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ACTIVITIES プロジェクト活動
2023.06.30

「サーキュラーエコノミーでビジネスは進化する」レポートVol.1

サステナブルな社会実現に向けて、「サーキュラーエコノミーでビジネスは進化するプロジェクト」始動!

この社会を、すべての人が「活きる」社会へと前進させるための実験である“ウェルリビングプロジェクト”。第3弾として、Well-living Lab事務局長を務める菱木信介さんが立ち上げるプロジェクトのテーマは、「サーキュラーエコノミーでビジネスは進化する」です。

環境問題や持続可能な社会への意識が高まる中、日本の企業でもSDGsの目標達成に向けて、ESGを重視する動きが加速化しています。本質的なサステナビリティを実現していくため、私たちはビジネスや生活の考え方から変えていく必要があります。

そこで、本プロジェクトでは、これからの時代を切り拓くといわれ注目されている「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」を学び、日本の企業や生活者がそれによってどう変わっていけるのかを探求していこうと考えています。
さらに、その上でビジネスがきちんと経済利益を得て持続し、より発展していくためにはどうしたらよいのかについても、ぜひ皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

目次

書き手

菱木信介

Well-living Lab事務局長

「人類存続」の問題と向き合うサーキュラーエコノミー

あるとき、私は環境問題の専門家に次のような問いを投げかけました。

「今、世の中で語られている環境問題は、本質的にどんな問題を解決しようとしているのでしょうか。」

その質問に返ってきた答えはこうです。

「現在、国際機関や各業界のコンソーシアムでの議論の前提は、“人間主体とした環境問題”が前提になっています。人間の経済活動が自然環境に及ぼす影響が大きすぎて、人間がこれからも地球でまともに生活していくためには、地球環境の臨界点を超えないようにしなければならない、ということが前提になっています。」

地球で暮らす人類は80億人を越えて増え続け、2037年には90億人、2080年代には100億人を越えるとされています。もし、気候変動や化学物質汚染などによる環境破壊が今のまま進めば、地球環境は持続可能な臨界点(=プラネットバウンダリー)を越え、生物の多様性は失われ、人類にも多大な犠牲が生まれることは避けられない。
つまり、環境問題は人類にとっての切実な問題、ひと言で言えば「人類存続の問題」でもあるというのです。

「地球のため」というフレーズが先行し、ともすると「キレイごと」や「他人ごと」ととらえられてしまう環境問題ですが、「人類存続の問題」と捉えれば、「自分ごと」にもならざるをえません。それは、地球の多様な生物や環境保全とも合致します。

現在、先進国に住む多くの人は、今起きている環境問題の影響をほとんど受けずに、今この瞬間を幸せに暮らしています。しかし、この先50年後、100年後の未来の人たちは同じような幸せを手にすることができるのでしょうか。答えはおそらく「ノー」です。

環境問題は、「私たちの子孫が、私たちと同じような環境に恵まれ、幸せを掴むことができるのか」という問題でもあるのです。解決するためには、早急にサステナブルな世界を創り上げていかなくてはなりません。

そして、今を生きる我々が幸せに暮らしながら、未来の人々も幸せに暮らせる——そんな環境問題解決の仕組みとして今、注目されているのが「サーキュラーエコノミー」です。

「廃棄物」という言葉がなくなる世界へ向けて

では、サーキュラーエコノミーとはどんな世界なのでしょうか。
上の図はオランダ政府の文書『A Circular Economy in the Netherlands by 2050』に掲載されている図です。現状の世界経済は、図の左の“リニアエコノミー(直線的経済)”か、もしくは中央の救済措置を施した“リユースエコノミー”です。

“リニアエコノミー”とは、モノのジャーニーを考えた時に「(資源を)とって」、「作って」、「使って」、「捨てる」という一方通行の経済のことです。周りを見渡せば多くのモノがそうなっていることが分かると思います。

そこから、「いずれは捨てられる運命だけど、できるものはリサイクルしていこう」という考えから、3R(Reduce、Reuse、Recycle)を意識したのが“リユースエコノミー”です。リデュースは発生抑制、リユースは再利用、リサイクルは再生使用を意味します。(個人的な感覚では、日本の社会ではリサイクルは意識されていても、リデュースやリユースは意識されていない印象です。)

そして、これからは図の右の“サーキュラーエコノミー”の時代といわれています。それはどんな世界なのでしょうか。

端的に他と何が違うかというと、「廃棄」というステップがなくなります。図の黒い文字で「Non-recyclable waste」と書かれた部分がサーキュラーエコノミーには登場しません。商品の製造の段階から、使用後も自社や社会の中で資源が循環していくことを前提に設計・デザインがなされるためです。
つまり、“サーキュラーエコノミー”の世界とは、「廃棄物」が存在しなくなる世界なのです。

サーキュラーエコノミー先進国、アムステルダムへ

世界には環境問題の解決のため、サーキュラーエコノミー化を自治体主導で行っている都市があります。オランダの首都アムステルダムです。

世界中から注目を集めているアムステルダムは、2015年に、2050年時点で完全なサーキュラーエコノミー都市になるべく、10年毎のマイルストーンを設定した『2050年プラン』を公表。現在、本格推進しています。

<2050年プラン>
2030
• 完全に排出ガスを出さない都市を目指す
• 私たちの自治体組織は持続可能である
• 家庭で使用される電力の80%を太陽光と風力エネルギーで発電している
• 原材料の使用を50%削減
• CO2排出量を1990年比で55%削減する
2040
• アムステルダム市はこれ以上天然ガスを使用しない
2050
• アムステルダム市は気候に適応できている
• 私たちは太陽エネルギーを生成するために適切な屋根をすべて使用している
• 私たちは気候中立となる
• アムステルダムはサーキュラー都市となっている

2016年には、“ Amsterdam Circular: Learning by Doing”(アムステルダム サーキュラー:やりながら学ぶ)と“ Circular Innovation Programme”(サーキュラーイノベーションプログラム)を掲げました。前者では自治体主導で20のサーキュラープロジェクトが立ち上がり、後者では、市場関係者と有識機関とが連携し、30のイノベーションプロジェクトが立ち上がっています。

そのように今、アムステルダムでは、自治体、企業、市民が一体となってサーキュラーエコノミーに取り組んでいます。そこで私は2023年5月にアムステルダムに訪問し、実際に何が起きているのかを見てきました。

【アムステルダム視察】視点を変え、モノに新しい命を宿す

アムステルダムは1990年初頭、造船が活発な都市でした。中心地の北にあった造船所は1984年に閉鎖されましたが、今はそのコンテナや倉庫がレストランや美術館になり、船がオフィスに変わっています。

モノは人が「要らないもの」と認識した瞬間に「廃棄物」に変わります。しかし、アムステルダムの人は、それを「要らないもの」として認識せずに、視点を変え、「要るもの」として捉えて新しい価値を、モノの命を与え続けているのです。

そのような思考で大規模なアップサイクルを実現した施設をいくつか訪問してきました。

まず、「Pllek」。コンテナをそのまま改装したレストランです。メニューは少なくとも75%はベジタリアン向け、さらにそのうち25%はヴィーガン向けのメニューで、動物性の食物の削減にも意識して取り組んでいます。

レストランPllekのカウンター
ドラム缶もそのままインテリアとして活用
学校で使っていたような椅子。家具もリユースであることがうかがえます

次に訪問したのが「STRAAT Museum」。同じく巨大倉庫を改装したものですが、その中は巨大空間を最大限利用した壮大なストリートアートの美術館となっていました。
広さ8,000㎡(サッカーコートと同じくらいの大きさ)の場所に、アーティスト150人以上が参加し、160点以上の作品が展示されています。

巨大倉庫だったからこそ叶うアートの世界。人の大きさと比べると作品がとてつもない大きさだとわかります
まさに製作中のアーティストにも遭遇しました

さらに次に訪問したのは「De Ceuvel」。アムステルダムを視察するサステナビリティ関係者が必ず訪れる場所です。17隻の廃船となった船をハウスボートにし、そこをスタートアップのオフィスとして提供。さらに、工業で汚染された土地を再生すべく、植物を植えて緑地化も目指しています(ファイトレメディエーション)。De Ceuvelでは他にもさまざまなサステナビリティの取り組みをしていますが、詳しいご紹介はまたどこかで。

このボート自体が1つのオフィス。周辺に植えられた緑が汚染された土壌を自浄作用により回復させています
入り口付近に設置されたボートオフィスの郵便受け

そして、「De Ceuvel」のある北部の地域から南に10kmほど離れた場所にある「CIRCL」にも行ってきました。ここはメガバンクであるABN AMRO社が、本社の前にサーキュラーエコノミーの思想をふんだんに盛り込んで作った複合施設です。「アーバン・マイニング(Urban Mining)」の考えが取り入れられ、また「取り壊す時のことを考えた建築設計」がなされているのが特徴です。

「アーバン・マイニング」とは、マイニング(資源採掘)をアーバン(都市)で行うという意味です。つまり、遠方から資源をわざわざ輸入せずとも、自分たちの住む都市にある使われなくなったモノをリユース・リサイクルしてそれを資源にしよう、という考え方です。
たとえばCIRCLでは、天井の断熱材には従業員や銀行の取引先から提供された使い古しのジーンズ16,000本が使われていたり、会議室の窓枠を解体する古いオフィスビルから持って来たりなど、「廃棄物になる予定だったモノ」が資材として使われています。

「取り壊す時のことを考えた建築設計」とは、どうやったら施設が取り壊された後にも建材が廃棄物にならないかを、最初から考えた設計のことです。建築設計者は、建材がどうして廃棄物になるかを知っています。再利用しにくいコンクリートや接着剤を使うと、建材は再資源化が難しくなる。そうわかっているので、避けるのです。
たとえば、CIRCLでは、建材として多くの木材が使われています。コンクリートと違って、木材は再利用がしやすく、接着剤を使わずとも金具固定が可能のため、再資源化が容易です。そのため、CIRCLが建物としての役割を終えた後も、建材は他の場所で再び利用できます。

他にも、エレベーターは、施設の解体時を考えて購入ではなくリースの形式をとっています。購入してしまうと、施設の役目が終わったときにエレベーターの行き先がなくなり、廃棄物として処理しなくてはなりません。リースにすることで、エレベーターメーカー(三菱電機)に返却してのリユース、リサイクルが可能になるのです。

サーキュラーエコノミーを意識した複合施設「CIRCL」の外観
天井の断熱材には16,000本の使い終わったジーンズを繊維化して使用
木をベースに建築されたレストラン。廃材となるコンクリートを削減している
木材は地元産のカラマツ材。金具によっていずれ取り外し可能に設計されている

モノの終わりを考えて行動する ~サーキュラーエコノミー思考のススメ

ここまでお伝えしてきた“サーキュラーエコノミー”について、皆さんは何を感じましたか?
アムステルダム視察を通じて、私は、日本の社会も“サーキュラーエコノミー”へと切り替えていく必要があるし、ぜひそう変わっていきたいと強く感じました。

では、オランダ政府のサーキュラーエコノミーの図にある通り、「廃棄」をなくした循環型の経済を回すためにはどうしたらよいのでしょうか。そのために、我々は何を意識して今後行動していけばよいのでしょうか。

答えはシンプルで、今の経済活動に対して、サーキュラーエコノミーになるような「意識」をちょっとだけ加えればいいのだと私は思います。それは「モノの終わりを考えて行動する」意識です。私は、それを、“サーキュラーエコノミー思考”と呼んでいます。

モノの役目が終わった、その先を考える。そして、それを考えた上で、どうやってモノを作るのか(企業)、どんなモノを買うのか(生活者)、どのようにモノを使うのか(生活者)の選択をあらためて行うのです。

既存のビジネスをどうサーキュラーエコノミービジネスにシフトするか

さて、本プロジェクトでは、特に企業の視点からこのテーマを考えてみたいと思っています。

サーキュラーエコノミーモデルの新しいビジネスを生み出すことは大切ですが、私たちがより多く直面するのは、既存のビジネスをどうやってサーキュラーエコノミーモデルにシフトするのかという問いでしょう。
単純にサーキュラーエコノミーモデルに切り替えても、ビジネスがうまくいくとは限りません。特にB2Cビジネスでは、カスタマーは生活者であり、その生活者によってビジネスが成り立っています。サーキュラーエコノミーモデルの導入によって、生活が不便になったり、我慢を強いられたりするような仕組みだと、生活者はついてこず、長期的にはビジネスが続きません。

商品やサービスの顧客価値を下げず、かつ、地球環境もビジネスもサステナブルであるためには、これまでの顧客志向モデルのビジネスノウハウと、これから生み出されていくサーキュラーエコノミー思考よるアイデアをうまく融合していく必要があるのです。

そこで今回、私は「サーキュラーエコノミーでビジネスは進化する」プロジェクトを立ち上げることにしました。どうすれば既存ビジネスをサーキュラーエコノミービジネスにシフトして、より発展させていけるのかを考え、実践していきたいと思っています。

今の提供価値を維持しながら、さらに社会への提供価値も高め、サステナブルな社会を構築していくサーキュラーエコノミービジネス。ぜひ皆さんも一緒に考えてみませんか。

PROFILE

菱木信介さん
Well-living Lab事務局長

埼玉県生まれ。大学院修了後、外資系コンサルティング会社で保険会社を中心としたコンサルティングを行う。複数のコンサルティング会社、生命保険会社を経て、社会価値創造のために起業するもののコロナの影響を受けて廃業。2022年にNODEに参画し、Well-living Lab事務局長として、新たな社会価値創造に挑戦する。

文/菱木信介 編集/丸山央里絵

KEYWORD
  • #サーキュラーエコノミー
  • #環境問題
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