廃棄物の処理に至るまで資源の循環の取り組みを促進するための新たな法律です。先行するドイツでは、テイクアウトの容器にリユース容器を選択肢として提供することが課せられている。その流れはいずれ日本にもくるはず。その時に、リユースサービスをプラットフォーム的に広く提供できていれば、非常に求められるサービス提供者になれるのではないかと考えました。」

使い捨てのプラスチックや紙カップの使い道に着目し、リサーチを重ねた結果、中村さんが思いもよらず開くことになったのは「循環型社会づくり」への扉だった。

今までのキャリアでいうと、サステナビリティの仕事とは無縁でした。でも、日々大量の容器が捨てられている事実を目の当たりにし、20年後、30年後のことを考えたら今、取り組むべきだと感じたんです

東京都環境公社への
応募をきっかけに
事業が形になっていった

友人はそのまま広告出稿モデルのビジネス検討を進め、中村さんはそこから離れてリユーザブル容器導入のためのビジネスモデルの検討をはじめた。そんな中、中村さんは、公益財団法人東京都環境公社(以下、環境公社)が手掛ける「サーキュラーエコノミーの実現に向けたモデル事業」の公募を目にする。これは、東京都が「2050年CO2排出実質ゼロ」を実現するために、環境公社と共同して、使い捨てプラスチックの削減等に取り組む事業者を募集するものだった。

応募した「オフィスビルの従業員向けに、使い捨て容器に代わり、繰り返し使えるリユース容器で弁当、ドリンクを販売し、回収した容器をシェアレストランの空き時間で洗浄後、再度飲食店等に配送する」リユース容器導入の実証事業は、2022年10月に採択された。

「まだ法人化する前に採択されて。急いで法人化し、実証実験をスタートさせました」と、中村さん。

独立前に勤めていたKDDIの関連会社をはじめ、いくつかの会社に協力を仰ぎ、実証実験を行った。その結果を受け、当初は弁当箱もと考えていたが、弁当は油汚れも多く形状もさまざま。オペレーションのシンプルさも含め、まずは、コーヒーカップに絞り事業化していくことや、一般消費者ではなく事業者を対象として事業をスタートしていくことなどを決めた。

Circloopを導入しているオフィスのカフェで飲み物を注文すると、スタッフがCircloopのリユーザブルカップにコーヒーを注いで渡してくれる

現在の提携先は3社。
自身でカップを回収しての
スモールスタート

「現在、サービス提供している会社は3社になります。都内のオフィスビル内のカフェ2社と、コワーキングスペース1社です。リユーザブルカップは、我々自身で回収・配送を行っています。洗浄は業務提携している居酒屋のアイドルタイムを活用して、業務用食洗機を使って洗っています。まずは最低限ではじめましたが、確実にサービスニーズがあると実感し、今年の3月から洗浄の専用拠点を稼働させます。」

2023年5月にスモールスタートを切った中村さんのビジネスは、すでに次のフェーズに向けて動き出している。

「回収しているリユーザブルカップは今、1日400個程度です。これが1日3000個になるとサービス単体の収益は見込めそうで、1日4000個になるとサービスとして十分成立していく計画です。」

外資系企業ではすでにリユースに切り替えているところも多いが、日本企業はまだまだ。一方で、オフィスのフリーアドレス化など、働く人々の環境変化に伴い、使い捨てカップの使用は減っておらず、むしろ増えている可能性もあると、中村さんは分析する。

「先進的なオフィスだと、昔はマイカップを洗って保管してあった給湯室のような場所がなかったり、個人のロッカーもなかったり。そうなると必然的にコーヒー等を飲むためのカップが都度必要になる。それを捨て続けるカップではなく、リユーザブルカップに置き換えていくことで自然と循環型社会に向かっていくと思うのです。」

中村さんは現在、年間100万個のリユーザブルカップの回収を目指している。その数だけ、カップが捨てられず循環していく未来へとつながっていく。

使用済みカップはカフェフロアの返却スタンドへ戻すほか、執務フロアに設置されているスタンドに返却することもできる

なめらかな導線を重視。
「気づいたらやっていた」
という状態を目指したい

「『リユーザブルカップを使いたい』という人って、僕、いないと思うんです。みんなコーヒーやお茶が飲みたいだけ。その手段として紙コップがあったり、プラカップがあったりする。」

そう語る中村さんは、今日も大量のカップを回収し、都内を駆け巡る。ユーザーのなめらかな導線を意識し、1社の中でもカフェのフロアのほかに、執務フロアにもカップの回収ポイントを設けた。カフェのフロアまでカップを返しに行くのがユーザーにとっては億劫になるという分析結果を反映してのことだ。

「よくこういった環境問題へのアプローチであるのが、まず意識しましょう、次に環境問題について考えましょう、そこから自分が何をできるか考えましょう、さぁ実際に行動しましょう、というような流れだと思います。でも、僕が実現したいのはこの逆のアプローチ。『まず、行動して、そこから意識につなげる』という流れです」と、中村さん。

「普段の職場の中でリユーザブルカップを使っていたら、『このオフィスでは年間これだけのゴミの削減につながりました』というお知らせが届く。特に意識していなかったけれど、自分も環境によいことをやっていたんだな、とそこで気づく。そんな反対の流れでもよいと思うのです。そのための仕組みづくりをしていきたい。」

今、日本ではサステナビリティへの取り組みは、一部の環境への意識の高い人々による活動とも捉えられがちだ。中村さんは、そうではなく、日々生活をする人々が当たり前にする行動が、自然と循環型社会システムに組み込まれている状態を作り出そうとしている。

みんなが「サステナビリティに対する取り組みを当たり前に行っている。」中村さんはCircloopを、そんな社会にしていくことを後押しする会社にしていきたいと話してくれた(Image by Jason Goh from Pixabay)

カップがなくなった。
それだけで目に見えて
ゴミの量が減った

Circloopのサービスを実際に導入している、ある地方銀行内のカフェの店長にも話を聞いた。

「リユーザブルカップの利用を通じて、自分たちも環境への配慮に貢献できているんだと、目に見えて感じられるのは非常に良いと思います。以前は昼のピーク時はゴミが袋から溢れて、清掃員の方が非常に大変そうだったのが、カップがなくなっただけで前ほどパンパンなゴミ袋を持っている光景を目にすることが減りました」と、店長は語る。

「これだけ変わるんだ、というのがわかってから、私自身もあまり使い捨てのものを使わなくなりましたし、従業員も自身のカップを持ってくるなど、意識が良い意味で変わってきているのを実感しています。」

中村さんの行動から意識変化を促すという狙いは、少しずつ、でも確実に浸透している。中村さんに今後の展開についても聞いた。

「現在使っていただいているカップはCircloopのロゴを印字していますが、将来的には導入企業様のサステナビリティのメッセージを入れてもらい、それを従業員が使うというようなサービススタイルも考えています。」

現在は1カップ十数円からの回収を提供しているが、提供内容に合わせてプライシングを変えていきたいと中村さんは考えている。

「単純にリユーザブルカップのサービスです、と話を持っていくと、紙カップとのコスト比較の話になってしまう。そうではなくて、企業のサステナビリティ活動の一環として、資源循環社会の一助として取り組む世界観をお伝えしていけたらと思うんです。」

1日およそ400個の使用済みカップを回収。返却スタンドには大量のカップが戻ってきている

考え方、熱意、能力。
その掛け合わせで、
人生と仕事の結果は変わる

中村さんがKDDIで働いていた時代に感銘を受けた、創業者の稲盛和夫氏の言葉がある。

「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」というものだ。

「考え方」は-100から+100まで、「熱意」と「能力」は0から+100まで。
「人生・仕事の結果」はこれらの掛け算だとしたら、能力がどれだけあっても、熱意が0だったら掛けても0。たとえば能力が20だとしても、熱意が100あれば、+2,000になる。けれど、その考え方が邪悪で-10だったら-20,000にもなり得る。
この考えは、今でも中村さんの大事なフィロソフィーになっているのだという。

「立ち上げたばかりのCircloopは、経営的にいうとまだまだこれからです。自分はこれまで何度か転職も経験し、リサーチやデータ分析のスキルは持っているので、何かしらで食っていけるという自信はあります。その上で、今、小学生である2人の息子たちの未来のために何ができるか。考え方と熱意を正しい方向に使い、自分の持つ能力を最大限に発揮していきたい。」

人の生活導線があたりまえに資源を循環させるサイクルになっている。そんなサステナビリティへの取り組みがあたりまえになるためのサービスを届けていく。それが、十数年の会社員生活を経て身に着けてきたスキルやつながりを活かし、取り組んでいきたい使命なのだと中村さんは語った。

「大きな施設を建てて、一気にサービス導入ということもできなくはないですが、まずは小さく始めて実験を繰り返し、無駄のない確実なサービスに育てていきたい」と、中村さん

Well-living
Rule
実践者たちの
マイルール

  • 人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
  • 動機善なりや、私心なかりしか
  • 多面的に考える
  • ため息をつかない
  • ネガティブなことを言わない

PROFILE

中村周太さん Shuta Nakamura
株式会社Circloop 代表取締役

新卒でマーケティングリサーチ会社である株式会社インテージに入社。POSデータの分析等のデータマーケティングを行う。その後、KDDI株式会社で十数年の経験を積み、独立。データ分析やマーケティングの案件をフリーランスで受ける一方、リユーザブル容器を浸透させるビジネスモデルの着想を得、2022年10月に公益財団法人東京都環境公社の令和4年度サーキュラーエコノミーの実現に向けたモデル事業の採択を受ける。「サステナビリティをあたりまえに」を自身のテーマに、株式会社Circloopを設立。代表を務める。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/鮫島亜希子 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #環境問題
  • #サーキュラーエコノミー
  • #ごみ問題
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